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レイナと勇者と下僕録  作者: くるい
一章 ~盗賊団退治の下僕録~
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十二話 買ってきたロングブレードが重くて持てません

 あれから七日が経過した。怪我の具合はそこそこよくなってきたが、やはり骨折はそう簡単には治ってくれないらしい。

 レイナも毎日献身的にヒールなどで治療してはくれるが、あの盗賊団にやられた骨折はかなり酷い折れ方をしていたらしく。


「っはぁ……」


 今日も俺は、部屋で療養しているのだった。

 例の如く今日もレイナは部屋に居ない。一日の三分の二以上は外で活動しているため、彼女が部屋にいるのは深夜から早朝にかけての短い時間のみ。睡眠、朝食、夜食、風呂以外の用途で部屋を活用していなかった。

 いや、割と正しい使い方なのかもしれないが……。


 片手でレイナが散らかした服を集め、部屋の片隅に置いていく俺。こいつらは後で洗濯するとして――。


「ロングブレード、ね」


 ベッドの横に立て掛けられた重厚な剣を部屋の端から眺め、俺は溜め息を吐いた。鞘に入れられた鉄の剣はどしりとそこに存在してあり、まず俺の手で動かせるような軽さではなかった。


「レイナ、俺が動けるようになったからってこんなもん持ち出して来たみたいだが……両手でも持てる気がしないぞ」


 アイツは一体俺を何にする気なんだ。


 そんなことを考えつつ、昨夜のレイナとのやり取りを思い出すのであった――。






「帰宅したわよ下僕……うん、ちゃんと働いてるみたいね」


 部屋に帰ってきたレイナが扉を開けての第一声、とても腹の立つ台詞が聞こえてきた。


「まるで俺がゴミみたいな言い方だなお前」

「まるでじゃなくてゴミじゃない。ホラ、あの時ぼっこぼこにされた傷もいい加減治ってきて退屈なんじゃないの? ほれ受け取りなさい」


 そういやなんか背中に担いでるなと思いきや、レイナはそれを手に持ってずい、と俺の前に突き出してきた。重装備の剣士が持つような幅広のロングブレードだった。

 何も考えずに左手一本で受け取ろうと差し伸べると、存外めちゃくちゃ重い。え、いや、マジで重い。やばいやばい、


「やばいって何これ重! 持てねぇから!」


 一体どれほど重量があるんだというほどの重さが左手に加わり、耐え切れなかった俺は限界が来て剣の持ち手を離してしまう。

 ズシンという音と共に、ロングブレードは床にぶっ倒れた。


「あっちゃあ……伊達に攻撃力10じゃないわね」

「それ馬鹿にしてんのか? なあ馬鹿にしてんだろ!」

「何ほざいてんのよ。人間が生ゴミを馬鹿にすると思うわけ? しないでしょ、そういうことよ」

「もっと酷い言い方だな!?」


 横倒しになった剣を持ち直してベッド横の壁に立て掛け、レイナは俺を指差してきた。


「この前買ってきた武器よ。とりあえずこの武器を使えるようにしておきなさい。いい? 持てないからって諦めてたら怒るわよ」

「へいへい……まあやるだけはやっとく」

「んじゃ、私はもう寝るわ。ガチャガチャ音立てられてもうるさいからアンタも寝なさい。その剣を持つのは明日でいいから」






 ――と、いうわけだった。


 レイナはこの前の隣町での買い物でロッドやらムチやら、かと言えば魔力の込められた一般的な魔石やら何やらを購入していたようだが、まさか剣まで買っていたとは。

 レイナがそこそこ金を持っているのは知っていたが、遠出だからって沢山購入して何の意味があるというのだろうか。最上級魔法を扱える腕を持っているのはあの時分かったし、そりゃ中々凄い魔法使いなんだろうけどさ。レイナの考えていることは分からん。


「……あぁ、どっちみち暇なんだよな」


 基本的に俺がレイナから任されているのは部屋の掃除、衣類の洗濯だ。時々資料の整理を任されたことがあるが、それだけ。軽く目を通したが地形情報や村人との会話のメモ、盗賊団の断片的な手懸かりを書いたメモなどで頭が痛くなったのを覚えている。

 とまあ、それくらいだ。宿に居る限りは料理は運んでくれるし、俺の仕事はそこまで存在しない。


 だから空いた時間に鍛錬でもしろ、との計らいなのかもしれないが……。


「重いよなぁ、こいつ。もう少しなんとかならんの? ならんよなぁ」


 左手だけじゃこんな重たい剣を持てるはずもなかった。レイナが片手で持っていたことを考えるとあと数倍の力が付けば持てそうなもんだけど……ほんと言ってて悲しくなるな。

 いやいや何を腐ってるんだ俺。勇者になるんだろう、勇者ならこんなブレードくらい余裕で振り回せるはずだ!


「ふぅ……」


 ロングブレードの柄を握り、深呼吸。持ってやろうじゃないか。


「……すぅ、はぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ロングブレードはぴくりと動いた!


「うぐおおおおおおおおおお、ふんぬぬぬうううう、そいやあぁぁぁ!」


 歯を食い縛り、俺の顔が真っ赤になる。左手に汗がにじみ、僅かに柄へ滲んでいく。


「ってやべぇこっち倒れ、ちょい、まっ、支えられねぇー!」


 ズシン、と。

 ロングブレードが俺の手から離れ、盛大に床へと叩き付けられた。


 ぜえぜえと息切れを起こし、俺は剣と睨めっこをする。間違いなく定位置には戻せなさそうだ。どうしよう……。

 剣を何度か持ち上げようとして、数十センチ動いたそれは再度がたんと床に衝突した。


「……誰だよ最初に剣なんて考えた奴」


 知ってるか、こういうのって真ん中で持つより端で持った方が重いんだぜ。ましてやこんな金属の塊、こんな端っこに柄を付られたら持てるはずがないのだ。

 レイナは持っていたけどね!


 ……。


「とりあえず、どうしよう」


 結果的にぶっ倒れてしまったロングブレードを眺め、俺は溜め息を吐く。幸いなのは、倒れた時床に傷が付かなかったことだった。

 もしもそんなことになれば宿屋から修理費を要求されるかもしれなかったのだ。


 仕方ない。無理に戻そうとして傷が付いたら本末転倒だからな……。


 俺は諦めて床に寝転がり、レイナの帰りを待つことにしたのだった。

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