十七話 やったね! 魔力が増えたよ!
あれから早二週間。盗賊団の一味が出現することもなく、特に変わりのない平和な日々が続いていた。
とりあえずボススライムやラビットに手酷くやられたあの日から二週間で骨折は完治した。尤も、あの日腕に衝撃を食らったのが原因で完治までの時間が延びていたのだが……。
因みにあの後ラビットには勝利したが、その日は帰れなかった。結局のところ朝方にレイナによって救助され「早く治しなさいって言ったでしょボケ」と長時間説教されたのはいい思い出……思い出だ。
まぁ、生きていられただけマシなんだろう。
「ふう……ただいまっと……あ、レイナ」
そんなこんなで今日は骨折完治記念日ってことで、森で数体のラビットを狩って帰ってきた。スライムには出くわさないルートをちゃんと通ったので、一切の危険は犯していない。と言ってもあいつら神出鬼没だから、もし現れたら即戦闘に移ってしまうのだけど……。
「あら、ユート。どこ行ってたの?」
「どこって、お前こそ今日は早いんだな」
「そういう日もあんのよ。んで」
俺の持つ袋を指差し、レイナは言う。
「それなに? 血生臭いんだけど」
「ラビットだよ。ニ体狩ってきた」
いやぁ、ラビットは強かったよ。数時間にも及ぶ死闘の結果、逃げ続けるラビットの急所をばっさばっさと斬って捕らえたんだからな。
なんで数時間も手玉に取られていたのか分かんないけど、素振りとか走り込みとかのお陰でそれなりに体力をつけた俺の手に掛かれば相手などいないさ……フッ……。
「アンタ朝から出掛けてたわよね。夕暮れ時に帰ってきて二匹? どんだけ苦戦したのよ」
「それは言わないお約束にして下さい……」
本当は珍しくも餌を食べているラビットの群を見つけて狂喜乱舞した俺だったけど、逃げ回るラビットの反撃でボコボコにされてその内数十体を取り逃した挙げ句、捕らえた二体もほとんどまぐれっていうのは……。
「まあいいわよ、腐っちゃう前にさっさと売ってきなさい。そしたらジャラートのところ行くわよ」
「あの変態おじさんのとこ? 何しに?」
「能力鑑定に決まってんでしょうが! 他に何があんのよ」
レイナは盛大な溜め息を吐いた後、机の上に置いてある金貨袋を掴み取った。
「あんたも最近頑張ってるらしいじゃない、だからご褒美よ。本来だったら短期間に何度も鑑定するようなもんじゃないけど、最初は伸びやすいから確かな鍛錬の成果として実感しておきなさい」
――と。
そんなこんなで、ジャラートの経営する能力鑑定処まで足を運んでいた。今日も変態おじさんは変態そうな笑みを浮かべて椅子に座り、俺とレイナの来訪を迎え入れる。
「おお、これはこれは。今日も夜にいらっしゃい、どんなご用で?」
「アンタも大概よね……」
レイナが俺にしたような溜め息を同じように吐き、ジャラートに金貨袋を投げ付けた。
「こいつの鑑定料。アンタと雑談なんかしてる暇ないから、さっさとやってね」
「酷いじゃないかレイナ君。久々の会話なんだ、弾ませていこうじゃないか」
今日で三回目の診断だ。
前回やったのは確か二十日ほど前だったか、今にして思えばレイナと出会ってから結構な日にちが経ったものである。
俺はジャラートに促されるまま上半身裸になり、彼の診断を受ける。ジャラートは色々と無駄口を叩きながら白紙に俺の診断書を書き加え、時々レイナの怒りに触れつつ、診断書が完成した。
それをレイナが受け取り、紙面を覗きながら確かめるように頷いた。
「……魔力、増えてるわね」
「え?」
神妙な顔をしていたレイナは、しばらくして診断書を俺に手渡してきた。見てみなさいと言われ、その場で覗くと――。
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ユート・ラスタード
攻撃力 13
防御力 9
魔力 2
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あれだ。他のステータスの上昇値については目を瞑ろう。これでも伸びてるはずだ、そう思いたい。
今はそんなことより、俺は一番下の数値に釘付けなのだから。
「おっ……マジ? 俺魔力あんの?」
「はは、虫の息みたいな量だけどね。けれど、元々魔力のなかった者が魔力を手にするっていうケースは少ないんだ。その点では君は恵まれていると思うよ」
ジャラートによると、俺みたいに魔力がゼロだったりするとどれだけ鍛えて高みを目指しても魔法が使えない者もいるのだそうだ。
数十年も昔、かつて剣聖とも呼ばれた剣術の使い手がそれであったらしく、深く悩んでいたらしいが。
「よかったじゃない、ユート」
「……お、俺は勇者だからな! それくらい当たり前じゃないかはっはっはっは!」
「何言ってんのよ下僕、私に能力の一つでも勝ってからそういうこと言いなさい」
「……うっ」
まあ、でも。
鍛錬の成果がちゃんと出たのだ。筋力も付いたのか攻撃力だって上がってるし、防御力も増している。
何より俺にも魔法が使えるかもしれないのだ! めっちゃかっこいい火魔法とか、雷魔法とか、夢が広がるぞ……!
「気持ち悪いわね、その顔」
「うるせぇ! 嬉しいんだよ悪いか」
「悪かないわよ」
内心喜びを隠せずにやにやと顔を緩ませながら、俺達は宿屋へと帰るのだった。




