八話 こんなんで勇者名乗るとか馬鹿じゃないの?
能力鑑定処の外に出た俺は、まずレイナのお説教を貰った。
「ま、ざっとアンタの能力値を見たわけよ……結果どうだったと思う?」
俺の頭の天辺に何度も何度も拳骨が落とされる時点で答えは分かり切っているのだけどね!
痛い!
「ちょ、ま、いだ、ちょ、い、ちょ、やめよ、やめ、タンマ……あぁぁぁ! 止めろって言ってんだろうがぁぁぁ! 人が優しく言ってやってんのにそれはぁぁぁぁってごめんさい、謝るんで……その、殴るの止めて下さい……まじで……あぅ……あ……お星様が見えてきた……」
「あんたこんなんで勇者名乗るとか馬鹿じゃないの? 何よこれ! カスじゃない! いやカスですらないわ、ゴミよ! 今すぐゴミに土下座して自分の人生を百回ほど懺悔してから新たな人間に生まれ変わりなさい!」
散々俺のことを罵倒してくれやがったレイナは、診断書を俺の顔面に叩き付けてきた。顔面に張り付いた紙をぺりっと剥がし、俺は内容を見る。
そこに書いてあったのは、絶望的な数値だった。
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ユート・ラスタード
攻撃力 8
防御力 5
魔力 0
ジャラートから一言。
うん、そうだね! この能力値なら近隣の森に出現する最下級モンスターのスライムに致命傷を与えられるよ! でも素手じゃ勝てないから最低でもハンマーのような武器を持っていってね!
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「はぁぁぁぁぁぁああああぁあぁああぁああああああああ!?!?!? なんじゃこりゃああああああああああ!」
俺は、周囲の村人が一斉にこちらを見るような大音声で叫んでしまった。
な、なんなんだこのステータスは……何を基準に数値が定められているのか知らんが、とにかくこれだけは言える。
俺は雑魚だ! だって二桁の数値が一個もないんだという事実が俺を地獄のどん底まで叩き落としていく!
開き直って数値の上限も一桁なのだと全力で否定したいところだが……それを許さないジャラートの心の臓を的確に抉ってくる一言っ!
「素手じゃ……スライムにも勝てない、だと?」
そんな。じゃあ、最初の勝利は俺ではなくフライパンだったとでも言うのか――? 違う、そのフライパンでスライムを叩き潰したのは俺だ! 二回目の勝利なんて死闘の末に素手でスライムの核を潰したじゃないか……! なんだこの診断、当てにならねぇ!
「ぷぷっ……ここまで弱いとむしろ笑えてくるわよ……ぷっ、あははははは!」
「うるせー! 俺だって、俺だってまさかこんな結果だとは!」
しかも魔力数値が……え……? ぜ、ろ、だと……?
それって一切の魔法を使えないってことじゃないか……そんなのってないよ、神様どうしてこの世に格差を生んだのですか――。
「とにかくわかったわね。アンタが勇者なんかではなく取るにも足らないそこら辺の小石よりも下の存在だってことに」
「うおおおおうおおおおおおおおおああああああああ畜生この野郎! レイナ! お前もジャラートに診断して貰ったんだろ、そんなに言うんならお前の診断書はそれはそれはとても素晴らしい診断書なんだろなコゥラ!」
くそう、魔術師レイナ……お前は魔術師だ、しかたない、しかたないからお前の魔力だけは認めてやろう……どうせ沢山あるんだろう? だからそこには眼を瞑ってやろうじゃないかあっはっはっはっは! だが、お前は所詮魔術師だ。攻撃力が男の俺に勝るはずがない――。
そんな体たらくでっ! 俺のことをっ! そこら辺の小石よりも底辺だと罵れるというのかなぁ?
「はぁ、まあ、別にいいけど。自分に絶望してもいいなら見せてあげてもいいけどね」
「はっはっは何を言うレイナ君、上半身裸という卑猥な格好を中年男性に見せびらかして興奮する君のことだ、きっと素晴らしい――ずみまぜんでじだああああぁぁ――!」
雷の魔法が俺の身体に直撃し、ぐぎゃあと情けなく叫んだ俺は力なく地面に倒れ伏した。
どうやらレイナは雷魔法を好むようです……。
こうしてレイナに引き摺られて部屋にぶち込まれた俺は、レイナに渡された診断書を見て驚愕していた。
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レイナ・グランディール
攻撃力 35
防御力 40
魔力 152
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「ハッハウワ……! ハワワウワウ……ウオオオオオオアアアアアアアアア!」
しばらく口をぱくぱくさせて放心していた俺は、悲しみの涙をこぼした。もう駄目だ。何だよ……二桁って……というか普通に肉弾戦でもそこそこやれるんじゃないのかコイツ……? てか何でこんなに防御力高いんだよ……。
てか魔力に至っては三桁だと……? まじかよ。こいつ化け物ステータスじゃん。こんな女の拳骨を俺は頭部に連続で受けていたと。
「――誠に申し訳ありませんでした。俺はゴミです……所詮オール一桁の雑魚人間です……」
もう俺は全てを失ったよ……尊厳もプライドも何もかもを持っていかれたよ……。ああ、空が黒いなぁ。あの空を見続けていたら、俺も空に輝くお星様のようにきらきらと輝ける日が来るのかなぁ……。
「そんなアンタにいい特訓の提案があるわ。雑魚すぎるからこそ、必ず伸びるわよ。少なくとも私の攻撃力なんて普通に越えるくらいには、ね」
「本当か? 頼む、俺を、俺を一人前にしてくれ!」
「じゃあ、今日はもう寝なさい。明日から私が特別メニューを組んであげるわ」
「ほ、本当か?」
「――ええ、アンタにとっておきの訓練よ、心して掛かりなさい」
「はい!」
あれ、なんだろう……最初、下僕が嫌だった頃からは考えられないぞ……。レイナって、こんなに優しかったんだ。
俺は寝た。床で。