ワイルドな食事なんだが???
ある日、今日はメルバに公務があると聞いて頑張るかと思ってベッドから起きた・・・んだがいつもはベッドに持ってきてくれる食事が来ない。どうしたんだろう。
「今日は庶民の食事を知る日でございまして、食堂にて朝食をお召し上がりください。」
「そうなんだ。庶民の食事を知る日?」
「はい。国王として庶民の生活を知らねば政もままならないという12代前の魔王様の要望です。」
「12代も前・・・」
「はい。それでは食堂へ。」
メルバに連れられ食堂へ。そこにはアウローラ達が既に準備して待っていてくれた。
「おはようございます〜陛下〜」
「おはよう。今日の朝食は?」
「今日はね〜肉のスープと街で買ってきた黒パン、それとチーズだよ〜」
「なるほど。」
そう言って出されたのはいつもより小さいスープ皿となんだか小さいパン。それと塊のチーズとなんかでかい蝋燭。なにこれ。
「この蝋燭なに?」
「これはね〜チーズを溶かす蝋燭だよ〜」
「へ〜」
チーズを溶かす蝋燭か。そう言うのもあるんだな。
「じゃあいただきまーす。」
「召し上がれ〜」
スープを一口・・・なんかしょぼい味。塩っ辛いし、肉も小さすぎる。野菜も切れ端みたいで味がしない。次にパン。なんか・・・すっぱい。これパン?いつものベーグルはふわふわで柔らかいのに・・・国民はこんなもの食べてるの?次にチーズ・・・溶かすって言ったけど・・・これもなんか・・・風味が生臭い。これ熟成されてないんじゃないの?
「・・・。」
「陛下、如何でしょう。」
「・・・国民は、こんなもの食べてるの?」
「これは国民から1家庭選んで提出されたものです。その日に寄ってまちまちですが・・・今日のは慎ましい食事だったようですね。」
「いつもこういうの食べてるわけじゃないの?」
「割と裕福ですよ。ソビエルツキーは。まぁ給料日前などは安い食材で済ませる家庭も多いですが。ちょうど今日は一般的な給料日前ですので運が悪かったと感じます。」
「そうなんだ・・・」
「夕食も提出されたものですがまぁ給料日前ですので・・・」
「そうなんだ・・・あのさ、メルバ。」
「なんでしょう。」
「今日、街の様子を見に行きたいんだけど。良いかな。こんな食事見ちゃったらちょっと心配で・・・」
「なるほど・・・では午前中は公務。昼食を街で摂りましょう。その後視察です。」
「わかった。」
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公務を熟して、午後。昼食は街で取ると言ったがどんなものを食べるのだろう。
「陛下、それでは出発します。」
「うん。」
今日はお供・・・がいる。メルバの他に悪魔メイドが5人。護衛を兼ねているという。この国の中ではいらないんじゃ?と思ったが思わぬ事件に巻き込まれる事が無い事は無いという。その時魔法が使えない俺は護衛がいないと容易く怪我をしたり、下手したら死んでしまうという。それは流石に嫌なので護衛を承諾する事にした。5人もいらないとは思ったけど。だがメルバが言うには数は力らしい。
「じゃ、行こう。」
「はい。」
そして街へ、城から街へは歩いて10分くらい。丘から降りるだけだしな。
「お昼ご飯はどうするの?」
「まず大通りの商店街に向かいます。そこで最近設けた酒場のランチに向かいます。」
「わかった。」
そうして大通りを歩く。というか、人通りが少ない。歩いてる人、というか店の前のテラス席に座ってのんびりしている人ばかり。歩いてる人はほとんどいない。
「ねぇ・・・メルバ?」
「なんでしょう。」
「なんか人通り少なくない?」
「そうですね、給料日前なので。」
「給料日前ってこんなもんなの?」
「そうですね。給料日が近くなると皆休みを取って、給料日を待つのです。」
「そう言う世界なのか・・・」
「勤務形態についてご説明しましょうか。」
「そうだね。」
「おおよそ1ヶ月30日間に働くのは22日までの朝から夕方まで。休みは月末の給料日前に一気に取ります。」
「ふぅん。」
「給料は職に寄って異なりますがおおよそ魔界銀貨40枚から60枚辺りです。冒険者等は歩合制もありますが。」
「冒険者もいるんだ。」
「いますよ。魔界は広大なので、調査に赴くには冒険者の力を借りないといけませんから。」
「へー。」
「あ、着きました。ここです。」
着いた酒場。それは俺がファンタジーで想像してたような酒場と大して変わらなかった。なるほどね。中に入ると・・・誰もいない。
「あれ?誰もいないよ?」
「そう、ですね・・・まぁ給料日前ですからね。」
「でも店員もいないよ。」
「それはおかしいですね。陛下が来るのは伝えてありますので・・・貴方、少し行ってきなさい。」
「はい。」
悪魔メイドの使いに出し、席に座って少し待つ。すると少し慌てた赤い鱗を持つ店員が出てきた。
「陛下!大変申し訳ございません!仕入れの最中でして、どうかご容赦を・・・」
「ああ、いや、良いよ。大丈夫。」
「無礼をお許しください・・・」
「大丈夫だって。」
「それより貴方、店主ですね?昼食の用意を、と伝えてある筈です。」
「すみません・・・もう少しお時間を・・・」
「チッ・・・居留守を使った挙句、用意が出来てない・・・?」
