冒険1;初めてのギルド依頼(前)
ロキのビジュアルモデルは、Gackt様です
私は、冒険者をしている。ギルドには、職業;召喚術師 として登録しているが、同時に腕の良い魔法使いでもある。
モカ・アプリコット、18歳、性別女。
髪は肩に掛かるくらいと女性にしては短いかも知れないけど、間違いなく性別は女だし、「女性扱いされたくない」なんていう意思表示をしている訳でもない。
この世界では、女性の髪は腰程まで伸ばすのが普通だ。冒険者をしている女性の中には、“女”だと侮られるのが嫌で、短くしている猛者のような人もいるけど、私にはそんなつもりは無い。
私は、自分の蜂蜜色のサラサラの髪を気に入っているし、紅茶のような瞳との釣り合いも好きだ。でも、髪を伸ばす事を自分で禁じているし、瞳も出来るだけ人目にさらさない様に心掛けている。
それには勿論、理由があるのだけど、ココでの説明は控えようと思う……。
冒険者になって早4年。私のギルドでの個人ランクはC。もっと上を狙おうと思えば、あと二つ、三つくらい楽に上げることは出来るのだけど、個人ランクが上がると色々と面倒くさい事が増えるので、現状ランクで満足している。
そんな私は、固定チームやパーティーには属さない、所謂ソロの冒険者として活動していた。
155cmソコソコの小柄で華奢な身体では、剣や槍なんて扱えないし、弓を引くだけの腕力も無いので、私が武器として携帯しているのは、もっぱら杖のみ。
しかし、魔力だけは王宮魔導師並にあるので、取り敢えず全ての要素の魔法が使えたりする。
物理戦闘力は低いけど、魔法戦闘力は高いってやつ?
基本の魔法(火・水・風・土・聖・闇)全てが使える上、それらを組み合わせた応用魔法まで使えちゃうから、ランクに関係なく、ギルドでも上位に入る冒険者なのだ。
まぁ、武器として使ってる杖自体も、見た目はボロっちい癖に恐ろしい性能を持つ、チートな杖なんだけどね……。
この杖を装備してれば、どんなにボンクラな低能魔法使いでも、個人ランクでC位は余裕で取れる。
私はこう見えてとっても優秀な冒険者だから、杖の力なんて無くても高位ランクを取れるけどね。実際、実力だけでランクを上げてきたんだし。
Bランクぐらい迄の依頼なら、基本魔法のみで簡単に1人でこなしてしまう私は、あちこちのパーティーやチームから「是非うちのチーム(パーティー)に入って欲しい」と良く誘われていたりする。でも、私が固定のパーティーやチームに所属する事はまず無い。
別に私自身に問題がある訳でも、誘ってくれるパーティーに問題がある訳でも無いよ?
私は素の性格はチョットあれだけど、以外と社交的な方だと思う。それに、お一人様で冒険する事が多いから、ご飯を作ったり寝床を準備したりという、野営能力も滅茶苦茶高いし、自分で言うのもなんだけど、かなりの優良物件だからね。
そりゃ、確かに小さな体に足元まで隠れる様な大きなマントを着て、フードをスッポリと被って顔が見えない様にしてる、見た目は怪しい魔法使いだけどさ? そんな事も気にならないくらい、私の魔法と野営能力は優秀なんだよっ!?
ただ……。
私がメインで使ってる召喚術に問題がある。いや、召喚獣(獣と言っていいものか……)に問題があるといった方が良いのかも……。
そう、前回の話に出てきた、あのナルシスト。
あいつのせいで、私は人とのコミュニケーションをかなり制限する羽目になっているのだ……。
目を合わせる事も禁止で、触れる事など以ての外! なんて、対人関係に支障をきたして当然でしょ?
もし、怪我なんてしようものなら、「お前らが付いていてモカに怪我をさせるなど、もう存在する意味などないよな?」なんて言って、皆殺しにしようとするんだよ!?
それを止めるのもかなり面倒くさいし、そんな事なら、パーティーなんて組まなくていい。あんな疲れる事は、二度とゴメンなんだよ!
