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森のげえむ屋さん  作者: 平野文鳥
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第28話 『不良のたまり場』

 その子犬の小学生は、ぼくのアパート近くにある小さなゲームセンターで、夜になるといつも同じゲームテーブルにすわっていました。

テーブルの上には夕食と思われる菓子パンとジュースのペットボトルがおいてあり、暗い目をしていつも1匹で遊んでいるその姿はさびしげで、ぼくはその少年がどうにも気になってしかたがありませんでした――。


「いよいよ来週から風営法ふうえいほうが改正されるみたいだな」


 ファルコン社長が新聞を読みながら仕事場に入ってきました。モグリンさんとミーちゃんは仕事の手を休め、その話題に興味をしめしました。


「来週ですか。その条例でゲーセンのイメージが少しでも変わればいいですね。モグ」

「そうね。今まではゲームセンター、イコール、不良のたまり場というイメージが強かったからね」

「あのぉ……。フーエイホーってなんですか?」


 ぼくはその聞きなれない言葉の意味をミーちゃんに小声でたずねました。


風俗営業法ふうぞくえいぎょうほうのことよ。ゲームセンターやパチンコ屋さん、バー、スナックなんかの繁華街のお店に関する条例のことよ」

「それがどう改正されるんですか?」

「んとね、例えばゲームセンターでいえば、夜は12時で閉店するようにとか、保護者のいない学生は夜の9時までとか。とくに小学生なんかは5時以降は入っちゃだめみたいね」

「そんなにきびしくなるんですか?」


 驚いたぼくにファルコン社長が言いました。


「最近、ゲーセンで朝まで遊んでいる不良の学生たちが増えてきて、社会問題にもなってたからね。まあ、風営法の改正でゲームセンターのもうけは少し減ってしまうようだけど、ゲーム業界にとっては良いイメージチェンジになるから私は歓迎だな。さらば、不良のたまり場、って感じかな?」


(さらば、不良のたまり場――)


 ぼくは社長の話を聞きながら、なぜか、あのゲームセンターでさびしく遊んでいた小犬の小学生のことを思い出しました。


 そして、風営法が改正された次の週――


ぼくは、あの小学生のことが気になって、帰宅途中にゲームセンターをのぞいてみました。しかし、そこにはあの小学生の姿はありませんでした。ゲームテーブルをふいていた店のバイトのお兄さんに、あの少年のことをきいてみると、


「あんた、あの小学生の知り合い?」

「いえ、そうではないんですけど、いつも遊びにきてたのに突然いなくなったので、ちょっと気になって……」

「知らないの? 風営法が改正されたんだよ。だから、小学生は午後5時以降は入っちゃだめになったんだよ」

「じゃあ、今日は来なかったんですか?」

「いや、いつもの時間に来たけど、理由を言っておいかえしちゃったよ。まぁ、かわいそうっちゃ、かわいそうなんだけど……」

「かわいそう?」

「ああ、あの子、なんかウワサでは学校でイジメにあってるらしくてね。友だちもいないみたいなんだ。家庭もちょっとわけありみたいだしね。3ヶ月前に初めてここに来て、それから毎日来るようになったんだよ。あの子、よっぽど居場所がなかったんだろうなぁ」

「居場所がなかった……」

「ゲーセンは不良のたまり場って嫌ってる動物たちも多いみたいだけどさ、不良って居場所がないさびしい連中ばかりなんだよな。もちろん不良を肯定する気はさらさらないけど、でも、PTAや善良なる市民の方々は、そういう『世のオチコボレ』の連中には絶対居場所を与えたくないようで、ゲーセンも例外ではなかったということさ。……おっと、ちょっと語っちまったな。仕事、仕事!」


 バイトのお兄さんは、ちょっとしゃべりすぎたかな? という気まずい顔をしながら店のカウンターへもどってゆきました。


 ぼくはあの小学生の話を聞いて、ちょっとセンチな気分になってしまいました。


 (まわりから不良のたまり場と悪口を言われている場所であっても、あの小学生にとっては唯一の心安らげる場所だったんだろうなぁ。でも、法律はあの子から居場所をうばい取った。あの子はこれからどこへ行くんだろう……)


 ぼくはゲームセンターから出て、すっかり暗くなった裏通りを見回しました。もしかしたら、あの子がどこかからこのゲーセンを見ているかもしれないと思って。でも、この日をさかいに、ぼくはあの少学生の姿を見ることは2度とありませんでした。


 それから、数週間後――


 ぼくはピコザさんと『コーエンジ』に行った時に、あの小学生のことを話しました。


 「だいじょうぶだよ、ブブくん。その小学生はもっと居心地のよい場所を見つけてそこで楽しんでいるはずだよ。きっと」

「どうしてそう思えるんですか?」

「どうしてかって? それはね、大人が思う以上に子どもってやつは前向きに生きてける力を持っているからさ。それと……」

「それと?」


 ピコザさんはグラスのお酒をグイッとのどに流し込んだあと、遠い目をしながらポツリと言いました。


「オレも、子どものころ、そうだったから……」


 ぼくはそれ以上ピコザさんに話しかけることができなくなり、グラスのお酒を一気飲みして、むせてしまいました。


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