事故ったんだが???
自分の趣味であるソロキャンプ。調子に乗って夜中まで焚火で盛り上がってしまった。
案の定、寝坊した。テントとタープを急いで片付け、愛用のクロスカブに跨る。
ぼさぼさの髪のままで風を受けるがそんなに気持ちよくない。
カーブを曲がり、坂道を駆け抜け、峠を抜ける・・・が、急に空を舞った。
クロスカブがスリップして橋から飛んだのだ。
地面へと吸い込まれていくなか。「金枠虹演出きたー!」と謎の声が聞こえた。気がした。
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「ようこそ国王陛下!ソビエルツキー王国へ!」
・・・死んだのか。
目を覚ませば目の前に美女の大群。ここは天国なのか。周りを眺めれば豪華絢爛と言える部屋、そして魔法陣のような床の模様。なんだこれは。
「よおこそお越しくださいました。私どもは陛下のご誕生をとても待ちわびていました。」
どういうことなんだ。俺のブッシュクラフトツールは?テントは?クロスカブは?
「お困りの様子ですね。」
角と羽のある美人が前に出・・・角と羽?
「私、メルバと申します、陛下。」
「つつつつつつ角っ!は、羽っ!?」
「ああ、私は純正悪魔ですので。」
純正悪魔!?ってなんだ?悪魔!?それよりここはどこなんだ!俺のキャンプ道具は!?あんたたちは誰なんだ!?
「落ち着いてください。」
メルバという女性の手から雪のような粉が舞ってそれを浴びる。するとどうだ・・・さっきまで興奮していた頭がスーッと冴えていった。
「落ち着きましたか、今のは沈静化の魔法です。」
魔法・・・魔法って言った?
「そうです。ここは魔族の国・・・貴方は異界から召喚された、我が国の国王陛下なのです。」
「は?」
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それからはてんやわんやであった。裁縫師からは服を作るからと採寸され、絵師からは自画像をつくるからとデッサンされ、薬方師からは持病はないかと質問攻めされ、etc、etc、
とてもじゃないがくたびれてしまった。
「ご苦労様でした陛下。次はレアリティの鑑定です。」
「えっと・・・メルバ、さん、そのレアリティってのはなに?」
「メルバで結構ですよ陛下。レアリティをご存じありませんでしたか。それでは説明させていただきます。」
メルバの口から飛び出してきたのはなんとも理解しがたいものだった。曰くこの世界には有機物、無機物問わずレアリティが存在し、全てのものが星の数でレアリティ区別されているという。
野菜☆~4
魚・肉☆~6
鉱物☆~8
武器・防具☆~10
生物☆8~12
などなど大雑把に分けるとこうなるらしい。
「そしてそのレアリティを鑑定するには特殊な魔法道具が必要とされ・・・陛下?」
「え、うんうんうんわかるわかる。続けて?」
「はぁ・・・わからなければ後日また勉強しましょう。・・・つきました、こちらが王族専用の鑑定の間です。」
荘厳な扉を開けて目に飛び込んできたものは・・・派手な装飾を施した大きな丸鏡。
「あ、そうだ、俺の名前は・・・」
「待ってください陛下。お名前をまだお聞きするわけにはいきません。レアリティが変動してしまう可能性があります。」
「えっそうなの。」
「はい。そしてこの鏡はこの国で唯一星10以上まで鑑定出来る魔法道具、鑑定鏡となります。」
「名前はそのままなんだね・・・」
「この鏡の簡易版が流通され他のレアリティも民生用で鑑定されています・・・それでは鑑定をはじめさせていただきます。」
メルバが呪文をつぶやき始めると丸鏡は波うち鏡の中に大きな顔が現れる。つい驚いて尻もちをついてしまう。
「さあ陛下、鏡の前で名前を」
『汝の名は』
「喋った!?」
「そりゃ喋ったりもします。陛下、お早くお願いします。この後も予定がたくさんありますので。」
「わ、わかった。」
『汝の名は、しゃべった。』
「え、違います。」
『汝の名は』
よかった・・・、訂正できるのか。
「ジュンイチ。」
『汝の名は、ジュンイチ』
鏡が俺の名を呼ぶ、すると鏡の中に星が綴られていく・・・1つ、2つ・・・次々と増えていく星の数に見惚れているとメルバが話しかけてきた。
