市場の様子なんだが???
昼食を食べた後、市場に行くと言うので出発した。街はゆっくりとした雰囲気が流れており、非常に穏やかだ。忙しい時期の様子も見ておきたいな。
「メルバ、市場ってどんなのなの?」
「そうですね・・・陛下の世界の市場がどのような物かは存じませんが・・・普通の市場ですよ。」
「普通・・・普通かぁ・・・」
街を歩いて30分ほど。海が見えて来た。港だ。潮の香りがして心地良い。
「陛下あそこです。」
「うん。」
市場に近づけば賑やかな声が聞こえてくるかと思ったがそうでもない。というかここまでも人気が無かった。
「あそこかぁ・・・」
「ですね。行きましょう。」
華やかな門を潜り、中に入る。市場はなんとものんびりとした雰囲気で、活気は無い。ゆる〜い感じだ。
「なんか・・・ゆるいね。」
「もう取引の時間は終わってますからね。」
「そうなんだ。まぁそうか。昼過ぎだしね。」
市場を見て回る。なんか品物も多くない。最低限の物が並んでいて。店主らしき魔族があくびをしながら果物を齧っている。
「これは・・・どういう取引をするの?」
「これは見本を並べて、後で仕入れに向かわせる方式ですね。客はここで見本を見てどれくらい欲しいか店主に申しつけるんです。」
「その場で全部取引するんじゃないんだ。」
「そうですね。全て卸売です。」
「ふーん。」
市場の棚に並ぶ商品はどれも見たこと無い野菜や果物。肉や魚はなんかガラスの箱に入っている。冷凍庫かな。
「城の材料もここで買ってるの?」
「ここで買う場合もありますが、城には専門の業者がやってきて取引をします。それなりのレアリティの物はそれなりの業者しか取引していませんので。」
ウロウロと見て回るが、居眠りをしていたり、本を読んでいたりと暇そう。時折俺に気づいた魔族が慌てて佇まいを正すけど。
「あれ・・・」
「どうしました・・・?」
「これ・・・」
俺の目に止まったのは・・・ネギ。これ・・・俺の知ってるネギだ。この世界には俺の知ってる野菜もあるんだな。
「これは異界香長ですね。魔界でもかなり希少な野菜で唯一星10以上のレアリティを付ける野菜なんです。魔界の端っこの端っこ、異界に繋がる領域に生えているんです。ギリギリソビエルツキーの国内ですが魔獣、魔物が多く、天候も不安定、嵐の吹き荒れる領域で大変危険。採りにいく場合は冒険者に頼む事になります。」
「へぇ〜・・・異界に繋がる領域って・・・」
「異界に繋がるというのはそう伝えられるような環境というだけで実際に何処かに繋がってる訳ではありませんよ。」
「そっか・・・」
「味も良いですよ。主に冒険者は酒場に回されるギルドに流すので城に来る事は稀ですが・・・」
「そうなんだ。食べてみたいな・・・」
「わかりました。では今度仕入れておきましょう。」
「お願い。」
ネギの店を後にして次へ。またウロウロしていると元気良く声掛けをしている店があり、人集りが出来ている。なんだろう。
「メルバ、あれは?」
「あそこは・・・魔法石の店ですね。」
「魔法石?」
「はい。魔法石とは魔法を封じておく石です。魔石とは違います。」
「???どう違うの?」
「魔石は魔獣や魔物の体内に出来る魔力の結晶です。魔法石は鉱脈に出来る鉱石です。」
「ふーん・・・?」
「あそこの店は・・・おそらくこないだ報告のあった。新たな魔法石の鉱脈を発見したところの魔法石ですね。魔法石は数回使うとダメになってしまうので皆買い溜めに走っているのでしょう。」
「そうなんだ。」
「・・・貴方、城の魔法石の備蓄状況を把握してますか?」
メルバが護衛の1人に聞く、尋ねられた護衛は知っていなかったがもう1人は知っていた。メルバ知らないの?
