とある転移者
ある冬の朝焼け。
一人の男が山に出現した。元から居た訳ではなく、そこにたどり着いた訳でもなく。1番近いのは…いや、まるっきりそうなのだが。「湧いて出てきた」のだ。勿論、湧いて出てきたような20歳位の中肉中背の男が冬の山で生きる術を持っている訳がなく。物語は終わった。ように見えた。
そこを偶然通った老夫婦が男を家へ連れて帰った。そこで男と老夫婦は団欒と暮らした。
一年後。
老夫婦は殺され、その老夫婦から漏れ出た薄黒くも紅い池に1人の男が倒れていた。男の倒れている部屋の隣からは怒鳴り声が聞こえる。聞いているのは男である。男は倒れているだけで、気絶している訳でもなく、ましてや死んでいる訳でもない。死んだフリをしているだけである。なんて無力な男なんでしょう。
怒鳴り声の内容は、
「なんで老夫婦が生きているのか。」
「勇者は本当に死んだのか。」
という内容だった。男は考える。
死にたくない
死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
男をこの精神状態に持っていくには十分な状況だった。団欒と家族同様に暮らしてきた老夫婦なんて心配する心の余裕など無かった。身の回りの人間が2人死んだ驚き。次は自分だろうという焦燥。血溜まりの中で横になる事など厭わない。いや、厭えない。それ以外の選択肢はない。この状況で恐怖しないわけが無い。読んでいる君もこの状況を考えてみれば良い。
なんてったって書いてる俺も怖いもん、こんな状況になったら。因みに夢で見た事のある情景からピックアップしてこのシーンにしました。
閑話休題。
声を荒らげた者達は一通りの会話を終えた後、いきなり静かになった。今まで4〜5人だった気配が1人になる。隣の部屋から血が流れて来る。分かるのは隣の部屋で何かがあったこと。ここまでの情報が分かったとしても確認する術はない。
先程死んでいないし気絶もしていないと言ったが、致命傷をおっている。動けなくなるには充分の怪我だ。アキレス腱切断、心臓のすぐ近くに直径1cm位の穴が空いていて、切り傷が12箇所。倒れた後も切られた。死んでいない方が不自然である。生きたいという生への渇望よりも死にたくないという未知への恐怖が大きいとこうなるらしい。この2つは全く違うものである。が男はそんな事はどうでもいいのて
そんな男の近くに一つの気配が近寄ってくる。近寄ってきた人は女でした。男と老夫婦をじろじろと見たあとに、話し始めました。
「…派手にやったな…。まぁ生きてる奴が一人いるだけまだマシか…。」
男が生きていることは気付かれていました。女は男に近付き話します。
「生きたいか?死にたくないか?どっちだ?」
男は答えます。
「しに、…く、ない」
女は少し笑い、
「分かった。今までの人生にお疲れ。この生活は今以上に辛いぞ。」
視界がブラックアウトした。
感想よろしくです。