続く謁見なんだが???
ミストレル達といろいろあってから翌日。二日目の謁見の日。午前が過ぎ、昼食を摂って午後。もう10数人の謁見を済ませた。
「ふぅ・・・メルバ、あと何人?」
「あと4人です。かなり遠方からの使者の為一日開けましたが・・・」
「遠方か・・・地図で見るとどの辺?」
「少々お待ちください。」
謁見と謁見の合間の小時間に地図で立地を確認する。メルバが持ってきた地図はA4判6枚分ほどの大きさの地図だった。
「ここからここまでがソビエルツキーの国土です。ヒガデズルはここ。シャバークはここです。」
「思ってたより広いな・・・ソビエルツキー・・・」
「住民の数で決まるので・・・」
「そうなんだ・・・それでこれから来る国はどこ?」
「西の海を越えた大陸のここ、エン帝国です。我が国との貿易も盛んです。」
「ふぅん・・・」
しばらく地図を眺めていると次の客が到着した合図がされた。地図をしまってもらい、表情を引き締める。
「陛下、エン帝国とはこれからも良好な関係を築きたいと考えています。アドバイスは致しますが陛下からのお言葉も頂けると・・・」
「わかった。」
ゴゴゴ・・・と扉が開き、待ち構えていると。燃え上がるような赤い髪をして大きな一本角を生やした少女・・・とも言える魔族が入ってきた。後ろにはお付きの人だろう武装した、といっても鎧を着込んだだけだが、数人が着いて来ている。
「は、初めまして陛下・・・火炎悪魔のヒューだ・・・ます。」
「うむ。遠いところからよく来てくれた。」
「我々エン帝国からは鯨肉5頭分を献上するぜ・・・ます。」
「・・・。」
ヒューと名乗った少女は表情が硬く、ちょっとカチコチしてる。丁寧語も崩れてるし。
「ソビエルツキーとは今後とも良好な関係を築いて行きたいと思ってるぜ・・・思ってます。」
「口調崩していいよ。」
「!?」
「陛下?!」
「慣れない言葉使いだと真意は伝わらないよ。ヒュー。楽にしていいよ。」
「陛下!!!」
「ふーっ・・・そうかぁ?」
ヒューはどっかりとその場に胡座をかいた。後ろの鎧集団がオロオロと止めようか止めまいかしている。なんか面白い。
「急にソビエルツキーの国王の誕生に挨拶に行ってこいなんて言われてよ。アタシはそういう仕事受けて無いんだよな。」
「そうなんだ。ヒューは普段どんな仕事をしてるの?」
「普段は船の船長だぜ。それも大船団の。」
「それはすごいな。」
「だろ〜?なかなかに大変なんだぜ。」
急に砕けて長年の友人かのように話始めた俺たちを見てメルバもヒューのお付きもポカーンとしている。
「急に皇帝が頭下げてソビエルツキーの挨拶に行ってくれって言われて断れなくてよ。まぁ楽しい旅だよ。」
「ふーんエン帝国ってどういう国なの?」
「エン帝国は女帝エアーが率いる帝国だ。国力はまぁソビエルツキーと比べるとショボいけどよ。」
「地図で見たけどそこそこ大きい国じゃないか。」
「なんだ地図見たのか?ありゃーちょっと当てになんないぜ。みんなデカく描きたがるから。エンは主に海運業国家だな。海に関する事ならソビエルツキーにも負けないだろうよ。」
「何かひとつに絞った方がやりやすくなるよ。」
「確かに!言う通りだ。海運業一本に絞ったお陰でエンはデカくなった。まぁ栄えてるのは海の近くだけだけどな。山の方は未開の地だ。」
「へー」
このヒュー、遠慮が無いからか実に話しやすい。良い感じだ。現世で見たオタクに優しいギャルが実在したらこんな感じなのだろう。
「あ、そうそう。」
「?」
「姉貴・・・女帝エアーから親書があるんだった。はい。」
メルバを伝って親書をもらう。だが残念ながら俺は字が読めない。メルバに後で読んでもらおう。
「ふー!これでアタシの仕事終わり!」
「お疲れ。」
「ソビエルツキーは何度も来てるけどよ。いつ来てもどこに行っても綺麗に整ってて感心するよ。」
「はは・・・国王になったばかりでそこら辺のことはまだわからないんだ・・・」
「ありゃ。そうだったのか。自分の国を自分で見るっていうのも大事だぜ。姉貴・・・エンの女帝もよくやってる。」
「そうなんだ。時間作ろう。」
「それが良いぜ!じゃ、あたしはそろそろ。」
ヒューはすっくと立ち上がり、ぱんぱんと埃を払うと綺麗に一礼し、挨拶して帰っていった。うん気風が良くてよろしい。
「驚きました・・・」
「あ、メルバ。ごめんね急に。」
「いえ・・・結果的に良好な対話が出来ていたでしょう。」
「そうだね。」
メルバは些かムスっとしている。お餅をお焼きに?今突っつくと面倒そうなので後にしよう。
「それでは次の謁見者を・・・」
「うん。」
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夜。最後の謁見が終わり、執務室へと戻ってきた。ふぃー疲れた。
「お疲れ様です陛下。」
「疲れたよ・・・」
「気分を落ち着けるお茶をお淹れしました。」
「ありがとう。」
メルバがティーポットを持つとキン・・・と音がしてティーポットに霜が降りた。魔法だ。冷やすの?
