一難去ってまた一難なんだが???
去ってないが???
いや、なんでもありません。
式典やパレードの準備には今までやってなかったことから時間がかかるようだ。
余計なこと言ってすみません。
とはいえやるとなった以上はしっかり準備せねば。
今日の公務はそれでお開きとなったので自室で時間を潰していたのだが。
今、行事とは別な危機が訪れている。
「ねぇーえ?陛下ぁ大浴場使いましょうよぉ♡」
「狭いバスタブではごゆっくりできないでしょう?お背中流しますよぉ♡」
夢魔の二人に取り囲まれているのだ。
ここで俺のお風呂事情を説明しようと思う。野郎の風呂事情等を聞きたい人がいるかわからないけど。
今風呂は部屋に併設された小さな風呂を使っている。大浴場があるが遠いし、広すぎる風呂では落ち着かないと思った結果だ。
この小さなバスタブで満足しているし体も洗えているので特に問題を感じていなかったのだ。
ところが問題が出てきた。
風呂係の仕事が無くなってしまったのだ。
今では一部の人しか使わない大浴場を丁寧に掃除するだけで済んでいるのだがあるのは掃除係の仕事だけ。
寄ってたかって卵肌にするのが仕事の風呂係が暇を持て余しているのだ。
「あ、あの風呂は現状で満足しているというか・・・」
「えぇ〜そんな寂しいこと言わないでくださいよぉ。」
「お仕事くださぁい。」
そんな暇を持て余した風呂係の双子の夢魔のアミタとカミタが俺の自室に直談判しにきたのだ。
「陛下ぁ私たちお仕事無くなったらお城にいられませぇん。」
アミタは赤い髪をツインテと同時にもう一本真ん中に束ねたトリプルテールとも言える髪型をしているツリ目の夢魔。ぐいぐいと二の腕に感じる柔らかさはむっちりである
「お城に居られなくなったら私たちとっても困るんですけどぉ。」
カミタは白い髪を左右に2本ずつ結んでいるダブルツインテールとも言える髪型でツリ目の夢魔。二の腕に感じる感触は控えめでぷにぷにである。
「「陛下ぁ」」
「ち、近いうち、近いうちに大浴場使うから・・・また今度、また今度ね・・・」
「ほんとですよぉ?」
「お待ちしてまぁす♡」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
去った。
ぼっちの俺にはキツい応酬だった。女の子と話するなんて緊張する。しかも夢魔なんて更にだ。柔らかかった。
慣れたのは四六時中一緒にいたメルバくらいだ。ただ今は四六時中一緒にいるはずのメルバは式典行事の打ち合わせでいない。まいった。
「ふぅー・・・ん?」
不意にズボンのポケットを弄るとコロリと書類作業に使っていた判子が出てきた。
いけね。持ってきてしまった。常時防犯用の魔法で管理していたくらいだ。返しておかねばマズイ気がする。
「執務室へ戻ろう。」
さっきの応酬の疲れが取れないが立ち上がり執務室へ戻ることにした。まだ二人が作業しているだろうし。大丈夫だろう。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
執務室のドアをノックして入る。
「メルバー?いるー?」
「ッ!陛下!」
「うお!?何!?」
開けた瞬間すごい剣幕で迫ってきた。
「陛下!書類作業に使っていた判子をお持ちではありませんか!?」
「う、うん持ってる、から返しにきた・・・」
「お身体に異常はございませんか!?」
「い、いやなんとも無いけど・・・」
「!?」
なんともない反応ではなかった。するとアフリールが寄ってきた。
「陛下、まずは判子を引き出しにお納めください。話はその後で・・・」
「わ、わかった・・・」
机に近寄り判子が入っていた引き出しを開け、判子を入れる。すると青白い炎が一際大きく上がり驚いて尻餅をついてしまった。
「ふぅ・・・とりあえず一安心ですか。」
「アフリール・・・これはいったい?」
「私が御説明します陛下。」
メルバに手を借りて立ち上がると椅子に座る。
「陛下、あの判子はこの部屋から出さぬようお気をつけください。」
「わ、わかった。ごめん・・・」
「もう一度お聞きしますが、お身体に異常はございませんか?」
「うん、なんともないよ。」
「良かったです・・・陛下、あの判子には防犯用の魔法がかかっているのはご存知ですね?」
「うん。」
「その魔法はこの部屋から判子を持ち出すと激しい呪いが降り注ぐようになっているのです。」
「!?」
驚いているとアフリールが追加で説明してくれた。
「陛下、この判子は陛下のみが振るわれるようになっておりますので強い防犯が必要なのです。取り出す時も陛下、しまう時も陛下でなければいけません。そうでなければ強い呪いによって身が朽ち果ててしまうと言われています。」
「ヒェ」
「今回陛下の御身が無事で何よりです。陛下くれぐれもお気をつけください。そして説明不足で陛下の御身を危険に晒してしまい大変申し訳ありませんでした・・・」
「い、いや不手際なのは俺だよ。頭を上げてメルバ・・・」
「本当に・・・本当に・・・」
「うぇ!?」
メルバがぽろぽろと涙を流し始めた。悪いことしたのは俺なのに申し訳ない気持ちでいっぱいだ・・・
「陛下が無事で良かったです・・・」
「うん、ありがとう・・・これからは気をつけるから泣かないで・・・」
「ぐす・・・はい、お見苦しい所をお見せしました・・・」
「しかし何故呪いが発動しなかったのでしょう・・・持ち出したのが陛下だったから・・・?」
「アフリール、今はそういうのいいから!メルバを泣き止ますの手伝って・・・!」
「あー、失礼しました陛下・・・メルバ、もう泣き止みなさいともかく無事だったんだから・・・」
「はい・・・ぐす・・・」
メルバがなんとか泣き止んで場をなごました。しかし防犯用の魔法で呪いか・・・命の危機に瀕していたという事実が背骨に氷柱を突き刺したような寒さを感じさせてきた。事の重大さを漸く理解した。
「陛下、ご用事は判子の件だけでしたか?」
「うん。」
「そうでしたか。ではメルバ、お茶を淹れてくれますか?」
「はい、わかりました。」
「陛下もせっかくなのでお茶で一息ついてからお戻りくださいませ。」
「うん、そうするよ。」
俺はいつの間にか遭遇した命の危機を脱し、お茶を楽しんでから部屋に戻った。ちなみに今日の風呂は部屋のバスタブだった。