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森のげえむ屋さん  作者: 平野文鳥
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第6話 『おたくのモグリンさん』

「モグリンって『おたく』なのよ」と、ミーちゃんが言いました。


「おたく? 『おたく』ってなんですか?」とぼくがたずねると、「モグリンみたいなやつのこと」とミーちゃんは答えました。へんな答えだったので、ぼくには意味がわかりませんでした。


 モグリンさんの机の上には、たくさんのアニメキャラクターの人形や、なぜかコーヒーの空き缶のピラミッドがあり、机の下にはたくさんのマンガ雑誌がつまれています。でも、ぜんぜん整理されていないので見た目がとてもきたないです。あと、おフロがキライみたいで、たまに『あまずっぱいニオイ』をさせることがあります。


「モグリン! もっと整理整頓せいりせいとんしてよ! フーーッ!」


 そうじ係りのミーちゃんは、いつも机のまわりをきたなくしているモグリンさんを、毎日のように注意しています。でも、モグリンさんはミーちゃんに注意されると必ず、「キミには整理されてないように見えるかもしれないけどさぁ、これはこれでオイラなりの『秩序ちつじょ』というものがあるんだよ」と、わけのわからない『へ理屈』で返します。それが、さらにミーちゃんをムカつかせているようです。


 モグリンさんは、むかしはマンガの原作を書いたり、アニメのプロダクションでシナリオを書いたりしていたそうですが、どれも長続きしなかったそうです。でも、その経験のせいなのかどうかは知りませんが、とにかくマンガ、アニメ、映画にはとてもくわしく、一度それらに関してしゃべりはじめると、相手が聞いていようがいまいが関係なく早口でしゃべり続けます。

「モグリンさんって、もの知りなんですねぇ」と、ぼくが素直に感心すると、モグリンさんは「いやいや、こんなの知ってるうちには入らないんだよねぇ……」と、まんざらでもない顔で謙遜けんそんします。でも、「なにさ、偉そうに。マンガやアニメ以外の話はぜんぜんできないくせに」と、ミーちゃんがそう言ってバカにすると、モグリンさんはとてもキズついた顔をしてうなだれてしまいます。


 モグリンさんはぼくと同じで、あまりゲームがじょうずではありません。特にアクションゲームが。でも、研究熱心なのでゲームの知識だけはとてもあります。ただ、ぼくがゲームをやっているときに横でゲームの攻略法をペラペラしゃべるのはなんかムカつくので、やめてほしいです。


 モグリンさんは会社ではゲームの企画やデザイン(設計)を担当しています。先日のことです。昼休みにモグリンさんが「感想を聞かせてくれないか」と言いながら、ぼくに企画書を見せてくれました。ぼくはその企画書を読みましたが、設定とストーリーがやたらと長く、かんじんの遊び方の説明が短すぎてよくわかりませんでした。


「う〜ん、ストーリーはおもしろそうですけど……。ごめんなさい。どういう遊び方なのかよくわかりませんでした」と正直に言ったら、「う〜む。この企画の面白さを理解するのは、きみにはまだムリかなぁ〜」と、なんかバカにしたような言いかたをしました。

 すると、それを聞いていたミーちゃんが、「なにがムリなのよ! つまんない企画しか考えられないくせに、そんな言い方はないでしょ!」と、モグリンさんを注意しました。

 すると、モグリンさんはすごくキズついた顔してぼくから企画書を取りあげると、うなだれてトボトボと会社から出て行きました。ぼくは、ちょっとモグリンさんがかわいそうに思えてきました。


「だいじょうぶですか? モグリンさん、キズついちゃったんじゃないですか?」と、ぼくが心配すると、会社のみんなが「だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ」と声をそろえて言いました。


 しばらくして、大きな紙袋をさげたモグリンさんがニコニコしながら帰ってきました。そして机につくやいなや、紙袋から取り出した箱を開け、中から大きなロボットのフィギュアをとりだました。


「ラッキーだよなぁ〜。この宇宙家族ドビンソンの『ロボット・サタデー』は、なかなか手に入らないんだよなぁ〜」と、大きな声でひとりごとを言いました。


(モグリンさんって不思議な動物さんだなぁ。キズついたと思ったら、すぐに立ち直るし、『おたく』ってみんなからバカにされてもあまり気にせず、いつも自分の趣味の世界にひたって楽しそうだし。ちょっとうらやましいかも……)


「次はドビンソンの宇宙船をゲットするぞ〜!」


 モグリンさんは、また大きな声でひとりごとを言いました。


(ぼくもモグリンさんみたいに、夢中になってのめりこめるものがほしいなぁ……)


『ロボット・サタデー』をパソコンの横に大切そうにかざるモグリンさんを見ながら、ぼくはそう思いました。


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