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プロローグ

主人公が少し鼻に付く性格です

今回のギルド依頼には騙された。

こんなの、ソロでどうにか出来る依頼じゃないよね!?


何が『ドラゴンの居ない隙に、巣のある崖に生えているフォリス草を採って来るだけの、簡単なお仕事です』だっ!

竜が居ない隙に来てみたら、崖の周辺にはトロルキングが3体も生息してるじゃないか! こんなの、聞いてないよっ!?

だって、トロルキングと言えば、討伐ランクは確か……。

Bランクパーティー推奨、個人で相手をするならAランク以上だった筈だよね?

しかもこいつらってば、フォリス草が欲しいらしくて、行きには気配すら感じさせなかった癖に、フォリス草を手に入れて崖を降りた途端、集団で(と言っても3匹なんだけど、大きいからね)襲ってきやがった!!

って事は、知能も普通より高めって事で、討伐ランクは更に高い筈。


咄嗟にシールド魔法を張って、攻撃は防いだのは良いけど、これからどうしようかな……。


私は、崖を背にして立ち、必死にこちらを攻撃してくるトロルキングを、シールドの中からボンヤリと見つめた。


この後、どうしようかなぁ……。


先程のトロルキングの攻撃による衝撃で脱げてしまったマントのフードをそのままに、採集してきたフォリス草が、斜めに肩掛けしたカバンの中にある事をまず確認する。

コレを渡せば、トロルキングは立ち去っていくのかもしれないけど、折角崖登りまでして手に入れたフォリス草を手放すのは勿体無い。それに、フォリス草を渡しても奴らが立ち去らなければ、結局、戦闘しなければいけないのだ。

どうせ戦う事になるなら、奴らにフォリス草を与える必要なんてない。

これは、私が苦手な高所に登って採ってきた戦利品なのだから!

戦って勝てない相手でもないんだし、面倒くさいのと、後から来るだろうギルドからの苦情さえ我慢すれば良いのだ。

そうと決まれば、さっさと片付けてしまいましょう!


私はカバンの中から取り出した髪紐で、肩に掛かる蜂蜜色の髪を一つに纏めて括ると、素早く火魔法と土魔法の合成魔法“メテオクラッシュ”(私命名)をトロルキングにお見舞いしてやった。

メテオクラッシュとは、一言で言い表すなら流星。土魔法で作った岩を、火魔法でガンガンに熱した物を、上空から対象目掛けて降り注がせると言うものだ。

大抵の魔物は、この魔法一発で沈む。でも、威力がデカ過ぎるので、街や村など人の住む所やその近くでは使えない。だって、魔法の効果範囲内が焦土と化してしまうから……。

この辺りも暫くは、採集なんて何も出来ないあり様になるだろう。ギルドからの苦情必至だけど、そもそもギルドが何も調べずにこんな依頼を出してるのが悪いんだし、多少私がやり過ぎたって仕方ないよね?


魔法を放つ為にシールドは消してしまったけど、メテオクラッシュの衝撃であたり一面焼け野原になってるし、きっとトロルキングも生存していないだろうし、何も問題ないだろう。


ふぅっと息を吐いて髪を束ねていた紐を外した瞬間、頬に風を感じた。

どうやら、トロルキングを1匹仕留め損ねたみたいだ。

横に視線をやると、トロルキングが武器として使っていた棍棒が、崖に突き刺さっていた。

頬に何だか生暖かい液体が伝ってきたのを感じる。多分、風圧で顔を切ったのだろう。さらに、髪の毛も切れたみたいで、短くなった髪が頬に落ちてくる。


ヤバっ!


そう思った瞬間、仕留め損ねていたトロルキングの頭が目の前で地面に落ち、頭があった場所から血が吹き上がった。

ドォンっ!! という大きな音と共に、土煙を上げてトロルキングの身体が前向きに倒れてきた。


ちょっ! 血飛沫がコッチに飛んでくるんですけど!?


魔物の血で汚れるのなんてゴメンなので、素早くシールドを張りながら、場所を移動する。

場所を移動すると、倒れたトロルキングの後ろに、人影が在るのが解った。その人影がトロルキングを倒したのだろうけど、一体何をしたのかまでは解らない。

ただ、地面に転がっている頭を見る限り切り口がとても綺麗なので、その人物が相当の腕を持っているに違いない事は解る。剣でひとはねしたのだとしたら、相当の腕前の筈だ。居合の師範クラスか、武士ってところかな?

