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草だけ食べてHP100万!~俺たちの最高に泥臭い異世界転生~  作者: 猿渡かざみ
第二章 地上に舞い降りた天使たち編
23/51

23 異世界転生の季語


 ハーレムと言えば異世界転生、異世界転生と言えばハーレム、俳句を作るとするならハーレムは異世界転生を表す季語として存分に活躍してくれるであろう。

 そして今の俺の状況といえば、四方見渡す限りの美女集団、見ようによってはハーレムである。

 瞳は吸い込まれそうなほどに大きく、鼻筋は通って、スタイル良し。

 日本人にはない、いかにも異国情緒たっぷりといった感じで、眼福である。

 一つだけ注文をつけさせてもらえるとするのなら、各々が携えた武器の数々さえ無ければ完璧なのだが。


 どうでもいいが、本当の美人とは殺気に顔を歪ませていてもなお美しいのだな、なんてことを悠長に考える。


「ええと、何か誤解があるみたいだが」


 俺は自らに敵意などかけらもないことを示すため、にへらっと友好的スマイルを作る。

 しかしまあ、元より作り笑いなどとんとしたことのない俺だ。その途端、周りの奴らが一斉に武器を構え直したところを見るに、作戦は失敗である。


「お、長!? これは一体……!」


 アルヴィー族の女たちの中で唯一状況が飲み込めない、といった風に声をあげたのがレトラだ。ターニャは依然、俺に縫いつけるような鋭い視線を向けたまま、これに答えた。


「レトラ、お前は素直すぎる。この男は我らが神などでは断じてない、見ろ、あの出で立ちには見覚えがある、ヤツは転生者だ」

「キョウスケ様が、転生者……!?」


 レトラは「転生者」というワードに驚愕していたが、それはこちらも同様だ。

 なんだ? 転生者というのは、この世界ではそれほど広く認識されているのか?

 そして周囲の反応を見る限り、少なくともアルヴィー族にとって、転生者というのは好ましくない存在のようだ。


「そうだ、女神より与えられた力などと嘯き、摂理に反した――悪魔のごとし力を振るい、極悪非道の限りを尽くす、ヤツらのことだ!」


 悪魔って。

 ひどい言われようだな、転生者。


 と言いかけたところで、近藤琢磨のことを思い出す。確かに、あいつにしたって、いきなりゲーム感覚で俺とゴーレムを殺しにきた。

 あんな感じのなんというか、浮かれたヤツらが転生者のスタンダードだとすれば、彼女らの評価もあながち間違いでもないような気もする。

 ただ、一つだけ声を大にして言いたいんだが、俺はチートもらってねえからな!?

 摂理に反した、悪魔じみた力なんてカッコいいものも持ってねえし、悪逆非道の限りを尽くす余裕もなかったからな!?


「貴様もそうだろう転生者! 大方その女とグルになってレトラをたぶらかし、我らアルヴィー族の保管する箱を手に入れるつもりだったのだろうが、そうはいかん!」


 箱、というワードも気になるのだが、その女、と言われて、ちらりと飯酒盃の方へ視線をやる。

 おそらく先ほどの汁に睡眠薬の類が盛り込まれていたのであろう、彼女は地べたにだらしなく崩れ落ちて、実に幸せそうにぐーすかいびきをかいている。

 こいつ、登場してから飲むか寝るかしかしてねえじゃねえか! 気楽にやりやがって!

 俺はひとしれず歯嚙みをした。


「最初は眠らせてから適当に集落の外へでも放り出すつもりだったのだが、まさか片方が高い毒物耐性持ちとは誤算だった。少々手荒な真似をとらせてもらうぞ!」


 ターニャの号令により、女たちが臨戦態勢にうつる。武器の矛先は、言うまでもなく俺だ。


「待て! 待て待て待て待て! 俺はお前らに危害を加えるつもりはないし、箱? とかいう何かも知らん!」

「この期に及んでしらを切るか! アルヴィー族を舐めるな!」


 ターニャが構えた槍の穂先をこちらに向けてくる。

 完全に興奮してしまっていて、理性的な話し合いなどはとても望めそうにない。


 もう何度目になるのかも分からない、絶体絶命的状況だ。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、別に俺は出てけと言われれば素直に出て行くぜ……」


 と、言いながらなんとか時間を稼ぎつつ、頭の中で「ステータス」と唱える。


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 クワガワ・キョウスケ Lv7

 

