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森のげえむ屋さん  作者: 平野文鳥
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第17話 『心の余裕』

 『ザ・クマさんプロレス』の開発期間は3ヶ月です。


 ぼくはグラフィックと企画も受け持っていますが、企画を受け持つということは同時にディレクターみたいな役割もしなければならないので、とても忙しいです。


 開発がスタートして最初の1ヶ月は、研究のためにとテレビで放映されている『クマさんプロレス』をみんなと見ながらワイワイと楽しくやっていましたが、2ヶ月目にはいるとゲームがしだいに目に見えるかたちになってきて(ああ、ぼくは今、ゲームを作っているんだなぁ……』)という実感と責任感がわいてくるようになりました。ぼくはこの責任感が仕事にほどよい緊張とメリハリをつけてくれるので気に入っています。

 しかし、ゲームが目に見えるかたちになってくると困った問題もおこってきます。それは『最初に頭の中でイメージしたゲームのおもしろさ』と、『実際に目に見えるかたちになったゲームのおもしろさ』との間にズレが生じることです。

 つまり、最初に頭の中で考えたゲームのおもしろさは『理想』ばかりで、気づかない『欠点』がたくさん隠れています。それを、プログラムという方法で現実に遊べるかたちにしてゆくことで、それらの隠れた『欠点』が魔法のように表面にあらわれてしまうのです。


「まぁ、新しいタイプのゲーム作りってそんなもんだよ。遊びを発明するみたいなもんだから最初から理想どおりにゆくわきゃないよね。かんじんなのは、いかにして理想と現実とのズレを調整してゲームのかたちに仕上げてゆくかが、プロの腕の見せどころだよ」と、モグリンさんがぼくをはげましてくれました。

「そうですワン。そこのところのトライアンドエラー(試行錯誤)が、ゲーム開発のおもしろさでもありますワン」

「よおし! オレもブブくんやモグリンに負けないように、ゲームサウンドがんばらなくちゃな。ゲームをうんと盛り上げるためにも」

「ブブくん。絵をかくのがタイヘンになったら、遠慮せずにあたしに言ってね。あたしブブくんのぶんまでがんばるから!」


 ゼロワンさんやピコザさん、ミーちゃんも、ぼくをはげましてくれました。


(ありがとう、みんな!)


 ぼくは、みんなのはげましに感謝しながら、少しでもおもしろいゲームになるようにテストプレイを何度もくりかえしました。そして、とりあえず『プロレスごっこ』のおもしろさが楽しめるかたちにまでもってゆくことができました。


 でも――

 なんていうか……。なにかものたりません。


(なにが、ものたりないんだろう?)


 ぼくは必死になって考えましたが、それがどうしてもわからないのです。


 そして、開発がスタートしてから2ヶ月半が過ぎました――。


 いよいよ開発の締め切りが近づいてきました。しかしスケジュールの方はちょっと遅れぎみです。ぼくはかなりあせってきて、正直、心に余裕がなくなってきました。


「あせらない、あせらない。あせってもしょーがないって」


 そういうモグリンさんのはげましも、今のぼくには『はげまし』ではなく、他人ごとの無責任な言葉に聞こえてしまうのです。正直、かなりヤバイ状態です。そして、その『心の余裕のなさ』が、とんでもない失敗をやらかしてしまうことになるとは……。


 そんな、ある日。緊張した表情の社長が、みんなを集めて言いました。


「突然だが、今夜、取引先の会社の社長がゲームの見学にお見えになられる。とても重要な方なので、みんな失礼のないように」


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