「わかりました。陛下用の護石を作っておかないといけませんね。」
「護石ってなに?」
「主に帰還の魔法を込めた魔法石の事ですね。緊急避難の手段です。」
「なるほど。」
「ここでは買わなくて良いでしょう。城が市場から買い上げたとなっては国民の心象も悪いでしょうし。」
「そうだね。」
魔法石の店を後にする。通り過ぎようとしたら見つかってしまい、客達に囲まれてしまったが・・・皆いい匂いがした・・・
「どうでしょう、陛下、市場は。」
「なんか想像してた活気のある市場じゃなかったけど。面白かったよ。」
「おーーーーい!!!陛下ーーーー!!!!」
「ん?」
誰か呼んでいる。こんな往来で俺を呼ぶなんて・・・城の外に知り合いなんていたっけか・・・メルバ達が少々警戒して剣に手を掛けた。
「ヒュー!」
「あははは!陛下!謁見の日以来だなぁ!」
「久しぶり・・・って程でもないか。今日はどうしたの?」
「いや?捕鯨の補給に寄ったんだ!船が鯨にやられちゃってさ。」
どの船?と聞いたらここから見える港の奥、赤い帆の張ってある船が見える。船首が砕けており、ちょっと大変そう。
「この通りでさ。しばらく厄介になるよ。」
「もちろん良いよ。城に来るかい?」
「いやいやアタシみたいなガサツなのがいても邪魔になるだけだよ。」
「そんな事無いよ〜」
気さくに話せる友人・・・友人でいいよね?は良いな。前の世界ではそんなにいなかったから。ヒューは可愛いし。
「じゃあな陛下!アタシはなんか美味いもん食ってくる!」
「いってらっしゃい。」
ヒューが去っていった。うーん嵐の様だったな。
「メルバ、この後は?」
「この後は、陛下の船を見に行きましょうか。」
「俺の船?」
「はい。戦船ですね。と言っても500年前に海流潮龍の襲撃に出動したくらいしか出番はありませんが。」
「へー。」
「それではこちらです。」
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港の西側、そこは軍港になっており、武装した船が犇めきあっていた。その内3隻が国王直属の武装船だという。
「陛下、ここです。」
「おーすごい。」
船首に大きな棘付きの槍をいくつも備えた船。そして胴に幾つもの砲が連なっている。なるほど武装船。
「今、乗組員が集まっていますので少々お待ちを。少し早く着き過ぎましたね。」
「うん。」
船の前で待っていると続々と制服を来た魔族達が集まってくる。整列して、バッジを幾つも付けた魔族が前に出て挨拶をした。
「陛下。お待たせしました。魔導武装船1号船船長、バイバルです。よろしくお願いします。」
「よろしくバイバル。これで全員?」
「はい230名全員です。」
「そっか。みんなご苦労様。」
それから船長の他、武装砲隊長、航空隊隊長と紹介され、挨拶をする。
「此度は陛下のご挨拶を賜われた事、誠に嬉しく思います。船員の励みになります。」
「そうだね。できれば出動なんてせず、訓練だけで済むようになればいいけど。」
「ですね。何も無いのが1番です。ですが有事の際は1番に突っ込んでいくのが我々の役目。日々油断する事は出来ません。」
「うん。ありがとう。」
「はい。」
バイバルは挨拶を済ますと船員達に指示を出し、船に乗り込んでいく。それを眺めていた・・・が。
「メルバ、これって乗り込めないの?」
「ええっと・・・申し訳ありません。中の準備が整っておらず、陛下をお迎えする準備が・・・」
「そっか、それじゃわがまま言えないね。」
「申し訳ありません。今回の視察は急だったもので・・・」
「まぁそれはこっちが悪いからね・・・」
「2号船、3号船は遠洋航海訓練中ですので、ご挨拶はまたの機会ということで。」
「うん。」
そして魔導武装船の説明を受けた。帆はあるが、動力は魔法動力らしく、水流をコントロールして動く船らしい。真横移動からバックも出来るらしい。そして重要なのがこのタイプの船は海洋国家のエンでも無いらしく、まだ研究中。もう少し研究が進めば輸出用に作りたいらしい。なるほど。
「では次に行きますか。」
「次はどこ行くの。」
「次は冒険者ギルドです。」
「冒険者ギルド!」
ファンタジー物では定番の場所だ。行ってみたいと思ってたんだよな。
