式典準備なんだが???
遅くなってすみません
起きた。昨日は魔法の練習をしたからか疲れてしまった。午後の公務も眠くてそれどころじゃなくなってしまい大変だった。気を使ったメルバが早めに切り上げてくれたが。
「式典の準備が出来た?」
「はい。」
式典・・・とは俺の即位パレードのことだ。本当にやるのか。
「既に国民にも周知済みです。今までやっていなかった試みなので既に祭りの体を為しています。御確認なされますか?」
「いや、いいよ。それでパレードではどんなことをすればいいの?」
「本日は予行練習を行いたいと思っておりますので、そちらで。」
「わかった。」
「それでは本日の御予定ですが・・・」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
俺は魔法の練習をした運動場にいた。そこには屋根がないオープンな馬車が運ばれて来ており、謎の馬のような生物がいた。
「あれ・・・なに?」
「あれとは?」
「あの、馬のような生き物。」
「あれは生き物ではありません。」
生き物じゃない?よく見れば駆動音のようなカタカタとした音が聞こえる。肌も獣の肌ではなく、布張りだ。目もガラス玉のようだ。
「あれは走駆動馬です。通常の馬よりも走る速度が速く、パワーもあることから馬の代わりとして重宝されています。我が国の錬金術工房の賜物です。」
「そうなんだ・・・」
あれが馬車を引いてくれるのか。ちょっと怖いような感じがするが、普通の馬よりも頼もしそうだ。そんな感想を言おうとしたらメルバに促され馬車の椅子に座る。
「陛下はこの椅子に座って手を振っていただくだけで構いません。どちらに手を振っていただくかは隣にいる私が指示させていただきますのでご安心を。」
「うんわかった。」
「それでは。」
メルバがピーッと笛を吹くとどこからともなくメイド達が集まってきて運動場の周囲にある椅子に座っていく。かなりの人数がいてコレの為に待機していたのかと驚いてしまった。
「では陛下、行進を始めさせていただきますのでメイド達に手を振ってください。」
「わ、わかった・・・」
走駆動馬の駆動音がブルルと変わり歩き出すと共にメイド達に手を振っていく。メイド達は黄色い声援をあげ陛下ーっと叫んでいる。当日はこれがもっと派手になるのかと一抹の不安が過るがなんとかなかったことにした。めいびー。
「陛下、次は彼方にお願いします。」
「わかった。」
メルバの指示する方向に手を振ると視線の先に大きな丸が書かれた看板を持ったメイドの姿が見える。なるほどあれが指示の指標となっているのか。こちらが手を振ったのを確認したのか看板を下ろし別の場所に移動していく姿が見える。
「陛下、看板を御確認されたようですが先回りはしないでください。当日は看板はありませんので。」
「わ、わかった。」
「それでは陛下、次はあちらへ・・・」
そういった練習をしながら俺は行進の練習を進めていった。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ふぅー」
「お疲れ様です。陛下。」
練習は2時間ほどで終わり、手を振っていただけだったがそれなりに疲れた。当日はどれだけ手を振ることになるのだろうか。
「陛下、お茶を御淹れします。お茶請けも何かお持ちしますので御要望はありますか?」
「あー・・・じゃあちょっと小腹が空いたから何かお腹に溜まるものを。」
「かしこまりました。」
執務室へ来た俺はメルバにお茶を頼み椅子で寛ぐ。やっぱこの椅子座り心地良いな。そしてメルバが出ていってしばらくするとコンコンと扉を叩く音がした。
「はーい。」
「失礼致します。」
ドアを開けて入って来たのはメルバではなくジオグレータだった。
「ジオグレータ、どうしたの?」
「陛下だけですか・・・?」
「うん。メルバは今お茶を淹れに行ってる。」
「そうでしたか。いえ実はですね・・・外交関係でちょっと問題が・・・」
「問題・・・?何があったの?」
ジオグレータはちょっと苦笑した後、書類を一枚見せてくれた。うん、読めない。
「失礼しました・・・実はパレードを見物したいという他国の貴族がいまして・・・パレードまで日にちが無いことや警備の問題からどうしようかとメルバやアフリールと相談しようと・・・」
なるほど。国王即位のパレードだもんな。見物したいというのもうなづける。だけど俺の一存で決められる事ではないな。
「とりあえずメルバが来るまで待っていたら?」
「そうします。アフリール達にも連絡しないと・・・」
ジオグレータは光球を手のひらに出すとボソボソと喋り始めた。多分遠くに連絡する魔法だろう。邪魔してはいけないと黙っている。しばらくすると再びドアがノックされる。
「陛下、お茶を・・・ジオグレータもいましたか。どうしました?」
「メルバ、他のみんなも来たらにしようと思ったんだけど・・・」
「そうですか、ではまず陛下にお茶を・・・」
メルバにお茶を用意してもらい、ゆっくりと飲む。うん、美味い。
「それでジオグレータ、用は何?」
「パレードの来賓のことなんだけど・・・」
メルバとジオグレータが話し込んでしまい俺は邪魔にならないよう小さくなっている。するとドアがノックされた。
「フスフル、エクサイル、アフリール・・・」
「失礼致します。」
「ふふっ失礼します。」
「失礼します。」
内務、外務、軍務、財務と勢揃いだ。話し合いが行われている間、俺は小さくなりつつお茶を飲む。そしてお茶請けとして持って来てもらったサンドイッチを口へ運ぶ。うん、こっちも美味い。
「陛下は来賓、どう思います?」
「・・・うぇっ!?ごほっ」
「ああっ!陛下大丈夫ですか!?」
「うん・・・大丈夫・・・それで来賓だっけ?」
「そうです陛下のお考えも聞かなければと思いまして・・・」
「うーん・・・」
来賓・・・正直に言うと恥ずかしいからいない方が良い・・・だが外交として考えるならどうだろう。素人考えだが国王即位のパレードで来賓を締め出すのは良くないんじゃなかろうか。外交するのに国王の顔も知らないんじゃ大変なんじゃなかろうか。
「来賓は・・・いた方がいいんじゃないかな。」
「そうですか・・・では急務となりますがその方向で。」
えっ最終決定だったの???
「最終決定なの?」
「ええ、少々急務になりますが陛下が良しとしているならば・・・と。」
「そ、そうなんだ・・・」
「陛下、お茶のお変わりはいかが致しますか?」
「う、うん、もらおうかな・・・」
メルバにお茶のお変わりを入れてもらい再び始まる話し合いに備え小さくなっていると皆は書類を作ると解散となった。各々が失礼致しましたと部屋を出ていき執務室にメルバと2人きりになった。
「あ、あのさメルバ。今日やっておく仕事はあるかな。」
「今日中に仕上げなければならない書類ですか?」
「そうなるかな・・・」
「それはこれから持ってくると思いますのでもう少しお待ちいただけますか?」
そうか確かにこれから来るか。来賓関係の書類が。それに備えておかなければならないか。俺は残りのお茶を飲み、サンドイッチを頬張ると気合を入れ直したのだった。