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森のげえむ屋さん  作者: 平野文鳥
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第23話 『大ヒットのごほうび』

 ロケテストで大成功した『ザ・クマさんプロレス』は、ゲームセンターの年末商戦に向けて大量に出荷されました。

 スポンサーで販売元のデーターポンポコ社は大もうけ! もちろん、わが『森のげえむ屋さん』も大

もうけ! たまりたまった借金を全額返すことができたファルコン社長は、しばらくの間その顔から喜びの笑みが消えることがありませんでした。そして、ぼくも生まれて初めてのうれしい……というか、ビックリするような体験をすることになりました。


 その日、半休をもらったぼくはお昼過ぎに出社しました。すると、なんだか社内のフンイキがいつもと違います。なんていうか『みょうに明るい』のです。モグリンさん、ゼロワンさん、ミーちゃん、ピコザさん、全員がまるで神さまの祝福を受けたような幸せに満ちたおだやかな表情をしていたのです。


「なにかあったんですか?」


 ぼくは、中でも一番幸せそうな表情をしていたモグリンさんにききました。


「いやぁ、ブブくんのおかげだよ〜。モグ〜ッ!」


 他のメンバーも同調するかのように、うん、うんとうなずきました。ぼくはモグリンさんの言っていることの意味がわかりませんでした。すると、社長室のドアが開き、ファルコン社長が顔をのぞかせてぼくをよびました。よばれるままに中へ入ると、社長がニコニコしながら大きな紙袋をぼくに手渡しました。


「おつかれさま! さあ、受け取ってくれ」


 なんだろうと紙袋の中をのぞいたぼくは、わが目をうたがいました。なんと、その中には今まで見たこともないたくさんのお札がぎっしりとつまっていたからです。どう見てもその額はぼくの今までの年収をはるかにこえています。ぼくはビックリしすぎて、思わずおしっこをチビリそうになりました。


「しゃしゃ、社長。こ、これは?」

「ゲームが大ヒットしたボーナスだよ。安い給料なのにそれも気にせずにがんばってヒットゲームを作り、そして会社を救ってくれたみんなへの会社からのお礼だよ」

「こんなにもらっていいんですか?」

「当然だよ。君たちの努力で勝ち取ったお金だ。遠慮することはない。でも、大金だから早く銀行に預けた方が安全かもね」


 ぼくは社長にふかぶかと頭を下げて、さっそく言われたように近くの銀行にお金を預けに行きました。銀行まではとても短い距離でしたが、ぼくにとっては普段の倍に感じました。というのも、なぜかまわりの動物たち全員がぼくの持っている大金を狙っているような気がしてならなかったからです。


 『ゲーム業界は今やゴールドラッシュ!』


 ぼくは、ふと、この仕事につくきっかけとなった仕事情報誌のことを思い出しました。当時はその宣伝コピーにつられて大もうけすることにあこがれていた自分も、いざ現実に大金を手にしてみると、(このままでは、自分はダメな動物になってしまうかもしれない……)という、わけのわからない不安感におそわれとまどってしまいました。まぁ、簡単に言えばただの小心者なだけなんですけどね……。


 お金を銀行に預けたあと会社にもどってくると、みんなは『うちあげ』の相談をしていたました。ぼくに気づいた社長が話しかけてきました。


「ブブくん、さっきデーターポンポコ社のカネポン社長と電話してたんだけど、カネポンさん、きみのことをほめてたよ」

「えっ、なぜですか?」

「君の情熱がすばらしいって。それで、ブブくんをデーターポンポコ社の社員としてもらえないかってお願いされたんだけど、どうする? 大企業の社員になれるぞ」

「どうするって……。 もちろん、おことわりですよ! ぼくは大企業なんかに興味はありませんし、それに、この会社が大好きですから」


 あんなにゲームやスタッフのことを悪く言ってたくせに、いざゲームがヒットしたら手のひらを返すようにホメちぎるカネポン社長の調子よさに、ぼくは正直、ムカつきました。


「クスッ。ブブくんらしいわ」


 ミーちゃんがそう言うと、みんながドッと笑いました。ぼくも照れ笑いをしました。社長も「そうか……」と安心したようにほほえむと、上着のポケットから折りたたんだ白い紙を大切そうに取り出しました。


「あと、ヌラリンさんからファックスでメッセージをいただいた。読むから聞いてくれ」


 ぼくたちは笑うのをやめ、社長が読むヌラリンさんの言葉に耳をかたむけました。


『森のげえむ屋さんのみなさん、このたびはゲームの大ヒットおめでとうございます。皆さんには弊社のような大きな会社の社員がともすれば忘れがちな強くて、ひたむきな情熱や夢があると思います。その情熱や夢をいつまでも忘れずに、これからもたくさんのお客さまに喜んでもらえるゲームを作っていってください。期待しています。

——株式会社データーポンポコ・ゲーム開発部長 ヌラリンより』

 

 ぼくは感動しました。もちろん、ほかのなかまたちも感動していました。ぼくらにとってヌラリンさんのおほめの言葉こそ、一番のごほうびだったのかもしれません。


 (いや、やっぱりお金かな… えへへへ……)


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