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冒険2:初めてのギルド依頼(後)

「ワイルドベアーだなんてっ! なんで? どうしてこんな所にいるのよっ!? やだ! 死にたくないっ!!」


私が、奴らからどうやって皆を守るか思案していたら、回復魔法使いさんがパニクって騒ぎ始めた。

他のメンバー達は、私がシールドを張っている事に気付いているので、まだ少し心に余裕があるみたいで、暴れる彼女を何とか宥めようとしてくれている。考え事をするには、彼女の金切り声はかなり鬱陶しかったので、静かにさせてくれるとマジ助かります!


咄嗟のことだったので、シールドは大きめに張ってしまって中で自由に動き回れるけど、それだけだ。

シールド魔法を張っていれば、ワイルドベアーの攻撃は防げるけど、攻撃が出来ない。攻撃する為にシールドを消しても、ワイルドベアーの数が多いので、一撃で全てを沈めるのはほぼ不可能だと思う。そして、次の攻撃を繰り出すまでの間、このパーティーメンバーでは奴らの攻撃を防ぐ事はまず出来ないだろう。

“メテオクラッシュ”をお見舞いするには、場所も状況も悪い。確実にパーティーメンバーにも被害が出ると思うんだよね……。

後は、このまま調査に来る筈のチームを待つという選択肢もあるんだけど、それが何時になるか解らないので却下。


さて、どうしましょうか……?


「このパーティーの中で、シールド魔法を使える人って、いますか?」

「俺は一応使えるが、ワイルドベアー相手なら1分ももたないと思う……」


私の問いに答えてくれたのは、攻撃魔法の使い手のお兄さん。

さっきの狩りの様子を見ても、ワイルドベアー相手なら30〜40秒もてば良い方だろうと思う。でも、それだけの時間があれば、2匹は倒せる(いける)筈だ。倒してはシールドを張り直し、倒してはシールドを張り直しを繰り返せば、単純計算で5回で全てのワイルドベアーを倒せる。

さらに、最初のシールドを消すときに派手な魔法をぶちかましておけば、もっと回数を少なくできる筈だ。


私がその事を皆に説明すると、男性陣は「その作戦で行こう」と言ってくれたのだが、回復魔法使いの女性は大反対してきた。

その理由はーー


「嫌よ! そんな、本当に大丈夫かどうかも解らないシールドなんて、信用できないじゃない! このまま調査隊が来るまで待つ方が、ずっと助かる確率が高い筈だわ!」


という事だった。

キンキン声で泣き叫び、他のメンバーの話なんて聞く耳も持ってくれない。


「でも、ユイ。彼女だって無限に魔力があるわけじゃ無いんだし、直ぐに調査隊が来なければ、どっちみち俺達は助からなくなってしまうんだぞ? それなら、魔力に余裕のある内に、少しでも可能性のある方法を試すべきだ」

「そうだぜ、ユイ。この中でワイルドベアーを相手に出来るのは、この新人ちゃんだけみたいなんだし、おれたちはこれ以上足手纏いにならない様にしなくちゃいけないぞ?」


それでも何とか彼女を説得しようと、リーダー格の剣士とチャラい見た目の剣士が、必死に言葉をかけ続けてくれている。

本当は、私の魔力量は桁違いに多いから、1週間位なら問題なくシールドを張る事もできるんだけど、こんな場所でそんなに長期間の野宿なんてしたく無い。私は、早く街に戻ってゆっくりしたいのだ。

その為に、日帰りできるこの依頼を選んだんだし……。

傲慢でも、我儘でも何と言われても構わないけど、初めてのギルド依頼で見ず知らずの人達と野宿だなんて、彼が何て言い出すか解らない事はしたく無いのだ。

今だって、いつ彼がしゃしゃり出てくるかと、気が気で無いと言うのに……。


こんな役立たずで、足手纏いな女は放っておいても良いんだけど、戦闘中に余計な事をされると困るので、何とか納得してもらいたいんだよね。


「この子供は、最悪でも自分は助かると思ってるから、簡単に私達を危険に晒そうとしてるのよ! 本当はもっと良い手段を知ってるくせに、出し惜しみしているんだわ!!」


「パーティー総出で甘やかしていたお嬢さんの説得、頑張って〜〜!」なんて、完全に他人事の気分で説得の様子を見ていた私に、回復魔法使いの女性がキレて怒鳴りつけてきた。

