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森のげえむ屋さん  作者: 平野文鳥
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第29話 『パミリーコンピュータ登場!』

「みんな〜っ!! 買ってきたぞぉ〜っ!!」


『ビッケカメラ』のロゴがはいった大きな紙袋を持ったモグリンさんが、勢いよく会社のドアを開けました。


「キャッ♪ 早く、見せて、見せて!」

「売り切れてなくて、よかったですワン!」


 ミーちゃんを先頭に興奮した会社のなかまが、いっせいにモグリンさんのまわりに集まりました。そんなみんなの興奮をしずめるかのように「あわてない、あわてない」と冷静をよそおうモグリンさんでしたが、その言葉とは逆に、買ってきたものを紙袋から取り出すその手はふるえていました。


「ジャジャーン! ついに登場! これがパミリーコンピュータだ!」

「おお〜っ!」


 モグリンさんが取り出したもの。それは、ニンチャン堂から発売された家庭用ゲーム機『パミリーコンピュータ』でした。

 家庭用ゲーム機は以前にも発売されてはいましたが、値段が高く、性能もいまいちでした。しかし、この(略して)パミコンは、ゲームセンターで人気のあった『マルオ兄弟』というゲームがほとんど同じグラフィックで楽しめたり、パソコンとして簡単なプログラムが組めたり、電子銃で射撃ゲームもできたりと、まさに『夢の玉手箱』だったのです。


「ねぇねぇ、ソフトは何を買ってきたの?」


 ミーちゃんがモグリンさんにきくと、モグリンさんは『マルオ兄弟』と『マルオゴルフ』だよ、と答えながらゲームカセットを袋から取り出しました。


「あとは?」

「あとって?」

「このパミコンって、ゲームセンターのゲームが遊べるのが『売り』なんでしょ? 『ゼニウス』や『ルドアーガの塔』は買ってこなかったの?」

「買うもなにも、ショップで売ってたのはニンチャン堂のものばかりだったよ」

「じゃあ、発売の予定は?」

「いや、特に告知もなかった」

「え〜。ニャムコのゲームが遊べると思って期待してたのに〜……」


 ニャムコファンのミーちゃんがちょっとガッカリしていると、社長室からファルコン社長がニコニコしながら出てきました。


「ミーちゃんに、いいニュースがあるぞ」

「え?」

「さっき、ニャムコが来年からパミコンでゲームソフトを発売するって発表したんだ」

「え〜っ! ほんとうですか!?」

「で、最初のゲームは『ゼニウス』。その次が『ルドアーガの塔』らしい」

「キャア〜ッ! やったあ〜!」


 大喜びしてピョンピョンと小おどりするミーちゃんを見ながら、ゼロワンさんが社長にききました。


「その他のメーカーはどうなんでしょうワン? たとえば、あの『マンベーター』や『エレベーターハクション』で有名なダイトーさんとかは?」

「ダイトーも参入を決定したそうだ」

「おお〜っ! ワンワ〜ンッ!」


 ゼロワンさんは大喜びして部屋の中をグルグルとかけまわりました。


「あたしはニンチャン堂のゲームも好きだから、仕事が終わったらパミコンを買いに行くわ。ねぇ、ブブくんもいっしょに行かない?」

「いいですけど、だいじょうぶですかね? もう、売り切れてませんかね?」

「だいじょうぶだと思うけど……」

「いや、たぶん売り切れてるはずだ」


 モグリンさんが、とつぜんクールな表情でキッパリと言いました。


 「さっき『ビッケカメラ』に行った時はもう数台しか残ってなかったから、今から行っても絶望的だろう」

「え〜っ……」

 ぼくとミーちゃんは、ちょっとがっかりしました。

「だいじょうぶ! こんなこともあろうかと……」


 そう言うと、モグリンさんは別の紙袋の中からパミコンを2台出しました。


「もう2台、余分に買っておいたんだ」

「へぇ〜! モグリンにしてはずいぶん気がきくわね。じゃあ、1台、あたしに売ってちょうだい」

「お値段は3割増しとなります。一応、手数料ということで。だって、買ってここまで運んでくるのがタイヘンだったしね。エヘヘ……」

(え〜? モグリンさん、親切心でパミコンを余分に買ってきたんじゃなくて、最初からそれが目的だったの? そういうことしちゃマズイよぉ〜……)


 ぼくはモグリンさんの『せこさ』にあきれながら、ミーちゃんの顔を横目で見ました。


(こわっ!)


 ああ、なんと恐ろしい……。ミーちゃんは今まで見たこともない鬼のような形相になっていたのです。ぼくはビビリました。でも、モグリンさんはぼく以上にビビっていました。


「モグリン……」

「は、はい?」

「あなた、本気で言ってるの? 3割り増しって……」

「え? い、いえ! 冗談ですよ。ジョ〜ダン!」

「それ、笑えない………」


 モグリンさんの額から脂っこい汗がたらたらと流れてきました。


「じゃ、じゃあ、しょーもない冗談を言ってしまったおわびに、1割安くお売りしますよ。エヘヘヘ……」

「え、ホント!? モグリン、ありがとう~♪」

「いえいえ、どういたしまして。トホホホ……」

(ほ〜ら、言ったことじゃない。ガラにもなく『せこい』欲を出すから、そういうことになっちゃうんですよ。モグリンさん)


 ぼくは、うなだれたモグリンさんを見ながら、モグリンさんは絶対悪い事ができない性格なんだろうなぁと、苦笑いしてしまいました。ちなみに、もう1台はぼくが買い取りました。でも、ミーちゃんみたいに1割安くはしてくれませんでした。残念……。


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