メルバの日
私はメルバ、国王陛下の補佐筆頭である。今日も今日とてお世話の為に奔走し、陛下の御部屋をノックした。
「おはようございます陛下、御朝食の用意が出来ました。」
御部屋に入るとまだベッドの上で眠そうにしている陛下を見る。微笑ましくて笑みが溢れそうになるのを何とか堪えテーブルの上に朝食のベーグル他を並べていく。
「陛下、起きてください。今日も御公務が待っていますよ。」
「うん・・・」
もぞもぞとベッドで動く陛下を見ていると再び笑みが溢れそうになる。朝一番に陛下の御顔を眺めることが出来る本当に役得な仕事だと思う補佐筆頭は。
「ふぁ・・・おはようメルバ。」
「おはようございます。御朝食の用意は出来ていますよ。」
「うん・・・食べるよ・・・」
まだ眠気眼な陛下の御顔は可愛らしく笑みを我慢出来なくなりそうだが、ここは己を律して耐える。我慢が多い仕事だ。
「メルバ、今日の朝食は?」
「はい、いつものベーグルと・・・」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
御朝食を済まされた後、身支度を整えた陛下の御仕事は城内の見回り。見回りと言っても全部周るのではなく散歩がてら各所で働くメイド達に挨拶をしていく。陛下は勤勉であられるのでメイド達の顔を覚えるのに余念が無い。メイド達も早く覚えてもらおうと必死である。既に名前を覚えられた運が良いメイド達もいるようだが・・・
「メルバ、今日の仕事は?」
「はい、本日も書類捌きがございます。メインはフスフルからの報告書に目を通し決裁するものがございます。」
「わかった。」
「執務室へ行く際にお茶を御用意致しますので・・・」
「うん。ありがとう。」
私はこれを皮切りにお茶の用意の為にお側を離れる。執務室程度ならば陛下も迷わず行けるようになっていたし問題は無い。全ては陛下の為だ。すぐに用意して執務室へと向かう。
「(ふふっ・・・今日も美味く淹れられそう・・・)」
るんるん歩きで厨房まですっ飛んで行きお湯を沸かす。陛下をお待たせするわけにはいかない。魔法を使って早く湯を沸かす。とにかく早く湯を沸かす。今日はどの茶葉がいいかなと選び、ボトルに移す。後は沸いた湯を持って執務室へ向かうだけだ。
「(〜♪)」
身嗜みを整え執務室のドアをノックして入る。
「失礼します陛下・・・あら?」
執務室の中は誰もいない、早く来すぎたか・・・?と思っているうちに湯が冷めてしまう。またもや魔法で温め直しながら陛下を待つ事にする。
「(陛下迷っているのかしら・・・)」
しばらく待っているとカチャリとドアが開く。
「ふぅ・・・あっメルバ。ごめん待たせちゃって。」
ぱあっと振り返りそうになるが己を律する。心頭滅却すれば火もまた涼し。
「いえ、それほどでも・・・どうかなさいましたか?」
「いやアミタとカミタに捕まっちゃって・・・大浴場使ってくださいってさ・・・」
アミタとカミタと言えば・・・浴場を管理するメイドだったか?既に陛下に名前と顔を覚えてもらっている運の良いメイドだ。しかし御手を煩わせるとは・・・
「陛下の御手を煩わせるようでしたら私の方から言っておきますが?」
「大丈夫だよ。悪気があるわけじゃないし・・・そのうち大浴場使うと思うからさ・・・多分。」
この分だと使わないな・・・あまり絡むようだったら私の方から言っておかないと。
「よし、じゃあ始めようメルバ。」
「はい。」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ぽん・・・ぽん・・・と判を押す音だけが響く執務室。私はお手伝いとしてまだ文字が読めない陛下のお側にいる。時折書類の説明をしたり、決裁した書類を束ねたり。二人だけの世界だ。口角が上がりそうになるのを必死に堪え作業をする・・・
「陛下、お茶のおかわりをお淹れしましょうか?」
「あっ、お願い。」
「かしこまりました。」
陛下のカップにお茶を淹れ直し、自分のにも淹れる。ふぅと一息つくと陛下は再び判を手に取った。会話は少ないが穏やかな時間を過ごせている。その時ドアがノックされた。
「陛下?いらっしゃいますか?」
「ああ、いるよ。入って。」
「失礼致します。」
入ってきたのはフスフルだった。書類の束を抱えていることから追加の書類だろうか陛下がげんなりとした顔をしている。
「追加の書類?」
「あっいえ、追加ではなく書類の回収です。」
「なるほど。メルバ、終わった書類を渡して。」
「かしこまりました。」
「ありがとうございます。・・・ええっと・・・はい、大丈夫です。」
フスフルは眼鏡を直しながら書類を確認している。その高い身長から出来る女感を出せるのは正直羨ましい。
「あの・・・パレードの馬具装飾等の決裁書類はまだですか?あれは早めに処理しなければならないので・・・」
私が決めた式典の書類か。確かに早めに処理しなければならない。私は山に埋もれている中から目的の書類を見つけ出し陛下に渡した。
「陛下、書類の説明をさせていただきます。」
「頼むよ。」
つらつらと書類の内容を読み上げていき、陛下の御耳に入れていく。陛下は勤勉であられるので一回の説明でいいだろう。
「なるほど・・・パレードに間に合わせるには今日決裁しないとね。」
「そうなります。では決裁を・・・」
判子をドスンと押し決裁。これで発注完了だ。
「ありがとうございます。では私はこれで・・・」
「うん。ありがとうフスフル。」
「はい。では失礼致しました。」
フスフルが退室して再び二人だけの時間が流れ始める。判を押す音だけが響き、時折りお茶を啜る音が・・・私はこの時間が好きだ。陛下のお世話もこの為にやっていると言っても過言ではない。筆頭補佐の仕事でやった初めての異世界召喚、私の陛下。やっててよかった。