風魔法の風圧かまいたちで切ったのだとしても、相当な魔法の使い手じゃなきゃ、こんなに綺麗にあの(・・)トロルキングの、太くて筋肉質な首をはねる事なんて出来ない。

普通ならここで、「あの人物は味方なのか?」なんて思うシーンなんだろうけど、あいにく私にはあの人物に心当たりがあったりするのだ。


土煙が収まってくると、人影が妙なポーズを取っている事に気付いた。まぁ、何時もの事だ。

片腕は自分を抱きしめる様に回し、もう一方の肘をそこに当て、人差し指を顎に当てる様にして、首を掴んでいる。顔を上向けて唇と瞳は半開きーー見る人が見ればセクシーに見えるのかもーーで、まるでビジュアル系バンドのようなポージングで(この世界にはないビジュアル系をなぜ知ってるのかとか、突っ込んじゃダメ☆)立っている美青年がそこにいた。

190cmは優に超える長身、短い黒髪は後ろに流して纏めており、瞳は紺碧、黒い七分袖のシャツの胸元は、半分ほど開いている。

細身に見える身体なのに、見えている胸元から、その身体が筋肉質なことが解ってしまう。


「やぁ、モカ。俺様の大事なモカを傷つけた不届き者は、退治しておいたぞ?」


美青年は、セクシーな低音で私にそう声をかけたかと思うと「イヤ、ポージングがイマイチか?」と呟いて、今度はジョジョ立ちで同じセリフを繰り返した。

そうして何度もポージングを変え、10回目でようやく納得がいったのか、モデル顔負けのウォーキングで私に近づいて来た。


「倒してくれたのは、助かったけどさぁ……。もう少しで、トロルキングの血が掛かるところだったんだけど?」

「それはすまない……。俺様としたことが、いかに美しく一撃で倒すかという事に気を取られて、モカが汚れる可能性を考えていなかったよ」


お気に入りのローブが汚れそうだった事に苦情を述べると、親指・人差し指・中指で三角形を作る様に顔に当て、緩く首を振って彼が謝ってくる。

しかし、私は知っている。トロルキングは後ろ向けに倒れようとしていたのに、自分に血が掛かる事を避ける為に、その巨体を前に向けて押した事を……。


「そ、そんな事より! トロルキングは、何を持っていたんだ?」


私がジト目で見つめていると、彼は慌てて話題を変えてきた。

私は、彼が納得のいくポージングが決まるまでの間に、回復魔法で自分を癒し、次にトロルキングのボディーチェックをして、フォリン水を回収しておいたのだ。どうやら彼は、ポージングを変えながらも、私の行動を観察していたらしかった。

フォリン水を見せながら、「これ」と示して見せれば、彼は「そんな物、トロルキングがどう使うつもりだったんだ??」と首を傾げる。


フォリン水は、延命薬とか万能薬と呼ばれていて、瀕死の怪我でもたった1滴掛けるだけで治癒させ、毎日一口ずつ飲めば、一週間で3年寿命が延びるなんて言われている。

今回のギルド依頼で採集したフォリス草は、御察しの通りフォリン水の原料だ。

それにしても。

トロルキングが、フォリン水を一体何に使っていたのか……。私もそれは気になるところだけど、今はそんな事を悩んでいる場合じゃない。

私が、ギルドの苦情を甘んじて受けようと覚悟してまで、一撃必殺の術を使ったのは、彼に出て来て欲しくなかったらだったのに……。


「モカ……。俺様が側に居ないから、そんな怪我をするんじゃないのか? やっぱり、常に俺様が顕現して付いていた方が良いんじゃないか?」


ほら、ヤッパリまた言い出した。

今まで何度も問答を繰り返した事を、また言い始めた彼を説得しなければならない。


彼は、私の召喚獣。

彼は、とっても強いのだが、性格がナルシストな上、私への執着が凄くてとても面倒くさい。

私が少しでも怪我をすれば、怪我をさせた者は皆殺し。私の髪に触れようものなら、たとえ通りすがりに少し掠っただけだとしても、半殺し。

目が合っただけでも、『見つめ合ってた』なんて、いちゃもんを付けて攻撃しようとする。


顕現していなくても、こんな事を当然の様に行う男だ。顕現していれば、更に鬱陶しいのだ。

まず、私を歩かせない。常に私を子供抱きで抱き上げて、空調設備でも付いていそうなほど快適なロングコートの内側に顔だけ外に出した状態で、連れ歩かれるのだ。

食事も自分で食べる事を許されず、アーンで食べなければならない。

そして、何より一番面倒くさいのが、何かをする度に納得するまでポージングを変える事だ。


私を抱き上げたまま、何度も何度もポージングを変えるのだ。これは、かなり鬱陶しい。

なので、常に顕現して側に居られるなんて、苦痛以外の何物でもないのだ!

ここは、全力で阻止させて頂きましょう!!


「ロキ、助けてくれてありがとう。でも、ロキみたいな美青年が街に現れたりしたら、人だかりが凄くて自由に歩けなくなると思うの。そうしたら、私に触れる人も出てくると思うし……。私……そんなの、困るわ」

「そうだな……。美しさは、罪、だよな……」


ロキを上手く説得する為に取り敢えず煽てておく。すると、予想通りの返事が返ってきた。

そのまま、自分が如何に美しくカッコ良いか、それを保つ為の努力や秘訣を熱く語り始めた。当初の提案については、忘れてくれた様だ。ロキはかなり鬱陶しいけど、相変わらずチョロい奴なので、そこは助かる。


そしてロキは、一通り気がすむまで語り尽すと、「もっと自分を大事にするんだぞ」なんてセリフを残して、帰って行った……。


本当に私の召喚獣は、面倒くさい男なのだ。

召喚獣は面倒くさい男というより、ウザイです

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