その言葉には、流石に私も『カチンっ』ときたのだけど、男性陣の女性を見る目を見て、何も言わない事にする。


「……流石に言い過ぎだ」

「それは、流石にチョット引くなぁ……」

「今直ぐに、モカに謝るんだ、ユイ」


このシールド維持の大変さが理解できている、攻撃魔法使いのお兄さんは、怒りを込めた眼差しで睨みつけている。

チャラい見た目の剣士は、ドン引きって顔で笑顔も引きつらせながら、視線を彼女から外している。

リーダー格の剣士は、やはりチームを纏める者としてこの発言は許せなかった様で、厳しい瞳を向けている。


そんな風に皆から責められると、このタイプのテンプレとして、お約束通り逆ギレする訳だけど……。


「何よ! 皆、私よりそんな子供の肩を持つっていうの!? ……あんたが、さっさとあの魔物達を倒さないから、私が責められるのよ! 早く何とかしなさいよ!!」


私に攻撃ベクトルを向けるのは、辞めて貰って良いですか?

私はうんざりした気分で彼女を見た。まぁ、フードをスッポリと被ってるから、彼女には私の顔が見えないんだろうけど……。


「そんな足元まで隠れる様なマントを羽織って、フードで顔を隠してるなんて、気味が悪いのよ! その上、こんなシールド魔法が使えるなんて、胡散臭いじゃ無い!! きっと、魔族か獄を抜け出した罪人に違い無いのよ!」


私が何も言い返さないと思ったら、物凄い難癖つけてきたよ、この人……。

もし私が本当に魔族や、罪人だと思ってるなら、そんなこと面と向かって言わないでしょ?

自分の意見が通らないからって、癇癪起こして私にあたるのは辞めてほしい。しかも今、そんな事してる場合じゃないし。


「じゃあ、もう。シールド消しちゃいましょうか? 確かに、私一人助かるのなら簡単なんですよ。さっき提案したのなんて、正直面倒くさいだけだし」


私がそんな事を言っても、男性陣は何も言ってこない。

自分達の命が私に掛かっている事を、充分に理解してくれているのだ。


「なによ! 新人の癖に生意気なのよ!!」


でも、回復魔法使いの女性は、逆ギレした矛先を収めることが出来なかった様で、さらに逆上し、私に掴みかかってきたのだ。


あ、やば。


私がそう思った時には、彼女は吹き飛ばされ、内側からシールドに叩きつけられていた。


「俺様の大切な主人あるじに手を出すなんて、死んで償って貰うぞ?」


叩きつけられた衝撃で既に意識の無い彼女に、顎を引いて右手の人差し指と中指を額に当てた格好(もう次からは全部『ナルシストポーズ』で良いよね)で立ったロキが、声をかけた。

