オレンジが落ちていく時
放課後。菫と歩く通学路。いつもと同じ道、同じ風景。
「ねえ、さやか。ちょっと寄り道していかない?」
「……別にいいけど、どこに行くつもり?」
菫はいたずらっぽい笑顔を浮かべ、こう答えた。
「うふふ、内緒」
「……はあ。いいわよ」
菫の思惑はわからないけれど、悪い気はしない。それに、菫のこういうところは昔から変わらない。
「それじゃあ、ついてきてっ」
菫はそう言うと、家とは違う方向へ歩き出した。
菫の後を歩きながら、なんだか懐かしい雰囲気を感じていた。最近はほとんど通ることのなかった道。どこに続く道だったか思い出した直後、菫の足が止まった。
「着いたわ……!」
そこは、小さい頃、私たちがよく訪れていた公園だった。
「……懐かしいわね」
腰の高さ程の遊具に触れ、そう呟いた。
「……あの時は大きい遊具だと思っていたけど、今はこんなに小さく感じるのね」
「そうね……。ブランコも滑り台も、よく遊んだわぁ」
菫の視線を追う様に、他の遊具に目を向けると、当時の記憶が徐々に思い出された。
「……あの頃は、私が何かする度に『さや姉、私もっ』って言ってたのに、今となっては私が菫を追いかけて合唱を始めるなんてね」
「うふふ、少しは私も大人になったのかしら?」
「……どうかしら? 大人は後輩に急に抱き着いたりしないと思うけど」
「うう……」
先ほどまでの得意げな表情から一変して、わかりやすく落ち込む様子を見せた菫に、私はこう続けた。
「……でも、好きなことに真っ直ぐで全力なのは、あなたのいいところだと思うわ」
「さやか……ぎゅーっ!」
こうやって嬉しくなるとすぐに抱き着くところも昔から変わらない。
「でも、さやかだって変わったわよ」
「……そうかしら?」
最近の自分を振り返ってみるが、心当たりはない。
「ええ。前よりもよく笑うようになったわ。同好会のみんなと居る時は特に」
「……そう、かもしれないわね。最初は戸惑ったけれど、みんないい子たちで、いつの間にか居心地が良くなっていたわね」
今ここには居ないメンバーを思い浮かべ、思わず頬が緩んだ。
「さやか、笑ってた方が可愛いわよ。そうすればもっと親しみやすくなって、怖がられずに済むのに」
「……うるさい」
耳が熱くなるのを感じた為、視線を菫から夕日に移し、会話を終わらせた。
私の反応を見てニヤニヤしているであろう菫の顔が目に浮かぶ。
けれども、こんなやり取りでさえも楽しいと感じられるのは素直に嬉しかった。
「そろそろ帰りましょ」
「……そうね」
オレンジに染まっていく街並みを眺めながら、私たちは帰路に着いた。
この美しく楽しい日々が明日も続きますように。