第7話 『カッコつけないロッカーのピコザさん』
ゲームサウンドを担当しているピコザさんは、むかしはアマチュアのロックバンドでギターをひいたり、曲を作ったりしてたそうです。
プロのロックミュージシャンになろうと、小さなライブハウスでがんばってたそうですが、なかまが次々とやめてしまったために、しかたなくバンドを解散してしまったそうです。
ある日、ぼくはピコザさんにこの会社に入った理由をきいてみました。なぜかというと、ぼくはロックをやる動物さんって、すごく『過激』なことが好きなんだと思ってました。だから、どうして『過激』さとは関係ない地味なゲーム会社にはいったのか、すごく興味があったのです。
ピコザさんはこう答えてくれました。
「ここしかなかったから……」
そしてピコザさんは、その見た目からは想像できないやさしい声で、その理由をくわしく説明してくれました。
「オレ、そのころ結婚してたんだ。だから、よめさんや子どものためにちゃんと働かなきゃと思ってね。でも、オレ、音楽しか能がないから、なかなかいい仕事が見つかんなかったんだ。そしたら、ここがゲーム音楽が作れる動物をさがしてたんで、いれさせてもらったというわけさ」
ぼくはピコザさんの、ぶっきらぼうだけど、かざらないしゃべり方が大好きになりました。ロッカーって、みんなカッコつける動物さんたちばかりだと思っていたけど、どうやらそれは間違いだったようです。ぼくはさらに質問を続けました。
「ゲーム音楽は作っていて楽しいですか?」
「もちろん。どんなジャンルだろうが、オレにとってはみな同じ音楽だからね」
「でも、ゲームって3つの音しか出せないから、やりづらくないですか?」
「問題ないよ。メインメロディー、コード、ベース、ドラムのパートをやりくりすれば、3つしか出せなくてもなんとかなるよ。――どうでもいいけど、ブブくんは質問が多いね」
「す、すみません……」
「ははは。気にしなくていいよ。それより、どう? 今夜、オレの知り合いがライブやるんだけど、いっしょに行く?」
「ほんとですか!?」
「ああ、なかまに君のことを紹介するよ」
ぼくは、思わぬピコザさんのおさそいにとてもうれしくなって、ジャンプしながら「ブブブー!」と叫んでしまいました。
ピコザさんは見た目がちょっとこわいですが、本当はとても思いやりのあるやさしい鳥さんだと思いました。あと、音楽を愛する動物さんって、みんなピコザさんみたいなやさしい動物さんが多いみたいですね。だって、その日の夜のライブでお会いしたピコザさんのお友だち全員が、見ず知らずのぼくを、まるで古くからの友だちのようにあたたかく歓迎してくれたんですから。
ピコザさんはライブのうちあげで「ゲームでお金がもうかって、生活に余裕ができたら、またロックの世界にもどりたい」――と、お友だちに話していました。ぼくも同じようなことを考えていたので、ピコザさんの気持ちはよくわかりました。でも、そのあと、なぜかさびしい気持ちになってしまいました。
(へんだなぁ……。どうしてそんな気持ちになったんだろ? ピコザさんは、ただ、ロックにもどりたいと言っただけなのに……)
アパートに帰って、ぼくはその理由を考えました。
(もしかしたら、ぼくはピコザさんにあこがれていたのかも。だから、ロックにもどりたいって聞いたときに、ちょっとさびしく感じちゃったのかもしれないなぁ……)
そんなことを考えながら、ぼくはベッドの中にもぐりこみました。頭の中で今夜のライブで聞いた曲がぼんやりと流れはじめました。ぼくはそれを聞きながら、いつしか眠りについてゆきました。