プロローグ
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燦燦と照り付ける太陽。
「暑い……暑すぎる……こんなん干からびるだろ」
脳が沸騰するかのような暑さだった。
窓から時折吹く風は、熱風と化して心地よさは欠片も感じない。ただ不快なだけだ。
あぁ、地球温暖化って本当に進んでいるんだな……。
もはや人類を絶滅させに来ているとしか思えない。度を越した環境破壊についに地球が牙を剥いてきたのか。
まったく勘弁してほしい。過去の先人達の過ちのせいで現代に生きる俺達が割りを食うなんて。
そんなどうしようもないアホな愚痴を心の中で唱えながら、俺は床で寝そべっていた。
季節は夏。蝉がうるさいほど自己主張をして、太陽から放たれた熱気は風景を歪ませている。
こんな暑い日には海へ行って、波に揺られながら水着姿の女性を心行くまで眺めていたいのだが、そういうわけにもいかない。
俺がいるのは、コンビニ一つ無いド田舎であり、海などはなくうざいほど緑が生い茂っているだけだ。
あぁ~、こうして何もしていないのに汗が噴き出してくるんだな。こりゃダメだわ。
何をするわけでもなくただうつぶせに転がってカロリーの消費を防いでいると、背中に凄まじい衝撃を感じた。
「ぐえッ!」
く、苦しい!凄まじい圧迫感を感じ、思わず振り返っていた。
すると中年の強面の男があろうことか足で俺の背中を踏みつけているではないか。
Tシャツを肩までめくり上げ、たくましい筋肉をむき出しにしている男。非常にがたいが良く、健康的な火焼け跡が目立っている。
青筋を立てて、ひきつった笑みを浮かべるその人物は俺の叔父さん。父方の兄である武藤守だった。
やべッ、見つかった……!
暑さとはまったく関係のない汗が額から流れてくる。
「おいおい、武藤武光君?こんなところで何をしているんだい?」
とても体格に似合わない猫なで声で尋ねる守叔父さん。その声が耳朶を打ち、背筋が冷え込むのを感じた。
これは、ヤバいな……そ、相当怒っていらっしゃる!
慌てて起き上がろうとして……再び背中を強く踏みつけられた。
た、立てない……!踏みつぶされたままの体勢でじたばたと蠢きながら俺は弁解の言葉を口にした。
「いや、叔父さん!俺はサボっているわけじゃなくてですね……!」
「やっぱサボってたんだな!てめぇ!こらおい!」
子供が泣き叫ぶようなドスの効いた怒声が部屋に轟く。
あらら、話す余地はないですか。
「おいおい、この部屋は一体どうなってるんだよ!さっき見たときとまるで変わってねえじゃねぇか!」
叔父さんは壊れた埴輪や銅像、破れた絵画などが散らばる煩雑な部屋を見渡しながら怒鳴った。
その部屋は俺の担当として掃除を言い渡された部屋であり、未だに散らかっている部屋だ。
それもそのはず作業を開始して、ものの数分で俺は暑さでダウンしてしまったのだから。
「お前な!こっちは高いバイト代払ってるんだぞ!もうちょっと気合入れて働きやがれ!」
激しい怒気を込められた罵声に肩が跳ね上がる。
確かにサボっていたのは認めよう。だが、俺にも言い分があるぞ!
「いや、それは分かってるんですけどね、叔父さん!いくら何でも暑すぎるでしょ!こんな猛暑日なのにエアコンが無いって一体どういうこと!こんなんじゃ作業にも身が入らないでしょうよ!」
「おうおう、何だ、お前!逆切れか!仕方ないだろ、爺さんの屋敷は築百年っていう代物なんだからよ!そんな文明の利器はないんだよ!おらおらおら!」
「ぐげええええッ!お、叔父さん!止めてください!マジで死にますからッ!」
内臓を吐き出してしまいそうな圧迫感に俺は暴れまわる。踏みつけられたカエルのような無様な悲鳴を口から漏らしながらひたすら叔父さんに謝っていた。
夏休みなんていう宝石のような期間に俺は何をやってるんだろうな……。
高いバイト代に惹かれて安請け合いしてしまったのが運の尽きか。
肉体労働にはギリギリ耐えられるが、このうだるような暑さにはうんざりだ。
この俺、武藤武光は叔父さんの太い足に死の危険を感じ取りながらここに至る経緯を思い返した。
ことの始まりは一週間前、前期の授業が終わり、成績表を破り捨てて帰った日のことだ。
コンビニで買ったアイスを齧りながらエアコンで涼んでいると、珍しいことに父方の兄である伯父さんから電話がかかってきた。
「お前、今日から夏休みだよな?来週、暇か?もしそうならちょこっとバイトしてみないか?」
電話の内容とは二年前に亡くなったひい爺さんの屋敷の清掃を手伝ってほしいとのこと。
この屋敷はひい爺さんが亡くなってからは無人であり、中は荒れ放題になっている。放置しておくのももったいないからと、伯父さんは別荘として使いたいらしい。
清掃は伯父さんと数日、その屋敷に泊まり込み行う。とくに用事もないうえに、何かと金を使う夏休みのために稼いでおくのも悪くないと思い快諾したのだった。
それにしばらく家を離れることができるのも魅力的だった。
伯父さんなら夜更かしして、ゲーム三昧でも愚痴愚痴いうまい。
せっかくの夏休み、たまには母さんや父さんの目を離れ、自由を満喫してみたかったという理由もあったわけだ。
そうして、一週間後、家を離れ電車でひい爺さんの屋敷へと向かった。
ド田舎の駅員のいない改札をくぐり、駅前で待っていた伯父さんの車に乗ったのだが、道中のほとんどがとても道とは思えない獣道ばかりだった。