あるギルドで、初めて仕事を受けた時、私はあるパーティーに入れてもらった。
そのパーティーは、剣士が2人(男)と回復系の魔法使い1人(女)、攻撃系の魔法使い1人(男)という4人パーティーだった。パーティーのランクとしては、S〜F中のEランク。“駆け出し冒険者”を卒業した所って感じの、まだまだ初々しいパーティーだった。
私はこの時14歳で、ギルドに登録したばかりだった。だけど、基本魔法全てを使える上に応用魔法まで使えたので、このパーティーに入れて貰う事ができた。
初めてのパーティーで、初めてのギルド依頼。期待と不安を胸に、初々しかった私は精一杯出来る事をしようと、張り切っていた。
この時受けた依頼は、『ワイルドドッグが生息する地域に自生している薬草を、籠一杯採集してくる事』というものだった。
ワイルドドッグは、Fランクパーティーでも充分対応できる魔獣で、その毛皮は中々の収入源になる。なので、ワイルドドッグが絡む依頼は人気が高いのだけど、この依頼は何故か未達成の侭、もう一週間も放置されていた。
どうやら、この依頼を受けたパーティーがことごく行方不明になっているらしく、何時までも依頼が達成されないのだそうだ。その件についての調査依頼も出てるのだけど、そちらの方はパーティーランクC以上じゃないと受けられない。依頼自体の難易度としてもBだから、Eランクのチームじゃとても手に負えるものじゃないだろう。
本来ならば、調査が終わるまではこの依頼は取り下げられる筈なのだが、薬草が不足しているのでそのまま残しているらしい。今思えば、危機管理能力の欠如した、何とも杜撰なギルドだったと思う。
同じく危機管理能力の低い我がチームは、この依頼を「ラッキー! ひょっとすると、チームランク爆上げできるんじゃないか?」なんて言って、喜んで受ける事にしたのだった。
このパーティーでは、調査依頼は受けられないけれど、偶然その理由を解明した場合には達成報告ができるので、薬草採集ついでに少し調べてみようという事になっていた。調査依頼を達成できれば、間違いなくチームランクが上がる。
調査に失敗しても、採集依頼はクリアーできるだろうし、ワイルドドッグの毛皮でチーム資金も潤う。
一見、いい事尽くめに見えるこの依頼は、お馬鹿な初心者に毛の生えた程度のチームには、素晴らしいご馳走に見えたのだ。チョット考えれば、行方不明になっているチームの生死や、調査依頼がBランクという事でどれだけこの周囲をギルドが危険視しているのか、気付けただろうに……。
あの頃の私が、もっとギルドについて詳しく知っていれば、このの依頼も受けなかったと思う。その位、危険な依頼だったのだ。
そんな事に気付く筈もない我がチームは、意気揚々と依頼の地域へとやって来た。其処は、ギルドのある街から人気のない方角に向かって、獣道を1時間ほど歩いた場所にあった。
視界の開けた平原と、視界の効かない鬱蒼とした森。相反する二つの場所が、綺麗に共存しているその場所が、今回の依頼遂行地域。
私たちは早速、目的の場所で薬草回収を始め、その片手間でワイルドドッグを狩る事にした。
平原と鬱蒼とした森のちょうど境界辺りに、目当ての薬草が生えている。ワイルドドッグは、主に森の入り口周辺を寝ぐらにしていて、平原や森の浅い場所で、小さな動物や魔獣を狩って生息しているのだ。
私たちは、手早く『薬草を集めるチーム』と『ワイルドドッグを狩るチーム』に別れた。
「思ってたより、ワイルドドッグの数が少ないな」
「ああ……。」
「なーんか、やな予感がするよねぇ?」
ワイルドドッグを狩りながら発言した、リーダー格の剣士の言葉に、寡黙な魔法使いとチャラい見た目の剣士が同意する。私と回復系魔法使いの女性は、2人で黙々と薬草を集めていた。
チャラい見た目の剣士の言う通り、私も、さっきから嫌な予感が止まらない……。
さっさとこの場を離れるべきだと、私の勘が告げている。
私は、冒険者になったのは最近だけど、それまでも1人で街の外に出て採集や、魔物退治をしていた。経験だけは、並の冒険者程度にはあるのだ。なので、勿論危険を感じ取る勘も鍛えられている。
ギルドに登録できるのが14歳からなので、それまでは1人で冒険者ゴッコをしていたのだ。危険を回避するのは、何よりも重要な事だった。
そんな私の勘が、ここは危険だと告げている。これは、今すぐにこの場所を離れた方がいい。
私1人であればどうとでも出来るだろうけど、4人を守りながらでは逃げるのも戦うのも一苦労になるだろう。でも、例え今日出会ったばかりの人達だとしても、目の前で死なれるのはいい気分じゃないから、全力で護ってあげたいとは思う。
「嫌な予感がするから、もう帰ろう?」
ドンドン強くなる不穏な予感に耐えかねて、私は皆にそう声をかけた。
籠の中はの薬草は3/4程で、籠を一杯にするにはもう少し足りない。でも、1秒ごとに強くなる嫌な予感に、私はもう限界だと思った。
「ああ、そうだな……」
「……」
「一度、出直した方が良さそうだよねぇ」
「そんなっ!? 後少しで終わるから、もう少しだけ頑張りましょうよ! ここまで集めたのに、依頼不達成なんて勿体無いわ、ねっ?」
男性陣は、帰還に賛成の様子だったんだけど、強い発言権と決定権を持つパーティーの紅一点にそう言われれば、「じゃあ、もう少し」となってしまったのだ。
仕方なく、私は杖を準備して強襲に備えながら、手早く薬草採集を再開した……。
急ピッチで薬草採集を進めたおかげで、それ程時間を掛けずに籠を一杯にする事は出来たんだけど、背筋がゾクゾクする様な悪寒はドンドン酷くなってきていた。
その予感は、回復魔法使いの女性以外皆が感じていた様で、いつの間にか全員がすぐ近くで固まっていた。
ーーー来るっ!?
私は本能の命じるまま、シールド魔法を唱えて、全員をシールド内に保護した。その直後、何かがシールドにぶつかって弾き飛ばされた。
「……え? ワイルドベアー……?」
弾き飛ばされて転がっていった物体を見て、誰かが呆然とした様に呟いた。
ふぁっ!?
ワイルドベアー!?
ちょっと待って! 奴らの生息地域って、もっと森の奥深い所だよね!?
何でこんな所にいるの!?
あいつらの討伐ランクって、確かCランクパーティーでもギリギリだった筈。それが、こんなEやFランクパーティーの依頼地域に出るんじゃ、依頼を受けたパーティーが行方不明になるのも当然だよっ!
勿論、このチームも全滅必至。戦闘なんて、はなから無理な話。一方的に蹂躙されて、彼らの血肉となる道しかないのだ。
ワイルドドッグの数が、予想より少なかったのも納得だ。きっと、こいつらの餌になってたんだろう。今回は、ワイルドドッグの血の匂いに引き寄せられたのか、それとも、この匂いがして来れば人間が待っていると学習したのか……。
どちらにしても、私達は彼らには餌にしか見えていない様だ。
さて……。見える範囲にいるだけで、ワイルドベアーは10頭はいる。私1人なら、これ位余裕なんだけど……。
この人達を守りながら、どうやって戦う?
次回、ロキ登場