第一話 『出会い』
「……痛ぇ」
左頬の痛みで目が覚めると、ひび割れた石の壁に背を預けていた。痛む頬に触れる。
(腫れてはいるけど、折れてはいない……よな?)
十六年生きてきた中で、成人男性に全力で殴られること――普通は無いはず――などなかったので、怪我の程度がわからない。
「まぁ、一発で気絶したおかげか、他に怪我がないのは不幸中の幸いか……」
無理矢理だが前向きに考える。少なからず混乱はしているが、十分な睡眠(気絶)のおかげで頭は冴えている。とにかく状況を整理しないといけない。
さっきからズキズキと自己主張の激しい左頬をおさえながら、薄暗い周囲を見回す。
――石造りの室内に出入口は鉄格子で鍵付き、部屋の隅には毛布が一枚。通路を挟んだ向かい側には同じような部屋が一つ。左右にのびる通路の先は、ここからでは暗くて見ることができない。
(……うん、確認するまでもなく牢屋の中だな)
手足が自由なのと、見張りの気配がないのは子供だからと油断してのことか、それとも逃がさない自信があるのか。
(どちらにせよ、逃げるための技術も、逃げた後の行き場も無いわけだが……)
せめて見張りの一人でもいてくれれば、自分の今後の処遇などを聞くこと――聞きたくない気もする――ができたかもしれない。
暗い天井を見上げると、思考も暗くなっていく。
「問答無用で死刑……とか、ないよな」
視界が涙で滲む。『まだ』何もしていないから大丈夫のはず……と自分に言い聞かせる。
簡単なお使いだと、観光気分で『この世界』に来たことを、今はとても後悔している。
「……いきなり詰んだかもしれません、――『神様』――」
『ここ』に来るきっかけとなった、あの邂逅を思い出そう――
「こんにちわ。おにいさん」
――として、声を掛けられる。
「……んぅ? こんばんはかな? 変な顔のおにいさん」
――鉄格子の外に、十を少し過ぎたくらいの『ダークエルフの少女』が、ニコニコと満面の笑みで立っていた。