「メルバ、そう怒らないで。商売なんだから仕方ないでしょ。城とは違うんだよ。」
「しかし・・・」
「えーっと・・・店長さん?」
「はい・・・」
「時間はあるから。まずは仕入れを済ませて、それから頼むよ。」
「陛下のお慈悲に心から感謝を・・・」
「うん。そう畏まらなくていいよ。」
「そ、そういうわけには・・・」
「店主、早く済ませなさい。」
「はい!」
店長はまた裏に戻っていった。
「メルバダメだよ。そう脅しちゃ。」
「ですが、庶民が陛下を待たせる等・・・」
「良いんだよ。俺はもっと庶民派な国王でいたいな。」
「・・・陛下が、そう言うのでしたら・・・」
「うん。」
あまり急かしても良くない。急仕事は碌な事にならないからね。特にご飯関係は。生煮えなんて出てきたら大変だ。
「メルバ、酒場の食堂って、料金はどれくらいなの?」
「そうですね・・・私が利用していた時は一品魔界銅貨10枚ほどパンひとつ魔界銅貨6枚から8枚ほどでしたが・・・それは400年以上前の事なので・・・」
「そっか・・・」
「普通ならば壁にメニューなどが貼ってあるんですが・・・ここはありませんね。」
「まぁそういう店もあるよ。あ、そうだ。護衛のみんなの分もあるよね。」
「・・・。」
「無いの・・・?」
「はぁ・・・皆さん座りなさい。」
やったーとかわーいと護衛のみんなも席に座る。そしてまたしばらく待つと店主が帰ってきた。
「大変お待たせしました陛下、ただいま準備させていただきます。」
「うん。よろしくね。人数分。」
「はい!」
そして今度はどやどやと何人か入ってきた。それに店長が申し訳なさそうな顔をしてやってくる。
「申し訳ありません陛下。陛下の御計らいで設けた昼食ですが、仕入れの方にもお出しする約束でして・・・」
「構わないよ。俺がいるからって約束を違えるのは良く無いし。」
「ありがとうございます。」
仕入れの業者・・・なのだろうか。魔族だが人間離れした容姿だ。あんまりジロジロ見るのはよくないだろうと思ったが業者の人たちは丁寧な礼をして席に座った。
「ねぇ・・・メルバ、彼女達は・・・?」
「私も詳細は存じませんが・・・マントの紋章から魔界長羊の牧場を持っているアジュベイル伯爵の縁者の様ですね。」
「ああ。あの頭が羊の。」
「はい。」
「あそこの羊肉美味しかったね。」
「そうでしたか。でしたらここも期待出来るかと。」
「そうか。それは楽しみだね。」
オープンキッチンからジュワジュワとなにやら肉の焼ける音が聞こえてきた。お腹空いたし早く食べたい。
「お待たせしました陛下!魔界長羊と巨角拝牛の合わせ肉のミンチステーキと羽衣結球と車輪人参の炒め物です!」
「おお、来た来た。」
「ほう・・・」
出てきたのはハンバーグ、こっちではミンチステーキらしいが。それと炒め物。あとパン。
「・・・メルバ。」
「どうしました?」
「これでいくらくらい?」
「そうですね・・・店主。」
「は、はい!」
「陛下はこちらの料理の値段が知りたいようです。説明を。」
「はい!陛下、こちらはステーキと炒め物のワンプレートでおおよそ魔界銅貨15枚。パンは魔界銅貨6枚です。」
「そうなんだ・・・じゃあ、今朝の朝食って・・・」
「おおよそ銅貨5枚程に収める様にした食事では無いでしょうか。」
「そんなの提出しないでよ・・・」
「全くですね。」
「ねぇ店長さん、他のお店でもこれくらいなの?」
「そうですね。他のお店でも大体料理一つ魔界銅貨10枚から15枚。パン一つ魔界銅貨6枚から8枚ほどです。」
「そうなんだ。じゃあこれが普通かぁ。」
「家庭でも料理するともう少し自由が効くので魔界銅貨10枚以下でこれくらいの料理が食べられると思いますよ。」
「なるほどね・・・」
「ただうちはレアリティ7以上の野菜や肉を使っているのでちゃんとしたレストラン等で食べるともっと高いかもしれません。」
「そうなんだ。メルバ・・・城での食事って・・・」
「城でのお食事は一食魔界銅貨20枚から40枚程です。」
「割と高めだ・・・でも王様の食べるものだしね。」
「過去は魔界銀貨1枚程の時もありましたけどそれは高すぎると改められましたね。おおよそ1500年程前の事です。」
「そうなんだ・・・」
なるほどね。ここはちょっと高めの良い酒場なんだ。護衛の悪魔メイド達はもう食べ終わってしまったようだ。流石に酒は頼まない様だがミルクを頼んでパンをおかわりしている。
「あ、貴方達!いつまで食べているのです!!」
「まぁまぁメルバいいじゃん。別に急いでるわけじゃないし。」
「しかし・・・!」
「あんまり食べると給料から差し引くよー」
俺の一声に悪魔メイド達はビクっとしたが本気でするつもりは無い。別にいいじゃないお腹いっぱい食べたって。
「全く・・・」
「メルバ次の予定は?」
「市場を見に行きます。昼の買い入れ時を過ぎるので落ち着いて見られるかと。」
「おっけー。」
「おっ・・・?」
こうして昼食を楽しんだ。昼食の文化は良い感じに広まってるようで。特に昼食は出前を取るのが流行ってるらしい。レストランや酒場に行き、朝のうちに昼に配達を頼む。少々割高だがそれをするだけの余裕があると言うこと。確かに裕福だ。