冒険3:ロキとの出会い(前)
今回は少し短めです。
私がロキと契約したのは、13歳の時だった……。
その頃は、王宮魔導師を目指して、日夜魔法の練習をしていたんだけど、何せ私は魔力が強い。それは、魔法に失敗した時の被害も大きいという事を意味している。
だから私は、何時も魔法の練習をする時には、街から離れた森の奥深くで練習をしていた。
その辺りに出る魔獣は、とても強く、一般の人や力の弱い冒険者もやって来ない。私が全力で魔法を使っても、誰にも迷惑が掛からないのだ。
何故私が、失敗すること前提で場所を選んでいるのかというと……。
私は、魔力が多くて全要素の魔法が使えるにも関わらず、魔法を使うのが下手くそなのだ。
この世界の魔法は、イメージがとても大事だ。
なのに私は、そのイメージが上手くできない。
掌に炎を出したいという程度でも、実際に魔法を発動すると掌から火柱が立ち上がってしまう。
原因は、魔力が多すぎる事らしい。
そのせいで、イメージと使用魔力量が噛み合わなくて、凄く威力の高い魔法になってしまうみたいなのだ。
どうすれば、魔法の暴走(?)を止めることが出来るのか、私は必死で色々と試行錯誤した。
その結果、一番良い方法として残ったのが、『魔法のイメージを、具体的に言葉で表現する事でイメージと現実の齟齬を減らす』と、言うものだった。
そりゃあ、慣れないうちは失敗もするけど、使っているうちに段々上手くコントロールできる様になり、詠唱をしなくても魔法が使える様になる。
だから私は、その日もせっせと人気の無い森の中で、魔法の練習をしていたのだ。
「土と火よ、互いの力を求め高めよ。高めたその姿を天高くより雨の如く降り注ぎ、大地を焼き尽くしたまえ!」
出来るだけ詳しく魔法の様子を言葉にするんだけど、少しでも詠唱時間を短い言葉で表現するため、なんだか痛い言い回しになってしまうのが玉に瑕だったりする。
その上、明確にイメージができる様に目を閉じ、内から溢れる魔力を感じるために胸の前で、祈りを捧げる様に両手を組んでいるので、さながらRPGに出てくるような『聖女様仕様』な、『魔法詠唱』になってしまっていたりするのだ。本当に『イタさ全開』。
「隕石群!!」
魔法名を大きな声で唱えると、周囲に隕石が降り注ぎ、森の一部を焦土と化してしまう。
私が考えた組み合わせ魔法、『メテオクラッシュ』は、火と土の合成魔法だ。
火の成分が強すぎれば、溶岩の様に土が溶けてしまうし、土の成分が強ければ、唯の熱い大量の石飛礫になってしまう。二つの要素が、ちょうど良いバランスを保って、初めて合成魔法が完成するのだから、かなり難しい魔法になっている。
今回の魔法は、規模といい威力といい、成功と考えて良いだろう。
パチパチパチパチパチパチ……
私がそんな事を得意げに考えていると、どこからか拍手の音が聞こえてくる。
音のする方を振り返ってみると、其処には、ナルシストポーズで立ち、大げさな仕草で拍手をしている超絶なイケメンが立っていた。
そのイケメンレベルは、まさに『人外』というぐらいのもの。
そこまでレベルの高いイケメンを見たことも無い私は、ただ口を開けてジッと見つめてしまっていた。
そんな『アホの子丸出し』な私に、イケメンは微笑んで声をかけてくる。
「お前の使う魔法、カッコ良いな。俺様もそんな魔法が使ってみたいぞ」
「はぁ……」
突然現れたイケメンのおかしな言葉に、返す言葉が見つけられない。
「その魔法、俺様も使ってみたいから、教えてくれないか?」
そういって、イケメンは私の方へ向かって右手を伸ばし、開いていた手を、小指からウェーブでも起こすかの様に順番に握り、私を自分のそばへと呼び寄せてくる。
私は、自分の意思とは関係なく、まるで糸にでも引っ張られるかの様にイケメンの方へと近づいて行き、気が付けば、すぐ近くにまで移動していた。
イケメンはそんな私を嬉しそうに見つめ、私の自慢の一つである、蜂蜜色の腰まで伸びた髪を撫でてきた。
「お前は、髪も綺麗なのだな……。顔も好みだし、俺様の美意識にここまでピタリとはまる人間も珍しい」
褒めていただけるのは嬉しいのですが、許可もなく女性の髪に触れるとか、イケメンは何をしても許されるとでも思っているのか!?