「このお茶は冷やした方が美味しいんです。」
「そうなんだ。」
ティーカップに入れて一口・・・不思議な味だ。何味っていうのかわからない。まぁでも美味い。
「ふぅ・・・」
「渡された親書を整理しましょう。」
「うん。」
テーブルの上に置いてあった親書を机の上へと持ってくる。どれがどれだ・・・?
「ここに紋章があります。」
「ほんとだ・・・でもどこの紋章だかわからないよ。」
「それは御説明しますので・・・まずはエン帝国の親書を開けましょう。」
「わかった。」
エン帝国の親書。分厚い封筒で封蝋がしてある。パキリと封蝋を割るとたちまち炎が吹き上がり、びっくりして落としてしまった
「陛下大丈夫ですか?」
「う、うん・・・びっくりした。」
「防犯用の魔法ですね。何回開けたかわかるようになっているんです。ほら。」
「え?・・・ほんとだ。」
封筒の端っこに1の文字。流石に数字は読める。
「どれ、中は・・・木の板?」
「ふむ・・・これも魔法ですね。」
木の板を広げると魔法陣の様なもの。とりあえず思ったのがこれだけ形態化してるのに魔法って感覚で使うの?ということ。
「不思議だ・・・」
「陛下は魔法が無い世界からお越しですからね。」
「いや、まあそうなんだけど・・・」
メルバが木の板に魔力を通すと魔法陣が光り、ヒューと似た燃えるような赤い髪に鹿のような角が頭の両端に生えた少女が立体で写しだされた。
「すごいですね・・・かなり手の込んだものです。」
「そうなの?」
「ソビエルツキーの国王よ。」
「しゃべった!?」
「そりゃ喋りますよ。伝達の魔法なんですから。」
「そっか・・・」
「世はエン帝国の女帝、エアーである。この度は親書を受け取ってもらい誠に感謝する。」
「あ、いえ、そんな。」
「これは記録像ですから返事しなくても大丈夫ですよ。」
「そっか・・・・・・・」
「これからもソビエルツキー王国とは仲良く、そして愉快な国交を続けるべく・・・」
「愉快?」
「以前お会いした時はまだ皇帝ではなかったのですがその時から結構愉快な方でしたよ。」
「そうなの・・・」
「で、あるからして。今後とも海運の事となれば他の国ではなく是非世の帝国を・・・」
身振り手振りを交えちょこまかと話すエアーはなかなか愛嬌がある。これなら文字読まなくてもいいし楽だ。時間はかかるけど。
「・・・以上だ。良い結果を期待している。ではな。」
プツンと音がして立体映像が消える。女帝エアーの意に添えるよう、海運に関してはエン帝国を頼る事にしよう。
「ねぇメルバ。海運頼む事ってどれくらいあるの?」
「そうですね・・・エン帝国との貿易の際は運賃はこちらが支払う程度には。」
「結構ってことか・・・」
「はい。場合によってはエン帝国より更に西の国から運び込むこともありますので。」
「珍品が多いってこと?」
「主にソビエルツキーでは育成に適さない調味料などですね。」
「そっか。」
なるほどな魔界という世界のこの星がどれほどの大きさかはわからないけど世界地図とかはないんだろうなぁ。そもそも大地は球形なのかも怪しい。まぁそれは今考えることでは無いか。他の親書も確認しよう・・・残念ながらエン帝国のように立体映像での親書は他になかった。早く文字を習得しないと・・・