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草だけ食べてHP100万!~俺たちの最高に泥臭い異世界転生~  作者: 猿渡かざみ
第二章 地上に舞い降りた天使たち編
44/51

44 残り50万は彼のもの


 マリンダは槍、レトラは弓矢、そして飯酒盃は巨大なヒョウタンをも攻撃の一部に取り入れた変則酔拳。

 各々が今持てる最高の武器をもって、鴻池操る巨大ヤモリの群れへと挑んだ。力の差は歴然である。


 レトラとマリンダが巧みな連携をもって一匹のヤモリを倒す傍ら。

 飯酒盃は、たった一人にして、巨大ヤモリどもを一匹、また一匹と打ち倒してゆく。

 更に飯酒盃は自らのチート“エンター・ザ・ドラゴン”により、酒を飲めば飲むほど、加速度的に強くなる。


 どうやらヤツは昨夜の飲み会の際、まったく本気を出していなかったようだ。

 あれだけ酒を飲んだというのに、彼女の動きはキレを増すばかりで全く限界が見えない。とんだ酒豪である。

 ――そして彼女は際限なく強くなる。


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  イサハイマツリの こうげきが 100アップ!

  イサハイマツリの すばやさが 100アップ!

  イサハイマツリの かいひが 100アップ!

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 また一匹、巨大ヤモリがダウンする。

 すなわち鴻池を囲む肉の壁ならぬ分厚い鱗の壁が、また一枚剥がれ落ちた、ということだ。

 しかし――まだ届かない。

 無尽蔵に湧き出てくる巨大ヤモリどもは、彼女らと鴻池の間に何度でも立ちはだかる。


 全ては時間稼ぎなのだ。

 鴻池の手先と化したゴーレムが、我慢比べに負けた俺を殴り倒して、それから飯酒盃やレトラやマリンダを抹殺するまでの。

 ――ならば意地でも、倒れてなどやるものか!


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  クワガワキョウスケに 691 のダメージ!

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「ぐっ……!」


 ゴーレムの剛腕によるアッパーカットが、俺の顎下に突き刺さる。

 頭の奥の方でみしり、と音がした。意識が飛びかける。

 しかし、踏み止まった。


「食らえゴーレム! 俺の渾身の拳骨!」


 踏み止まり、振りかぶり、カウンターに拳骨をお見舞いする。

 俺の拳骨は、がぁん、と鈍い音を響かせ、ゴーレムの金属質な身体に傷一つ与えることは叶わなかった。


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  ユートピア・ゴーレムに 2 のダメージ!

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 ゴーレムの赤い結晶体が、妖しく輝いた。

 次の瞬間、目にも止まらぬ速度で放たれた、文字通りの鉄拳が俺の顔面に打ち込まれる。


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  クワガワキョウスケに 702 のダメージ!

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 大きくのけぞる。

 鉄臭く生暖かい液体が、鼻の奥から滲みだした。

 背中から地面にダイブして、天を仰ぐ。

 ゴーレムが自らの勝ちを確信して、標的を飯酒盃に変えた。


 実際にゴーレムと戦い、飯酒盃の動きを見て確信したのだが――今の飯酒盃ではゴーレムを倒せない。

 さすが理想郷の管理人、さすがユートピア・ゴーレム、さすが俺の相棒、と言ったところか。

 彼はすさまじく強い。驚くべきことに、チートを使用した飯酒盃すら上回る実力を持っている。


 つまり俺がここでゴーレムを行かせてしまえば、まず間違いなくゴーレムは飯酒盃を殺す。

 続いてレトラを、そしてマリンダを殺す。自分の意思とは無関係に、鴻池に操られるがまま。

 そうして鴻池は勝利を収める。

 あれほど人情味溢れるゴーレムの手を、血に染めさせて。

 ――そんなことは、親友としてもちろん見過ごすわけにはいかない。


 俺は、ゴーレムの足にすがりついた。

 ゴーレムが、再びこちらへ注意を向ける。

 まるでしつこく顔にまとわりついてくる羽虫に対して向けたソレのように、冷ややかな視線だった。

 その視線に対して、俺は挑戦的な笑みで返す。


「こんなんじゃ、全然効かねえぞ……! まだ俺のHPの10分の1も削れてねえぜ……!」


 その直後、ゴーレムが全体重を乗せ、丸太のような足で俺を踏みつける。


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  クワガワキョウスケに 734 のダメージ!

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「かっ……!」


 メキメキと背骨が音を立てる。血反吐が出た。

 肺が押しつぶされて息が出来ない。視界が明滅する。


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  クワガワキョウスケに 722 のダメージ!

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  クワガワキョウスケに 681 のダメージ!

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  クワガワキョウスケに 717  のダメージ!

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 ゴーレムは更に連続して踏みつけてくる。

 さながら豪雨のようなストンピング。

 頭、背中、足、あますところなく踏みつけられ、クレーターが出来上がる。

 訳が分からなくなるほどに踏みつけられ、まるで自分が地面の一部になってしまったのではないかと錯覚したほどだ。

 何度も意識が飛びかけ、そのたびに踏みつけられて、再び覚醒させられ、またしても意識を飛ばされる。


 やがて踏みつけの雨が止み、ゴーレムはこちらを一瞥すると、再び飯酒盃へ向かい、歩み出す。

 俺は、やはりゴーレムの足にしがみついた。


「っ……行かせねえよ……! まだ俺たちの喧嘩は終わってねえじゃねえか……! はっ……友達だろ、もう少し付き合えよ……!」


 俺はゴーレムの足にすがりついて、なんとか立ち上がる。

 膝が笑っていた。まっすぐ立つことすらままならない。

 全身を痛みが支配し、気を抜けばすぐにでも意識を失ってしまいそうだった。


 しかし、俺は生きている。

 普通ならば百回は死んでいるところだが、100万もあるHPが、俺に生命活動を続けさせている。


 俺は理想郷での日々を思い出した。

 全く望まない異世界転生、その挙句送り込まれたのは“理想郷”とは名ばかりの、天国に最も近い地獄。

 過酷な環境下で食えるものといえば、草か、トカゲか、虫か、カエルぐらいのもの。

 時折吹きすさぶ強風、雲下を飛び回る巨大なドラゴン、そして、孤独。

 こんな劣悪な状況で惨めに、みっともなく、人間としての尊厳さえ捨ててまで泥臭く生き延びた結果、手に入れた俺の唯一の武器が6桁のHPだ。


 しかし、これは俺の勝ち取ったものではない。

 ゴーレムが傍にいてくれたからこそ、俺はあんな地獄みたいな場所で生き延びることが出来た。

 すなわちこれは、この馬鹿げた世界に反逆するため、俺とゴーレムの二人で獲得した、いわば俺たちの泥臭い日々の結晶なのだ。

 幾多の苦難を、そして楽しみを分かち合った。

 ならば100万あるHPの内半分は俺のもの、そして残りの半分は、彼のもの――


 俺はゴーレムに立ちはだかる。全身の痛みなどなかったことにして、いつも通り笑いながら。


「――せめて50万は削っていけよ、友達っていうんならさ」


 俺の言葉が通じたのかは知らないが、ゴーレムが拳を振りかぶってこちらへ向かってくる。

 ――地獄の釜で飯を共にしたような仲だ、こうなりゃどこまでだってついていってやるよ。

 俺は迫る拳を前にして、高らかに笑ってやった。


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  クリティカル! クワガワキョウスケに 814 のダメージ!

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