「では行きましょう。」
「うん。」
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港を出て、城の方面に歩き、丘の下の昼食を食べた通りとはまた別な通りへ。そこは打って変わって人気に溢れた通りだった。
「うわ。すごい人通り。」
「陛下、お手を・・・うわあああ」
メルバと手を繋ごうとしたらあっという間に人混みに紛れて離されてしまった。マズイ・・・
「うおおおっとっとっと・・・」
流れに身を任せて進んだらなんか大きな店?の様なところに入った。中は多くの魔族で賑わっており、そして女性しかいないのでなんというか・・・
「おっとっと・・・」
つまづいてよろけてしまった。だが転ばずに手を握られて支えられた。ふと顔をあげると立派な犬・・・いや狐?耳の生えた魔族。
「ありがとう。」
「ど、どういたしまして・・・」
そのまま狐耳の魔族に連れられてテーブルに座る。そこには羊角の生えた魔族と、蝙蝠の翼が生えた魔族。長い蜥蜴の尻尾を持つ魔族が座っていた。とりあえずメルバを待とう。そうしたら狐耳の魔族が話しかけてきた。
「あ、あの・・・」
「なに?」
「もしかして・・・陛下?」
「うん、そうだよ。」
「!!!」
「ええ!?」
「まじか・・・」
「わぁ・・・」
四者四様の反応見せた助けてくれた魔族。
「あ、あたし、銀狐魔族のガイバーって言います陛下。」
「私は純正悪魔のキスマイです。」
「同じく純正悪魔のカーカス。」
「森蜥蜴人のマックスです。よろしくお願いします。」
「私達は山のロック鳥ってパーティを組んでるんですよ。オニキスランクの冒険者パーティです。」
「そうなんだ。うんよろしく。」
「あの・・・陛下、護衛は?護衛無しに来たんですか?」
「いや、護衛はいたんだけど・・・はぐれちゃって・・・」
「ああ、そう・・・まぁこれだけの人だとなぁ・・・」
まるで休日のテーマパークばりの人混み。まだみんな来ないのかな。
「とりあえず、私達で護衛しましょうガイバー。」
「そうだな。なんかあったら見て見ぬフリしたって言われるのはマズイ。」
「だな。」
なにやら話し合いが行われ、彼女達が護衛してくれる様子。助かる。
「ねぇ、なんで今日はこんな人が多いの?」
「今日はギルドから特別クエストが出てるんですよ。」
「ギルドからの依頼は報酬も良いんですが少し危険で、複数グループが受けに来るまで待って出発するのが普通なんですが・・・」
「今日のは危険度小。なのに報酬が良いってんで人が集まっちゃったんですよ。」
「へー。そうなんだ。ちなみにどんな依頼?」
「魔法石の鉱山までの採掘隊と運搬車の護衛です。かなり大掛かりで。魔法石の値崩れを危惧した商人ギルドも絡んでいて・・・」
「なるほど・・・一筋縄じゃあ行かない依頼なんだね。」
「そうです。」
「先日、第一陣が出発したんですけど予想以上の大鉱脈らしくて・・・」
「そうなんだ〜」
「直ぐに第二陣、第三陣が組まれてギルドボードがいっぱいです。」
あそこです、と指刺されて見る。そこには大きな掲示板の前に群がる人、人、人。すごいな。というかここ冒険者ギルドだったのか。
「私、陛下の護衛の皆さんを探してきますね。」
「頼んだマックス。」
「陛下少々待っててくださいね。」
「ありがとう。」
そしてマックスが人混みを掻き分けて出ていったらパンパンパンと破裂音が響き、カウンターの奥から大きな角を生やした立派な赤い翼を持つ魔族が出てきた。そして、拡声器の様な物を持つと・・・
「お前ら!!!静粛に聞け!!!緊急クエストだ!!!」
ざわざわとギルドボードを見ていた人たちが大きな角の魔族に注目する。
「陛下が行方不明になられた!!!この人混みに紛れ、消息が掴めなくなったと思われる!!!見つけた者には魔界金貨2枚!!!これは城からの依頼の為全員強制受諾となる!!!さぁ行け!!!陛下を探せ!!!」
わーーーーーーっと人混みが捌けていく。冒険者ギルドは空っぽになり、俺と山のロック鳥のみんなはテーブルに取り残された。それを大きな角の魔族が見つけ、ビクっとしていた。
「行っちゃった。」
「陛下ここに居ますよー」
「これ私達金貨もらえるの?」
なんか大慌てだったなぁ。まぁでも意外と人気なんだな、国王って。