そして、「いや、腕の角度がチョット決まってないか……」とか言いながら、何度もポーズをとりなおしている。

気を失っている女性以外のパーティーメンバーは皆、ポカーンだ。

明らかに思考停止した様子で、口を開けて突然現れたロキを凝視していた。


「えと。アレ(・・)は、私の召喚獣です。チョット厄介なヤツなので、暫くジッとしていて下さい」


私は、皆にそれだけを伝えると、納得のいくポーズが決まって満足げなロキの元へと近付いていく。


「モカ! この女をワイルドベアーの餌にして、その隙に攻撃するか!?」


私が近寄ってきたことに気づいたロキが、嬉しそうに聞いてきた。

彼女の首を後ろから掴んで持ち上げているロキは、今にも実行してしまいそうだ。


「ダメに決まってるでしょ。でも、ワイルドベアーは倒してきて?」

「ふむ。俺様の大切なモカに手をあげようとしていたのに、何も罰を与えないのか? 最低でも、死を与えてやりたいのだが……」

「……代わりに、カッコ良い呪文教えてあげるから、今回はそれで許してあげて」

「もう一声!」

「髪も、1時間撫でさせてあげるから……」

「編み込みもさせてくれるか!?」

「……わかった……」

「よし! なら、今回は見逃してやろう!」


ロキは上機嫌で女性をその場に放り捨てると、シールド外に出て行った。その途端に襲い掛かってくるワイルドベアーに構う事もなく、再び納得のいくナルシストポーズを取り始める。

ワイルドベアーは、そんなロキに何度も襲い掛かっているのだが、ロキの身体に触れる事もできず、見えない壁に阻まれているかの様に、50cm程の至近距離で唸り声をあげていた。

そしてロキは、何度も何度もポーズを変えた結果、地面に片膝をつき、片手の指先だけを地面について、もう片手を空に向けて伸ばしたポーズで決定した様だ。その体勢で不敵な笑みを浮かべ、私を見つめてくる。


「この間、モカに教えて貰った呪文……。あの後、練習したんだ」


え? 何言い出すの??

魔法を使うのは構わないけど、アレ(・・)を私が教えたとかバラすのは、止めてよ!

痛い子だと思われたら、どうしてくれるのよ!?


「天よ……、土よ、風よ。我が呼びかけに応え、我に力を与えよ。……我の魔力を対価とし、風の(かいな)で我が敵を抱き寄せ、土の腕で我が敵を抱きしめ、天の光で我が敵を滅したまえ。我が愛する者を守る為、その威力を今、敵に向けて解き放て!」


痛々しい詠唱が聞こえてくる。

それを、ロキは歌でも歌う様に不思議な節をつけて、ドヤ顔で詠唱している。イケメンな召喚獣は、声までイケているので、あまり酷い痛々しさを感じないのは、羨ましい限りだ。

そして……。

詠唱自体も、私が教えたものから彼なりのアレンジを加えたものに変わっていて、言い回しが少しカッコ良くなっている。


ロキ……。

中々やるわね?


チョット負けた気がするのは、気のせいだろうか?

私の教えた詠唱が進化しているのが、何故だか悔しい。


天国の竜巻と地割れヘブンズトルネイドアースクラッシュ!!」


呪文名を唱えた途端、竜巻が発生してワイルドベアー達を巻き上げ、地割れの中に叩き込んでいく。そこに、光球が蓋をする様に降り注ぎ、とどめを刺していくのだ。

何とも素晴らしい呪文だった。


「すげぇ……」

「ああ。まさか、ワイルドベアー10匹を一撃とは……」

「モカ……。あの詠唱は何だ?」


チャラい見た目の剣士とリーダー格の剣士は、ロキの魔法の威力に驚いていたから、誤魔化せるかと思ってたんだけど、流石に攻撃魔法使いのお兄さんは誤魔化されてくれなかった。

一番聞かれたく無い事を尋ねられて、私は思わず目をそらしてしまった。


「それは……、色々と事情がありまして……」


魔法を発動するのに必要なのは、イメージとそれに釣り合う魔力であって、詠唱や呪文名を唱える必要などない。

なのに何故、『私が教えた呪文』と言って、ロキがあんな詠唱を唱えているのか……。

それには、私があの詠唱(結構改造されてしまってはいるが)を教えたからだ。唱える必要など無い詠唱をロキに教えたのは、今回の様に『かっこいい呪文を教える』という交換条件が理由だけど、私がその詠唱を使っていたのには、海よりも深い理由があるのよ!


私は、その理由と、ロキと初めて出会った時の事を思い出し、小さく溜息を吐いたのだった……。

俺様キャラがよく分からなくて、取り敢えず一人称を「俺様」にしたのですが、なんか違う……。

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