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18 ここから始まる異世界転生


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  クワガワキョウスケは スカイフィッシュを たおした!

   ・1153の経験値を獲得

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  クワガワキョウスケの レベルが 7 にあがった!

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 ぱんぱかぱーん。

 陽気なファンファーレが俺を祝福する。


 こんなにも不吉なファンファーレが、未だかつて存在したであろうか。

 なんとも言えない浮遊感が足元より駆け上ってきて、内臓はふわりと浮かび上がるかのような心地だ。

 見ると、俺の足場たるスカイフィッシュが空中で息絶えていた。


 驚くべきことに、近藤琢磨との戦いの余波が、はからずも彼の尊い命を奪ってしまったのだ。

 ははは、拳骨の衝撃波だけでドラゴン倒しちゃった。

 いや、全然笑えなかった。


「終わった」


 スカイフィッシュの巨体が大きく傾く。

 あとはもう言うまでもないだろう、スカイフィッシュの身体ごと地上へ真っ逆さまだ。

 ぐんぐんと地上が近づく。

 俺はというと振り落とされないようスカイフィッシュの背中にしがみつくのが精いっぱいだ。


「~~~~っ!!!」


 死ぬ! 誇張表現でもなんでもなくて順当に死ぬ!


 ほんの数秒後には地面に激突して間違いなく死ぬのだが、それを待たずして死んでしまう!

 前世での最期といい、どうやら俺は落ちて死ぬことにとことん縁があるらしい!


 一度は捨てた命、たとえどうなってもいいと諦めをつけていたつもりだったが、今なら分かる。

 全然、全く、1㎜たりとも――死にたくない。


 情けないことに確実な死を前にして、俺自身、呆れるくらい生への執着にまみれていたのだと気付いた。

 一人残されたゴーレムのことを言い訳にしていたが、そんなのは嘘っぱちだ。


 死にたくはない。

 たとえチートがもらえずとも、ハーレムを築けずとも、見知らぬ土地に放り出されようとも。

 情けなく、格好悪く、泥臭く、生きていたかったのだ。


 だからこそ、俺は声にならぬ声で、唯一の友人の名を叫ぶ。

 ――ゴーレム。


「キョースケええええ!!」


 耳を疑った。

 死を目前に控えた俺の生み出した幻聴であると思った。


 しかし、それは誤りだ。

 彼は、遥か頭上より別個体のスカイフィッシュを操り、猛スピードでこちらへ急降下してきているではないか。

 それがさも当然のことであるかのように、彼は俺を助けるために登場したのだ。


 同時に、スカイフィッシュにしがみつく俺の腕が限界を迎えた。

 両手の指が鱗の上をずるりと滑って、俺の身体はあえなく空中に投げ出される。

 視界がぐるぐると移り変わり、上下左右も分からなくなる。

 内臓全てがシェイクされるような感覚が俺を襲ったその刹那――ゴーレムはスカイフィッシュを巧みに操り、そしてあの大きな手のひらで俺を受け止めたのだ。


「ご、ゴーレム、お前……!」


 ぐちゃぐちゃになった脳味噌を整理して、なんとか感謝の言葉をひり出そうとする。

 するとゴーレムは有無を言わさずに俺の口の中へ何かをねじこんできた。

 そこはかとなく懐かしい青臭さが鼻を抜ける。


「むぐっ!」


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  クワガワキョウスケの HPが 123 回復した!

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 これは回復系の薬草か?

 微々たるものだが、体に活力が漲るのを感じる。


「全く無茶しおって! ワシがいったいどれだけ心配したか……!」


 ゴーレムは今にも泣き出しそうな声だ。

 いや、実際に彼がゴーレムでなければ、わんわんと声をあげて泣き崩れてしまっているであろうことは容易に想像できた。

 本当に、情緒豊かなゴーレムである。

 俺は感謝の言葉よりも謝罪の言葉よりも先に、堪えきれなくなって声をあげて笑ってしまった。


「こ、コラ! 何故笑うのじゃ!」


 そんなことを言われても止められないのだ。

 初めは怒ったような泣きそうなような声をあげていたゴーレムも、やがてこちらにつられて笑い出した。


 スカイフィッシュは緩やかな下降へと移行し、ようやく周囲に目を向ける余裕が生まれる。

 目下には雄大な自然が広がっていた。肌に感じる風と混ざり合って様々な匂いが運ばれてくる。

 目に映る光景も、匂いも、全てが新しかった。


「――理想郷はもうこの世界のどこにも存在しない、理想郷を守るために作られたワシが言うのもなんじゃが、悲しい以上に、とても楽しいのじゃ。良くも悪くも、ワシは自由じゃ」

