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森のげえむ屋さん  作者: 平野文鳥
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第11話 『社長のお願い』

「ブブくん。きみに話したいことがあるから、今夜食事につきあってくれないか?」


 仕事を終えて帰ろうとするぼくに、ファルコン社長が言いました。


「え? あ、はい。わかりました」

(話ってなんだろ? なんか仕事でヘマでもやらかしたっけ?)


 その夜――


 ぼくは『都会の森』で一番にぎやかな『かぶく町通り』にあるお寿司屋さんへ連れてってもらえることになりました。


(やったあ! お寿司なんて何年ぶりだろう? ぼくの大好きな『生イチゴの軍艦巻き』が食べられるぞ。ブブー!)ぼくは社長の話のことよりも、お寿司のことで頭の中がいっぱいでした。


 夜の『かぶく町通り』はたくさんの動物たちで混雑し、とてもにぎやかでした。ただ、通りのあちらこちらに立っている黒いスーツを着た目つきの悪い狼さん達が、ちょっと怖かったです。


「ブブくん。お寿司屋へ行く前に、ちょっと寄りたい店があるから付き合ってくれ」

「もちろんです!」とぼくが答えると、社長は通りからちょっとはずれた場所にあるゲームセンターみたいな店に入りました。


 店の中にはゲームテーブルがずらりとならんでいましたが、なぜかそのすべてが『ポーカーゲーム』でした。


「さてさて、どんな感じかな?」


 社長はそう言うと、受け付けカウンターに立っている狼のお兄さんからポーカーゲーム専用のコインを買い、ゲームテーブルについてゲームを始めました。そのゲーム機はゲームに勝つと中からコインがジャラジャラと出てくるタイプのものでした。ぼくは社長の向かいのイスにすわりゲームのようすを見守りました。

 ぼくは驚きました! 社長は、まるでコンピュータ側のもち札をすべて知ってるかのように勝ち続け、あっという間にテーブルの上を勝ち取ったコインでいっぱいにしたからです。


「ちょっとマズイかな……」


 社長はそうつぶやくと、勝ち取ったコインを持ってカウンターまで行き、それをさっきの狼のお兄さんにわたしました。するとお兄さんはそのコインと引き換えに社長に何かをわたそうとしましたが、なぜか社長はそれを拒んで受け取りませんでした。


(なにしてんだろ?)


 けげんな顔をするぼくに社長は「いやぁ、今夜はついてたな!」と笑いながらぼくの肩をポンポンとたたきました。

 ぼくは、もしかしたら社長は本物のお金をかけるギャンブルゲームをやってたんじゃないかと思いました。でも、お金を受け取ったようすもなかったので、とりあえずこれは見なかったことにしようと思いました。そして、ぼくと社長は店を出てお寿司屋へと向かいました。


(すごい! 回ってない!)


 ぼくは、そのお寿司屋が『回るお寿司屋』じゃなかったことにとても感動しました。お店のカウンターの席についた社長が、おてふきで手をふきながら言いました。


「ブブくん。えんりょせずに好きなものをなんでも食べていいぞ」

(好きなものをなんでも?)


 ぼくは、その言葉が神さまの御言葉みことばに聞こえました。


「す、すみません。生イチゴの軍艦巻き、おねがいします」


 ぼくは勇気をだして店の板前さんに注文しました。(ぼくは昔からお寿司屋の板前さんに注文するのが苦手なのです)


「へいっ! イチゴ軍艦おまち!」


 板前さんがお寿司をぼくの目に前に出すと、ぼくは、すかさずそれを口にほおばりました。


(おいひぃ〜……。ああ〜し・あ・わ・せ!)


 いったい何年ぶりでしょう。ひさしぶりに食べた『生イチゴの軍艦巻き』のおいしさに、ぼくの大きなホッペは今にも落っこちそうになりました。

 その後も続けて『生イチゴの軍艦巻き』ばかり注文したので、社長や店の板前さんに笑われてしまいました。


「ブブくんに、たのみたいことがあるんだが」


 ビールで顔をほんのり赤くした社長がぼくに話しかけました。


「なんでしょう?」

「ゲームの企画をやってくれないか? 以前から思ってたんだが、君のアイデアはなかなかおもしろいと思うんだ」

「えっ、企画ですか? でも企画ならモグリンさんがいるじゃないですか」


 社長はビールをゴクリと飲んで言いました。


「モグリンくんといっしょにやってほしいんだ。もちろんモグリンくんの企画が悪いと言っているわけじゃないんだよ。でも、ちょっと……」

「ちょっと……なんですか?」

「はっきり言うと、モグリンくんは『おたく』で、ちょっと自分の趣味にはしりすぎなんだ。私としては、もっとお客さんたちがやりたがってるゲームを企画してほしいんだが。でも、ブブくんは『おたく』じゃないアイデアマンみたいだから、もしかしたら、ふたりが協力し合えば売れる企画が期待できるかなと思ってね」

「なるほどぉ……。でも、ぼくが企画の仕事をしたら絵は誰がかくんです?」

「たいへんかもしれないけど、絵もやってほしい」


(え〜っ!? ずいぶん働かせるなぁ)と、ぼくは思いました。でも、すぐにミーちゃんが言ってた『会社が困っているから助けてあげるの』という言葉を思い出し、ちょっと大人になって不満を言うのはやめ、ここは、こころよく引き受けておこうと思いました。


「わかりました。ぼくでよければ、がんばります」

「そうか! そいつはありがたい。さあ、お寿司をじゃんじゃん食べてくれ!」


 社長はとてもごきげんになり、ぼくが『もう食べられないよ〜』と夢でうなされそうになるくらい、たくさんのお寿司をごちそうしてくれました。


「じゃあ、明日からよろしくたのむ。会社を救ってくれ!」


 お寿司屋から出た社長は別れぎわにそう言って、夜の『かぶく町通り』の雑踏の中へ消えてゆきました。

「がんばりま〜す! ブブーッ!」


 そう言って1匹になったぼくは、ふと、社長が別れぎわに言った「会社を救ってくれ」という言葉が、みょうに頭にひっかかりました。


(『会社を救ってくれ』って、ずいぶん大げさだなぁ……)


 お寿司につられて企画の仕事を引き受けたぼくでしたが、その仕事がとんでもなく大変なものになるとは、その時のぼくには想像することができませんでした。


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