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追跡

 こりゃヤバい、そう思いながらも動けないんじゃどうしようもない。まるで周囲の木々と同じようにひたすら棒立ちしていた。


 傍から見たら相当、滑稽な姿だろうな。無様といっても言い過ぎじゃない。


 俺は遠ざかっていく少女をもどかしげに見つめることしかできなかった。だが、不意に背後から駆け寄ってくる足音が聞こえてくる。

 

「ちょっとあんた!何してるのよ!」


「タケ?……どうしたの?」


 ミュルミルとレイアだ。良かった、俺を見つけてくれたのか!

 だが、振り向けない、答えることも出来ない。

 心の中で何度も助けてくれと叫んでいたが、口はピクリとも動いてはくれなかった。


「何、ぼさっと突っ立ってるのよ!さっさと追いなさい!」


 追えって言われても無理だって、動かないんだしさ!


 ミュルミルが俺の正面まで回り、そして目を見開いた。瞬き一つ出来ず硬直している俺に気付いてくれたようだ。


「……って、あんた、どうしたのよ?それは一体!」


 助けてくれ、と目で訴えたが、ミュルミルは消えていく少女の背中と俺を交互に見る。そして追いついてきたレイアの方を振り向きながら走り出した。


「ちッ!いっつも足を引っ張るんだから!私はあの子を追うわ!レイアはこの馬鹿をお願い!」


 堂の入った走りでミュルミルは少女を追いかけていく。両者とも俺の視界から消えていったが、あの様子ならすぐに追いつけるだろう。


 それよりも俺の体だ。何度も動かそうと踏ん張るが指先一つ動かせない。

 

「……どうしたの、タケ?」


 顔を覗き込みながらレイアは首を傾げる。

 動けないし、話せないんだ。そう伝えようにも話せないのでは不可能だ。


 焦っているこちらとは対照的にレイアはゆったりとした動作で俺の周囲をぐるりと回る。そしてポンと手を叩いた。


「もしかして動けないの、かな?」


 そう、そうなんだよ!さすがレイア、俺の置かれている状況を的確に当ててくれた。

 レイアはすぐ傍まで近づくと、細い腕で俺の肩をぐらぐら揺らした。 

 当然、俺の体は成すすべなく地面に転がってしまった。


 ちょっと、何してんの!痛くないから良いけど、俺で遊ばないでよ。

 石像のように固まったまま、おかしな格好で地面に転がる俺をレイアはじっと見下ろした。


「これは……ひょっとして石化の呪いかな?魔法を使ったような気配は感じないけど」


 ん?石化、の呪い?

 まぁ、何でもいいけど取り合えず何とかしてほしい。


「ちょっと待ってて……すぐ治すから……」


 レイアは座り込むと俺の胸元に手をかざした。魔法陣を展開させ、解呪の魔法を発動させたらしい。温かい何かが身体の奥底まで染み込んでくる感覚が全身に奔る。

 されるがまま身を任せていると、ようやく体に自由が戻った。


「ぷっはぁッ!」


 思わず腰が抜けて、落ち葉の上に座り込んでいた。

 手のひらを何度も握りしめたり、開いたりして自分の体を確認していく。うん、問題なく動くな。

 

 あまりに深いため息が口から漏れた。自分の体が自由に動くということにこれほど安心する日が来るなんて。


「大丈夫、もうおかしな所は無い?」


「あ、あぁ、平気だ……それより一体何が起こったんだ?何で俺の体が動かなくなったんだ?」


「ん?……それを聞きたいのは私だよ?どうして石化の呪いなんてかけられてたの?」


 それもそうだ。後から来たレイアが分かるはずもない。

 俺は自分の身に起こったことを一から思い出してみた。


「確か……あの子を捕まえたまでは良かったんだけど、凄い暴れてさ……落ち着かせようと正面にまわって向かい合ったら……何故か体が動かなくなってたんだよ」


「目を見たら、動けなくなったの?」


 何やら顎に手を当てレイアはちょこんと首を傾げる。

 彼女には思い当たる節があるようだ。じっと座りながらレイアも言葉を待つ。


「そう……あの追われている子、魔眼持ちだったんだ。道理で高い懸賞金を付けられたわけだね」


「ま、魔眼?持ち?」


「そう、魔眼。見ただけで効力を発揮できる、魔法とは違う特殊な能力。磨かれる技術じゃなくて先天性の力だよ……ユニークスキルとも言われる、魔力も魔法陣もなく使えちゃうものなんだ」


 そりゃまた便利な力だこと。使い放題じゃないか。


「その魔眼とやらを見てしまったから、動かなくなっちまったのか?」


「うん……多分、かけられたのは石化の呪い。良かったね、私たちがいて。もし一人きりだったら一週間はこの森でずっと固まっていたところだよ」


 うっ、なんつう凶悪な能力だよ。目を合わせただけで対象を動けなくしちまうなんて、ヤバいにも程がある。


 あなどれない少女だ。奴隷商から逃げ出し、今なお冒険者達の手から逃れているだけのことはある。


「しかし、目を合わせるだけであんなことが出来るのか……ただの魔族じゃないと聞いていたけど、懸賞金が高いのも納得だな」


「ううん、魔眼を持っているってことはあの子は魔族じゃないよ……あの子は多分、ハーフだね」


「はーふ?」


「うん……魔族と人間の混血。混魔(ディーマ)って呼ばれる存在。どうしてかは分からないけど、混魔(ディーマ)の人たちは特殊な能力を得ることが多いの。魔眼もその一つ」


「ん?……え?つまりあの子は魔族じゃないのか?でも、依頼書じゃ魔族だってあったぞ?」


「人間にとっては、魔族も混魔も対して違いないよ。おんなじ邪悪な存在だって思っているから」  


 そんなアバウトな……!ハーフだってことはあの子の半分は人間の血を引いているってことだろ?それなのに、容赦なく狩り出すのか?

 それはいくら何でもあんまりじゃないのか?


 俺の動揺とは対照的にレイアは特に感情を荒立たせることもなく呟く。


「そっか……懸賞金が高いのは魔族だからじゃなくて魔眼を持っていたからなんだね。魔眼はえぐりだせば、とっても高い魔石になるって聞いたこともあるから」


 魔石、それは魔力を秘めた特殊な鉱石。様々な用途がある存在で、この世界の発展において欠かせないものの一つだ。

 都市を照らす街灯から戦争の道具まで使用方法は多岐に渡る。


 人体の一部が魔石になるなんて文献では見たことは無いけど、レイアがそう言うのならそうなのだろう。


「え?……ってことは、もしあの子が奴隷商に捕まっちまったら……」


 躊躇いがちにレイアはこくりと頷いた。

 思わずぞっとしてしまった。目をえぐりだす?あんな十歳を過ぎたばかりの子供の瞳を?

 考えるだけで吐き気がしてくる。 


「は、早くミュルミルを追おう。」


 さすがにそんなことを聞かされた後では放っておくことも出来ない。

 奴隷商に引き渡される前に少女を保護しなくては!

 慌てて立ち上がり、追いかけたミュルミルの後を追おうと足を踏み出したわけだが、ポツリとレイアが零した。


「そうだね……でも、ミュルミルちゃん、どこ行ったんだろう?」


「…………え?」


 周りを見渡してみる。木々が立ち並ぶばかりで俺とレイア以外に人影は見えない。

 冷や汗が額から滲んでくる。


 しまった、あいつらがどこに行ったのかまるで見てなかったよ。完璧に……はぐれてしまった。


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