第15話 『常識はずれの企画』
「プロレスかぁ……」
ファルコン社長は、ぼくとモグリンさんとで考えた『ザ・クマさんプロレス』の企画書に目を通しながらつぶやきました。その表情はあまり企画にのっているかんじではありませんでした。
「ぜったいうけると思いますよ社長。ヒットまちがいなしっ! モグッ」
モグリンさんはいつになく生き生きとした目で社長にアピールしました。
社長は読み終えた企画書を机の上におくと、ゆっくりとイスにすわり腕を組んで天井を見つめました。そして、しばらく考えてこう言いました。
「実はプロレスのゲーム化は、他のゲーム会社でも考えていたんだよ」
「えっ、そうなんですか!? じゃぁ、早く作らないと先をこされてしまいますね、モグッ!」
モグリンさんがニコニコしながら言いました。
「いや、その心配はないよ」
「え? どういうことですか」
ぼくとモグリンさんは声をそろえて社長にその理由をききました。社長は言葉を慎重に選びながらゆっくりとしゃべり始めました。
「いいかい、ブブくん、モグリンくん。みんなが考えているのに、どこもゲーム化しないのはどうしてだと思う?」
社長の質問に、ぼくとモグリンさんは顔を見合わせしました。
「たしかに、言われてみればそうですね……」モグリンさんが答えました。
「みんなが考えているのにだれもゲーム化しないのは、それなりの理由があるからなんだよ」
「それなりの理由?」
ぼくとモグリンさんはまた顔を見合わせました。
「つまり、キャラクター同士がからみ合う——―いわゆる『格闘もの』を題材としたゲームを作っても、現実の格闘のおもしろさが表現できるかどうか全くわからないし、かりにおもしろくなりそうな可能性があったとしても、今のコンピュータの性能じゃ格闘のアクション性は再現できない。つまり、今のゲームの常識からはずれた企画ということなんだよ」
(ゲームの常識?)
ぼくは、その社長に言葉にひっかかりました。だって、常識なんかにこだわってたら、面白いものや新しいものは絶対できないと以前から思っていたからです。なぜなら、ぼくが尊敬する画家のピカチョや、ロックミュージシャンのビートルズンなんかの偉大なクリエイターたちは、世の中の常識や固定観念にこだわらず常に新しい作品を作り続けたのですから。ゲームだって同じはずです。
「社長! お言葉をかえすようですが、決してそんなことはないと思います。常識はずれな企画だとは、ぼくは思いません」
ぼくの社長への反論に驚いた会社のなかま全員がいっせいにぼくの方を見ました。社長はぼくの反論に何かを感じたのでしょうか? 今まで見たことがないようなキビシイ表情でぼくを見つめました。それでもぼくはドキドキしながら反論を続けました。
「たしかに本物のプロレスのようなアクション性の高いゲームは作れないかもしれません。でも、フンイキは再現できると思います。フンイキでも遊べる可能性はあると思います」
モグリンさんがあわてながら、ぼくのフォローしてくれました。
「社長。コンピュータゲームはいろんな遊びの可能性をもっているはずです。フンイキを遊ぶ……つまり『ごっこ遊び』でもお客さんを楽しませることはできると思うんです。モグッ!」
社長は、ぼくとモグリンさんの勢いのある反論に圧倒されたのか、目を大きく見開きました。そして、また目を細め、しばらく考え込んだあとぼくらにたずねました。
「君たちは『フンイキ』や『ごっこ遊び』がゲームになると、本気で考えているの?」
「はいっ!」
「それが必ずおもしろくなると、本気で信じているの?」
「はいっ!」
ぼくとモグリンさんは声をそろえて答えました。
「そうか……」
社長はそう言ってゆっくりとイスから立ち上がり、ひと呼吸しました。
「申し訳ないが、今、この場で企画の合否はだせない。ちょっと考えさせてくれ……」
そう言うと社長は社長室へもどって行きました。
「とおりますかね? 企画」ぼくはモグリンさんに小声でききました。
「う〜ん、ちょっとキビシイかもなぁ……。だって、あんな複雑な表情をした社長の顔って初めて見たし」モグリンさんは不安げに答えました。
「モグリン、ブブくん、もっと自信をもてよ。今の社長だったら、きっと君たちの情熱に答えてくれるはずさ」
一部始終を見ていたピコザさんが、ぼくらをはげましてくれました。
「ボクは社長とのつきあいが長いから知ってますワン! 社長は世間の常識とか固定観念とがとてもキライで、いつも新しいことに挑戦してゆくのが好きなキツネさんなんですワン!」
いつもは冷静なゼロワンさんも、めずらしくコーフンして鼻水をたらしながらはげましてくれました。
「あたしもそう思う。ただ、社長は今とても迷ってると思うわ。会社の経営のこともあるからこれ以上危険はおかしたくない。でも、ブブくんやモグリンの情熱にもかけてみたいって……」
ミーちゃんが社長の苦しい胸の内を代弁してくれました。
「モグリン、ブブくん! さぁ、もう一度社長にアタックするんだ。自分たちが本当におもしろくなると考えつくしたものを情熱と信念をもって相手に伝える。それが企画屋の仕事じゃないのか?」
(情熱と信念をもって相手に伝える――それが企画屋の仕事)
ぼくはピコザさんのその言葉に感動しました。モグリンさんも感動したようで目をウルウルしていました。
「さぁ、早く! 社長もそれを待っているのかもしれないぜ。それでもダメだったらオレも君たちといっしょになって社長を説得するよ」
「あたしも!」
「ボクもですワオーン!」
ピコザさん、ミーちゃん、ゼロワンさんの熱い心が、ぼくとモグリンさんに勇気を与えてくれました。
(この企画は、ただのゲーム企画じゃない。『森のげえむ屋さん』のみんなの夢そのものなんだ)
ぼくはモグリンさんに(やりましょう!)と目で伝えました。モグリンさんも(わかった!)と目で答えてくれました。そして二人で社長室のドアをノックしました。