地元民がかろうじて知っているだろう舗装がされていない道路に揺られ、一時間。
ようやくひい爺さんの屋敷にたどり着いた。
屋敷は日本ではあまり見られない洋館であり、予想よりかなり大きかった。
築百年は経っているだろうか、老朽化しており、その様相は不気味の一言。
そして到着するとすぐに作業に取り掛かったのだが……
部屋は多いわ、モノは散らかっているわで何から手を付けて良いのやらさっぱりな状態だった。数年間、放置されていたためか、ほこりも積もっており、もう悲惨なものだった。
それでもお金をもらう以上、逃げ出すわけにはいかず、今に至るというわけだ。
ひい爺さんはどうやら骨董品集めが趣味だったらしく、俺にとってはゴミにしか見えない物が大量に放置されていた。
首の取れた人形といい、性器をかたどった銅像といい、何で買ったんだか?まったく理解に苦しむよ。
ただでさえモノが多く片付けに手間がかかるというのに、今日は歴代の記録を更新するほどの猛暑日。
それにすっかりダウンしてしまった俺は廊下で倒れていたというわけだ。
まったく……叔父さんに見つかってしまうなんて本当に運が無い。
一通り俺を痛めつけた後、叔父さんはため息交じりに呟いた。
「はぁ~、もうここはいいよ。俺がやっておくから……その代わり、武光は地下室の掃除を頼むわ」
「え?地下室?……この屋敷に地下室なんかありましたっけ?」
「あぁ、廊下の突き当りにな。地下ならちったぁ涼しいだろうからそっちを任せる」
ほう、それはありがたい。この暑さから逃げることが出来るのならどこだって構わない。南極だって行ってやる。
「言っとくが……次、サボったらバイト代を減額するからな」
ジロリと、とても堅気の人間とは思えない鋭い視線を向けてきた。その恐ろしさに一瞬、暑さを忘れながらも俺は笑って返す。
「大丈夫ですよ!俺の悩みの種はこのクソみたいな暑さだけですからね!それが解消されるのなら馬車馬のように働いてやりますよ!」
「ほう……それは頼もしいことで……」
にやりと悪戯っ子のような笑みを浮かべる守叔父さん。
その笑顔に良くないものを感じ取りながらも暑さから逃げるため地下室へと向かったのだった。
廊下の最奥、様々な物品が積まれた分かりにくい場所に地下へと続く階段を発見した。
この屋敷は広いだけじゃなく地下室もあるのか。
何だか秘密基地みたいだ。昔は地下室に憧れたこともあったけ……。
ほこり臭く、薄汚れた階段を下っていく。
電灯が切れているため足元は見えづらいため、懐中電灯で照らしながら慎重に進んでいった。
たどり着いたのは古めかしい木製の扉。
何だか不気味な雰囲気を感じ取りながらも、ゆっくりとドアノブを回し中へと入り込む。
そして目に飛び込んできた光景に思わず口から悲鳴が漏れ出した。
「うわあッ、なんだこれ!」
中にライトを当てると、まさに魔窟のようなありさまだった。
まず目に入ったのは壁に掛けられた雄牛らしきものの骨だった。
床には割れた水晶やら何か白い粉が入った瓶やらが散乱している。
隅にはまるで魔女が使うような巨大なつぼがある、中は酷く汚れており妙な悪臭がした。
小屋に置かれているアクセサリーらしきものはどれも趣味の悪い物ばかりで、さわっただけで呪われそうだった。
ところどころに見えるあの壁の黒いシミは……ひょっとして血か?
そして極めつけは部屋の中央に描かれた統一性のある紋様だ。これは所謂、魔法陣というものだろうか?
オカルト、黒魔術……そんな不穏な言葉が頭によぎる。
「うわぁ……趣味が悪すぎるだろ、これは……」
俺はひい爺さんの正気を疑った。
いくらなんでも悪趣味すぎる。ひい爺さんはオカルトに傾倒していたのか?
だとしたらショックだ。まさか家族にそんな人物がいたなんてな。
「叔父さんめ!これを分かっていて俺に押し付けやがったな!」
あの含み笑いの意味がようやく分かった。誰もこんな入っただけで呪われそうな部屋を片付けたいとは思わない。叔父さんも、もちろん俺も。
最悪だ。どうやらババを引かされたみたいだ。
こんな部屋、絶対に入りたくもないんだけど、先ほど叔父さんの前で大言壮語した手前、逃げ出すわけにもいかない。
やるしかないのか?この部屋の掃除を?
深いため息を吐き出した。いくら涼しいとはいえ、こんな呪われた品々に触るぐらいなら上階の清掃の方が良かったな。
やっぱり仕事をサボっても碌なことにはならない。
さて、何から手を付けたものかと迷いながら、地下室の魔法陣の上に足をのせると……
「……え?」
瞬間、明りのなかったはずの地下室が紫の光に包まれる。
光源は床に描かれた幾化学の文様。それが秒を刻むごとにどんどん強く輝いていく。
「え?何々、なんだよ、これは!」
心霊現象か!それとも幻覚?暑さで頭がイカレちまったのか!
いやだけど、むしろ気温は肌寒さを感じるほどだ。さっきまでは蒸し暑いほどだったのに一体何で!
取りあえずこれはヤバい!本能が警鐘を鳴らしている。
反射的にこの場から逃げ出そうと身を翻そうとしたが……体が動かない?
「ぐ、あ、あぁ……!」
助けを呼ぼうと大声を吐き出そうとしたものの、口ですら満足に動かせなくなっていた。
何が……起こっているんだ?訳のわからない事態に思考がパニック状態に陥っていた。
そして視界は真っ白に染まり、俺の意識は闇の中に堕ちて行ったのだった。
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