「陛下は・・・ジュンイチという名前だったのですね。」
「そう、だけど・・・変かな。」
「いえ、私どもの世界ではあまり聞かない名前でしたので・・・よろしくお願いします。ジュンイチ様。あ、星の数、12を、超えましたね・・・」
12?12を超えちゃうと何かあるのかな。
『汝のレアリティは、以下である。』
鏡に映し出された星の数は14個。すごそうだと感じたが自分はそれくらいにしか感じない。が、メルバの目は見開いて驚いている。
「星14・・・!?既存のレアリティから外れて・・・これは・・・!?」
「えと・・・メルバ、これはすごいことなの・・・?」
「こほん・・・はい、現在我が国の最高レアリティは星12です。そこからレアリティが更新されるというのは・・・」
「されるというのは・・・?」
「荒れます。」
「は?」
荒れるってどういうことなんだろう。
「私にもわかりません。ですが我が国の文献によればレアリティが更新されるとなにかしら事件がある・・・とだけ。」
「そんな適当だなぁ・・・だ、だけどこれから俺が国王になるんだろ!?それは困るよ!!」
「まぁまぁ。ぶわぁー」
「わぷ!?」
再び雪の粉を浴びて熱くなりそうだった頭が冴えていく・・・荒れるというくらいなら国王になんてなりたくなかったなぁ・・・
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レアリティの鑑定を終え、次々と手続きのようなものを済ませるが・・・字が読めなかった。会話は出来るのに不思議だ。そして俺のレアリティが星14だというのがあっという間に広まっているらしい。
いいのかそれで。
「お疲れさまでした。陛下。以上が今日の行事です。あとはごゆっくりとお休みください。お部屋に案内いたします。」
今日一日メルバがずっと傍にいてくれた。何故だか心強かったが・・・そういえばメルバはレアリティはいくつなのだろう。
「メルバ、君のレアリティはいくつなんだい?」
「私ですか?陛下がいらっしゃるため最高ランクの座は受け渡しましたが星12になります。」
「優秀なんだね。」
「優秀だからレアリティが高いわけではございません。食材などではレアリティが高いほど美味にはなりますが・・・レアリティに恥じないよう努めてはおります。」
「そうだったのか・・・」
「他にもご質問などありますか?私は陛下のお付きになると思いますのでなんでもお聞きください。」
「じゃ、じゃあ俺のキャンプ道具やバイク、どうなったか知らない?」
「きゃんぷどうぐ・・・ばいく・・・それが何かは存じませんが召喚前に持っていたものでしょうか。残念ですが召喚は陛下お一人の為持ち物については・・・」
「そうか・・・あと、俺は帰れるのかな・・・」
「それも残念ですが・・・」
「国王になるしか道はないのか・・・」
「そのための召喚ですので。」
うーんわからないことだらけだけども・・・今日はもう疲れた・・・自分に与えられたこの部屋・・・大きなベッドがありとても豪華だが・・・部屋の窓から見える景色はちょうど日が陰ってきた時間だ。
「うん、わからないこといっぱいあるけど今日はもう休みたい・・・それでいいかな。」
「かしこまりました陛下。ごゆっくりお休みください。お食事などはどうなさいますか。」
「このまま寝るからいらないよ。ありがとう。」
「わかりました。おやすみなさいませ陛下。」
メルバが丁寧にお辞儀をして部屋から出て行った・・・さて。
「うおおおおおおお!」
どうなってるの!?召喚!?魔法!?レアリティ!?何がなんだかさっぱりだ!ゲームで齧っているから意味は分からなくもないけど実際に目にするのとは違・・・待てよ。これはドッキリなんじゃないか?
あのぶわーっと雪みたいなの舞うのだってトリックかもしれないし字が読めずに言葉通じるところだって怪しい。ならば今はこの豪華な待遇を満喫しようじゃないか!こんなにでっかいベッドに寝れるなんてぼっちの俺には
そうそうあることじゃない。そうだ明日の朝になればドッキリのプラカード持った人たちが現れるに違いない。そうだよ随分手の込んだドッキリだけど。ていうかもう寝よう。