「晴れて定年退職だな、これからどうする?」

「そうさなぁ」


 ゴーレムは心底楽しそうに、声を弾ませてこれに答えた。


「キョースケ、おぬしについていくよ! 月並みな言葉じゃが、その、おぬしといるともっと楽しい事が待っている気がするのじゃ!」

「お前も恥ずかしいことをさらりと言うな!」


 肘でゴーレムを小突く。

 言うまでもなく照れ隠しだ。


「ははは! 許せよキョースケ! では着陸するぞ!」


 ゴーレムの言葉を合図に、スカイフィッシュの身体がぐるぐるととぐろを巻きながら地上を目指す。

 ややあって、スカイフィッシュはなだらかな丘の上に着陸した。


「さあ到着じゃ!」


 ゴーレムは俺を抱えたまま、スカイフィッシュより飛び降りて大地に立つ。

 ふと振り返ってみると、どうやらテーブルマウンテンからはずいぶんと離れてしまったようだった。

 あそこから降りてきたのだと思うと、やはり感慨深いものがあった。


 遅れてどすんと音がする。

 見ると――なんということか、てっきり理想郷とともに散ったと思われたあのパゼロがそこにあるではないか!


「それは大事な物なのじゃろう? スカイフィッシュに咥えさせて持ってきたのじゃ」

「うおおおゴーレム! 本当にお前ってやつは……!」


 嬉しさのあまりに泣き出してしまいそうだった。

 スカイフィッシュにも感謝しなくてはいけない。

 不本意とはいえ、ヤツの仲間を殺してしまった俺の命を助けた上、しかもパゼロまで運んできてくれるとは。


 ゴーレムが巨大な手のひらでスカイフィッシュの頭をなぜると、彼はころころと喉を鳴らして、次の瞬間には凄まじいスピードで飛び立っていった。

 再び住処である雲海へと帰るのだろう。俺たちは天に昇る彼の後ろ姿を見送った。


「……さて、ワシらも行くとするか」

「ああ」


 自然と声が震えた。

 それも仕方ない事だろう、なんせ今の俺たちには可能性しかないのだから。

 俺たちの、本当の意味での異世界転生はここから始まるのだ。


 俺とゴーレムは、同時に振り返る。

 まだ見ぬ世界への歴史的一歩を踏み出すためだ。

 そして振り返ったその先には――そこそこに異様な光景が広がっていた。


 まず異様な生物の存在。

 手足が以上に長く、それでいながらひょろっちい、枯れ木にも似た青い肌の生物がこの丘に終結している。

 これはあの、俗に言うモンスターというやつだろうか?


 そしてモンスターの群れに囲まれて、薄い布を服代わりに纏った褐色肌の少女が立っている。

 耳の先がつんと尖って上を向いているところを見るに、もしかするとエルフとかいうやつだろうか?

 弓を携えていることから、今まさにモンスターたちと戦っている最中であったことがうかがえる。


 しかしなによりも異様なのは、少女の足元に座り込んだ、一人の女性の存在である。

 背中にしょった巨大な“ヒョウタン”はさることながら、とりわけ目を引くのは漆黒のパンツスーツだ。


 彼女もまた転生者なのだろうか?

 しかしその割には緊張感が皆無――というかあからさまに酔っぱらって、ぐでぐでになっている。

 表情はだらしなく緩み切って頬が赤らんでおり、ワイシャツもはだけている。


 三者三様。

 全ての異なったヤツらの共通点は、皆一様に――俺たちへ注意を向けていることだ。

 もしかしなくても地上へ降りて早々、とんでもない場面に出くわしてしまったのかもしれない。


 静寂に満ちた空間の中で、やがて褐色肌の彼女は、こう叫んだ。


「――かっ、神様!!」


 俺は顔をひきつらせて、ゴーレムと目配せをした。


ひとまず「第一章 最も天国に近い地獄編」完結です!

感想評価お待ちしております!今後ともどうかよろしくお願いします!

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