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草だけ食べてHP100万!~俺たちの最高に泥臭い異世界転生~  作者: 猿渡かざみ
第二章 地上に舞い降りた天使たち編
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37 イヘルキゾンビ紀行


 俺は華麗なハンドルさばきでパゼロを操り、異世界の大地を駆ける。

 むろん、現世のような舗装された道ではないので相当な悪路なのだが、そこはそれ、田舎育ちの俺からすればなんてことはない。

 悪路なんざ慣れっこだ。

 前世では燃費もクソもありゃしないレッカー寸前の軽トラとともに、畦道だろうが、山道だろうが、また地元住民が誰も通りたがらない人食い峠でさえ幾度となく制覇してきたのだ。

 パゼロの四駆と俺の運転テクをもってさえすれば、異世界の道なき道など公道も同然である!

 なんだか少し楽しくなってきたぞ!


「――きょっ、きょきょ、キョウスケ様っ!! しっ、死んでしまいますっ!!」


 しかしどうやら後部座席のレトラはそうは思っていないらしい。先ほどからシートにがっしりとしがみついて「死ぬ死ぬ」と喚いている。

 60kmそこらでなにを大袈裟な……と思いかけたが、そうか、レトラはこっちの世界の住人だから、車に乗るのは初めてなのか。

 なんだか、初めて異文化との交流を意識したぞ。


「いぇ〜い! 恭介君もっと飛ばしましょうよぉ!」


 ほら、飯酒盃に至っては俺と同じ現代日本からの転生者であるからして、助手席で酒を煽りながらこのドライブを楽しんでいるじゃないか。

 ……いや、やっぱやめろ! 俺の車で酒を飲むな! 車内にアルコールの臭いが充満して気分が悪くなってきた!


「きょ、キョウスケ様……私吐きそうです……うっぷ」

「だぁっ!? 飯酒盃! ソーマ出せソーマ!」

「はあい、ささぐいっと!」


 飯酒盃が後部座席のレトラへソーマで満たされた盃を手渡す、レトラはすぐさまこれを飲み込んで、再び天にも昇りそうなさわやかな笑顔を取り戻した。

 万能の神酒ソーマは車酔いにも有効である。

 ……俺たちいつかバチが当たるのではないだろうか。


「いや、今はそんなことはどうでもいい! 問題はこれからどうするかってことだ!」


 レトラの言った通りならば、今、アルヴィー族の集落は今やゾンビと化した女たちに占拠されている、というわけだ。

 まさかこんなコテコテファンタジーな異世界でバイオハザードをやる羽目になるとは、いったい誰が予想できただろうか! 世界観どうなってんだ! 異世界でパゼロ運転してる俺が言うのもなんだけど!


「――皆を助けに行きましょうキョウスケ様!」


 レトラが後部座席より身を乗り出して言った。

 もちろん、レトラならばそう言うと思っていた。しかし


「レトラ、皆を助けるなんて簡単に言うが……どうするつもりだ」

「ソーマです! このソーマを飲ませれば、皆も正気に戻るでしょう!」


 レトラが盃にわずかに残ったソーマを指して、そのすぐ後に、残りのソーマを飲み干した。晴れやかな表情になる。

 確かに、ソーマがゾンビ化した人間にさえ有効であるのは、レトラが身をもって実証済みだ。

 しかし


「それが難しいんだよ。考えてもみろ、飢えた獣も同然に襲いかかってくるやつにどうやってソーマを飲ませるんだ」

「わ、私が押さえ込んで……」

「一人二人ならそれでもいいかもしれんが、向こうが何人いると思ってる? どんだけソーマで治しても、すぐにもう一度噛み付かれて終わりだぞ?」

「そ、それは……」


 レトラの語尾が弱まる。

 厳しい言い方だが、そうでもしないと彼女は納得してくれない。

 というかゾンビもののセオリーとして、ヤツらと戦うにあたっての希望的観測は全く意味がないのだ!


 ――だが、だからこそ俺に策がある。


「あえて、集落に戻ろうと思う」


 俺はハンドルを大きく切って、進路を変えた。向かうはアルヴィー族の集落だ。


「えっ……!? な、なんで……!」

「理由はある!」


 俺は一本指を立てる。


「今回の事件には十中八九転生者が絡んでる!」

「ど、どうして分かるんですか!?」

「なんというか、同じ転生者としてのシンパシー的なものだ!」


 言うまでもなく、そんなスピリチュアルな理由ではない。

 このファンタジー世界にゾンビなどという概念を持ち込むような悪趣味な真似、転生者以外にやるものか!


「そしてこの惨事が転生者の仕業だった場合、奴らの狙いは間違いなくアレだ!」

「あっ――!」


 レトラもこちらが言わんとしていることに気付いたようだ。

 そう、これが転生者の仕業だとすれば、ヤツらの狙いは間違いなくチート。

 すなわちアルヴィー族の保管するチートボックスだ。


「だとすれば、ヤツはこの混乱に乗じてボックスを奪いにやってくる可能性が高い!」

「な、なるほど! つまり今集落へ戻れば……!」

「そうだ! この事件の元凶と鉢合わせになる!」


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 いくらゾンビと化したアルヴィーの女たちを片っ端からソーマで治療しようとも、元を叩かねば意味がない。

 さもなくば腹筋の割れた褐色肌の女ゾンビが永遠に量産され続けることとなる!


 その上元凶にチートボックスまで奪われようもんならそれこそ手が付けられない。

 しかも今あの集落には俺が近藤琢磨から吐き出させたチート、“天上天下唯一無双俺俺俺”もある。

 だからこそこちらから打って出るのだ。手遅れになる前に。


「で、でも、相手は転生者ですよね? 私たちに勝てるんでしょうか……?」

「心配すんな! こっちには転生者が二人、数で言えばこっちの方が優勢だ!」

「ど~んと、任せてくださいねぇ」


 飯酒盃が自信ありげに胸を張る。

 ……本音を言うとお前にはあんまり期待してないんだけどな、アル中。


「……どちらにせよ、こんな回りくどい真似をするヤツは、好かねえんだ」


 俺は更に力強くアクセルを踏み込む。

 やがて地平線の向こうに、アルヴィー族の集落が見えてきた。


 その途端、俺の頭の中でこの集落へ訪れてから知り合った彼女らの、様々な表情がフラッシュバックする。

 強く、気高く、長たる器を持ち、誰よりも仲間を思うターニャ。

 攻撃的ではあるものの、その実は素直で、子供たちのためにレベル1ながらも這う者へと立ち向かったマリンダ。

 そして、名前も知らぬアルヴィー族の女たち。レトラの家族。


 そんな彼女らの誇りを、絆を、このような形で踏みにじるなど、外道のやることだ。

 そしてこんなにも曲がったこと、じいちゃんならきっと許さない。

 たとえ目の前にどんな障害が立ち塞がろうとも、地の果てまで追いかけて行って、渾身の拳骨をお見舞いするはずだ。

 そして悲しいかな、俺もまた確実にじいちゃんのDNAを受け継いでいる!


「さあ覚悟決めろよ二人とも! 今からアルヴィー族の集落に乗り込むからな!」

「はい!」

「いぇ~~い!」


 ……やっぱり、飯酒盃がいるとイマイチ締まらないんだよなぁ。



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