ちょっとムッとしてイケメンを睨んでみるけれど、彼の様子は全く変わらない。
私に睨まれることなど、きっとどうでも良いのだろう……。
「お前の事を気に入ったので、俺様がお前と契約してやろう!」
「……は?」
「契約してやるから、お前の名前を直ぐ俺様に教えるのだ! 俺様のことは、これから“ロキ”と呼ぶが良いぞ?」
「……え?」
「さあ、早く名前を教えるのだ。そして、そのカッコ良い魔法も教えてもらおう!」
「……えっ……と……」
イケメン……ロキとの会話が成立していない気がするのは、私の気のせいなのだろうか……?
そもそも『契約してやる』って、どういう事なの??
私が『契約』の意味を必死で考えていると、焦れたロキの表情が厳しいものへと変わって来た。
「名前は!?」
「っ! モカ・アプリコットです!」
「よし! ではモカ、右手を出せ」
詰問口調での問い掛けに、反射的に名乗ってしまう。
するとロキは、すぐさま嬉しそうな表情となり、私に手を出す様に命令してきた。その命令になぜか逆らう事が出来ず手を差し出すと、私の掌に、彼の爪で小さな傷が付けられる。
みるみる血が盛り上がって来た掌を、ロキは徐に、舐めた。次に自分の右手の親指を傷つけ、血の盛り上がって来たそれを、容赦なく私の口の中に突っ込んで来る。
うぇっ! 口の中が血の味でいっぱいになったよ!?
私がロキの血を飲み込むまで、彼の指は私の口の中に滞在し、私の喉が『ごくんっ』と上下に動いたのを見届けてから出て行った。
そして最後に、私の傷ついた掌に自分の傷ついた親指を擦り付け、お互いの血を混ぜ合わせる。
その瞬間、私たち二人を眩い光が包み込み、すぐに其々の身体に吸収される様に消えていった……。
私の手のひらの傷も、気が付けば消えている。
「これで俺様とモカは、どちらかが死ぬまで魂が結びついた。俺様は、どんな時でもモカの気配を探って、様子を見る事ができるし、モカは好きな時に俺様を呼び出す事ができる様になったのだ」
嬉しそうに説明されたけど、それって……。
もしかして、ストーカー宣言!?
『どんな時でも様子を見れる』って、言葉をボカしているだけで、ただの監視だよね!?
しかも、私が呼び出さなくても、何かあれば勝手に出てくるって宣言してるんだよね!?
どどどどうしよう!
いくらイケメンでも、ストーカーは嫌だ。
プライバシーの侵害も甚だしい『監視宣言』にも、ドン引きだ。
でも、何故か何も言えない……。
そして、何故か私は、『基礎魔法』以外にも『召喚魔法』が使える様になっている。
て事は、ロキは召喚獣なの?
もしそうだとしても、明らかに高位精霊か何かだよね?
そんな存在が、『美意識に当て嵌まる』なんて理由で契約しても良いの??
そして、『カッコ良い魔法』って、あの痛々しい厨二病的な詠唱の事だよね!?
最後に、一人称が『俺様』って、なにそれ!?
言いたい事が多すぎて、どこから突っ込んだら良いものか見当もつかない。
ただただ口を開けてロキを凝視している私を、なにを勘違いしたのか「俺様が素敵だからって、そんなに熱い視線で見つめるなよ」なんて、照れている。
このキャラ、ちょっと殺意が湧くタイプだよね。
ポジティブ&マイペースなロキに、イライラが募ってくる。
でも、混乱から抜け出せなくて、なにも言えない私……。
ロキはそんな私の髪を再び撫で始め、遂には編み込みまでし始めた。
「この綺麗な髪はもう俺様の物だから、他の者には触らせるんじゃないぞ? もし、触るやつがいれば……殺す……からな?」
機嫌よさげに、殺人予告をかまして来ましたよ?
『髪に触れたら殺す』って、なんだ!?
そんなの、迂闊に街も歩けないじゃないか!
抗議しようとすれば、さらに
「モカは可愛いから、この先成長していけば、飢えた男共に狙われる可能性もあるよな? じゃあ、10秒以上モカと視線を合わせる奴も、殺してしまうか……」
はい! さらなる予告、頂きました!!
イケメンストーカーな召喚獣は、ヤンデレ属性でもある、ということですね!?
『10秒以上視線を合わせるな』って、コミュ症じゃないんだから!
そんな事してたら、円滑な人間関係を築くことなんて絶対に出来ないじゃん!!
……何だか私、とんでも無いものとウッカリ契約しちゃったんじゃ無い?
発言しようと大きく口を開けたまま硬直している私に、ロキは嬉しそうに微笑みかけて
「で、カッコ良い魔法はいつ教えてくれるんだ?」
と、悪びれる素振りもなく、問い掛けてきた。
まぁ、こんな所は憎めない気もするんだけど、ね?
後日手直しをする可能性“大”です