 農民

 

 HP 242/999999

 MP 12/12

 

 こうげき  17

 ぼうぎょ  21

 すばやさ  18

 めいちゅう 15

 かしこさ  17

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 HPは自然回復分とゴーレムがくれた薬草の回復分を合わせて、残り200ちょっと。

 スカイフィッシュを倒してレベルが多少上がったとはいえ、それでもHP以外の数値が軒並み初期状態のまま、ということを鑑みると、今の状況はいささか心許なさすぎる。


 周りを見渡せば約10人前後のアルヴィー族の女戦士たちが、おれたちを囲んでいる。

 しかしこれは狭い屋内での話だ。ここから見える数だけ、というのも考えづらい。おそらくはこの外にさえ、何人かのアルヴィー族の女戦士たちが待ち構えているのだろう。

 完全に包囲されている、ということだ。

 まして、俺はこの気持ちよさそうに眠りこけている飯酒盃を抱えて逃げなくてはならない。

 中途半端に逃げようとしたところで、今の俺の素早さではあっけなく捕まってリンチである。


 逃げ道はない。ではいっそ守りに徹して戦う意思がないことを示すか?

 それも無理だ。彼女ら一人一人のレベルがいかほどかは知らないが、おそらく俺より弱い、なんてことはないだろう。

 あっという間にボコボコにされて野に捨てられるのが目に見える。

 いや、なんなら勢い余って殺してしまった、なんてこともあり得る。


 退路はなし、無抵抗もなし、ではいっそ戦うか?

 それこそ一番ない。

 今の俺はスキル超野菜人の効果で、攻撃力にありえないぐらいの補正がかかっているのだ。

 それをこんなところで解放してみろ、衝撃波だけでアルヴィー族を根絶やしにしてしまう可能性すらある。

 ジェノサイドなぞ、誰も望んでいない。


 さあ、本格的に八方塞がりだ!


 脳味噌に再び働いてもらう。現世にいた頃は頭なんてほとんど使ったことがなかったため、キャパシティはとっくの昔にオーバーしているのだが、やはり命がかかっているとなると違う。

 ――名案が浮かんだ。


「ああ、くそ! 先に言っとくが、これは不可抗力だぞ!!」


 俺はツナギの胸ポケットにしまったあるものを取り出し、そして近藤琢磨の見様見真似で、宣言する。


「――ボックス開放!」


 そう、それはあの時、近藤琢磨の吐き出したボックスのひとつだ。


『ボックス開放、“天上天下唯一無双俺俺俺”起動します』


 ボックス、と呼ばれるテニスボール大の立方体が淡い光を放ち、光は俺の身体の中へと染み込んでいく。

 またボックス自体も光の粒子へと変わって、俺の身体に入り込む。

 身体の末端から力の充実していく感覚があり、それがまたなんとも言えない心地よさだ。


「箱だ! もういい! 力が発動する前に殺してしまえ!」


 ターニャが叫ぶ。

 俺を囲むアルヴィー族の女たちが怒涛のように押し寄せる。

 その一瞬、「待って」と叫ぶレトラが見えた気がするが、俺の視界はすぐに肉の壁によって覆い隠された。


 多種多様な武器の切っ先が、俺の身体に到達した。辺りを静寂が包み込む。誰もが言葉を失っていた。

 そして静寂を破ったのは、無機質なメッセージウインドウである。


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 クワガワキョウスケの こうげきが 999アップ!

 クワガワキョウスケの ぼうぎょが 999アップ!

 クワガワキョウスケの すばやさが 999アップ!

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 クワガワキョウスケに 1 のダメージ!

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 クワガワキョウスケに 1 のダメージ!

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 クワガワキョウスケに 1 のダメージ!

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 クワガワキョウスケに 1 のダメージ!

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 からんからん、と一種間抜けにも聞こえる音が、断続的に続いた。

 それは、無残にも折れてしまった刃が、次々と地に落ちる音である。


 アルヴィー族の女戦士たちが、驚愕に顔を強張らせながら、後ずさりをした。それによって、再び俺の周りに円ができる。

 そしてその円の中心で、驚くべきことに傷ひとつない自身の身体を見下ろして、俺はひとり呟くのだ。


「俺つえええ……」


 そうだ、俺TUEEEもまた、異世界転生の季語である。

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