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L-11

 莉恵が目覚めない。


 呪詛の昇華は終わった。だが目覚める気配が無い。無事は確かだ。だが目覚めない。分かっている、昇華に使った魔力を補っているのだ。分かっている。だが目覚めない。大丈夫なのは分かっている。だが目覚めない。

 なぜ目覚めない。


 莉恵が小さな欠片たちに語りかけている。繋がっていると。一人じゃないと。側にいると。俺が莉恵に語りかけたように、莉恵が欠片たちに語りかける。

 そうだな。繋がっているな。

 だから莉恵、早く目覚めてくれ。






 ────あれから、いくつの巡りを迎えただろうか。


 俺は父親になり、莉恵は母親になった。

 三人の子を授かり、長男はドラゴンと、次男はグリフォンと、長女はホワイトベアと契りを結んだ。

 欠片たちはいつの間にかいなくなっていたそうだ。その存在が当たり前になってしばらくした後、気付くと消えていたらしい。

 ジークのところにも、次男、長女、三男の順に子が産まれ、レオを初め皆フェンリルの加護を持つ。

 ジークと共に少し長き時を生きることを決めたロッテが、莉恵の加護を得て、バンビと正式に名の契約を行った。バンビは待っていましたとばかりに人型となり、レオに纏わり付いて嫌がられている。



 爺様が儚くなった。

 爺様は子供たちを可愛がった。だが、最後まで彼の渡り人のことを気にしていた。その爺様の最後に、リッツの子が突然会いに来た。本人は何故爺様に会いに来たのか分かっていないようだったが、どうしても会いたかったそうだ。

 きっとそういう事だろう。リッツの子はリカの子と縁があるようだ。そういう事なんだろう。

 爺様はリッツの子に祝福を残し、静かに、満足そうに、眠りについた。爺様の長持は我が家のリビングに置かれ、我が子のみならず、ジークの子や、ジギスの子、リッツの子など、爺様に可愛がって貰った子供たちが毎日誰かしら訪ねてきては、今日一日の様子を長持に語っていた。

 爺様の形見は子供たちによって分けられ、爺様の魔石はリッツの子に贈られた。


 爺様の肉体が消えると共にグラウが消えた。

 莉恵はグラウの欠片を抱えた命にいずれ出会うことが出来ると言う。爺様の欠片を抱えた命にも出会うことが出来るだろうとも。



 アベラール王家はゆっくりと崩壊した。

 一時的に他の三国の共同統治となり、後にレイヴンズクロフトに吸収された。それが発端となったのか、元々抱えていた内乱が大きくなり、ついに国が三つに割れた。

 我が国もドソノも静観に徹した。その間、ドソノとの国交が密となり、ドソノ特産の穀物が多く持ち込まれ、莉恵が懐かしいと喜んだ。

 彼の渡り人の子孫たちの理解力は呪いと共に消え、その魔力も半分ほどまで小さくなった。彼の人の痕跡が呪いの昇華に伴い、徐々に彼らから消えていったようだ。俺たちが見たあの凄惨な光景も、昇華と共に薄れていった。

 莉恵が直接彼らの理解力を封じる必要がなくなり安堵した。もうこれ以上莉恵に負担は掛けたくない。



 俺も莉恵も歳をとらない。

 莉恵は今でも出会った頃のままだ。この先もそうなのだろう。

 俺も莉恵も王族として表に出ることはなくなった。

 ジギスとリッツは伴侶に加護を望まなかったため、それぞれの伴侶の形見分けまでを済ませた後、俺たちと共に島で暮らしている。

 ジークとロッテとは侍従ではなく、友人となり、互いに無二の存在となっている。未だにロッテに「リーエ様」と呼ばれることを莉恵は嘆くが、ロッテはどこ吹く風だ。莉恵の女官長は生涯私だけだと自慢している。

 ジークは何故か俺のことをルドルフと呼ぶ。ルードルフと呼ぶことは出来ないが、ルドルフとは言えるらしい。おかしなものだ。今ではジギスもリッツもルドルフと呼ぶ。どうやら俺の名も力を持つようになったらしい。



 王位は兄上の子が継いだ。次男が王位を継ぐこととなったのだが、その際、我が子も含めてじゃんけんで決めたらしい。兄上が呆れていた。

 エル殿は随分と早くに儚くなった。呪いの影響だ。アベラールの王家に連なるものは、その血がどうであれ皆短命だった。莉恵が加護を与えていればと後悔したが、エル殿はこれでいいのだと笑っていた。本当に最後まで強い人だった。王妃の死に国中が悲しんだ。王妃としても素晴らしい人だった。



 母上、父上が立て続けに儚くなり、父上の侍従長と母上の女官長がそれに続いた。

 兄上、マックス、ジル、リカ、ミーナ、ティア、カールの順に見送り、カールの形見分けを終え、俺たちはファルファラー王家から完全に離れた。

 それでもジークは時々相談に乗っているらしく、いつの間にか賢者様と呼ばれるようになっていた。俺が過去に妄想した、金色の鷹を肩に乗せた賢者の絵本が本当に出版され、大いに驚いた。おかげでジギスがそれに嫉妬してうるさい。どうも裏で莉恵とロッテが糸を引いている気がする。面白いから気付かないふりをしたが。



 莉恵と血の契約をした契りしものは、契約者が儚くなると名の契約前の姿に戻り、莉恵の元に現れる。莉恵との血の契約の影響か、契約者の血が途絶えるまで、その命は消えることがなくなったようだ。

 ディナン、リアン、ジャスティは、我が家でペット生活を満喫している。他のものは東屋を住処に、契りしものの子や孫たちの様子を時々見に行っているようだ。気に入ったものが現れると名の契約をしているらしい。

 グラウは血の契約前にその命の終わりが告げられていたため爺様と共に、ヴァイスは莉恵と血の契約を行わなかったため、カールと共に消えた。

 元々ヴァイスは長く生きられなかったはずだそうだ。魔の血と精霊の加護の反発により、性が定まらなかったことも魔の血を持つヴァイスには辛かっただろうとフェンリルは言う。カールが儚くなり、その肉体が消えるまでの僅かな間、ヴァイスは莉恵の側にいた。莉恵はヴァイスの欠片を待っている。



 ある日、上位が生まれる気配を感じたフェンリルとシュヴァルツが、共にドソノに向かった。ドソノには火山が多く存在し、そのエネルギーを受けて上位が生まれやすいそうだ。フェンリルもシュヴァルツもドソノで生まれたらしい。

 連れ帰ってきた上位は、グラウの欠片を持った存在らしい。しばらくすると青みがかった銀色の狼の姿となった。本来ならこの時点でフェンリルは消滅していたはずだという。上位だけは同じ姿のものがいない。新たな姿のものが生まれるとき、それと同じ姿のものは消滅するのだそうだ。

 莉恵が、フェンリルが消えなくて良かったと涙を流していた。フェンリルはしばらく莉恵の側を離れず、消滅することのない命を漸く実感出来たそうだ。シュヴァルツも心から安堵しているのが伝わってきた。

 リッツの子のカイがグラウの欠片を持つものと契り、ティンと名付けた。



 ジークとロッテ、ジギス、リッツ、カイが莉恵の眷属になることを決めた。俺たちの生に付き合うと言う。俺も莉恵も止めたが、決意は変わらず。「俺たちがいた方が楽しいだろ」とジギスが笑いながら言い、ロッテが「私がいなくなったらもう美味しいデザートが食べられませんよ」と言って、莉恵とフェンリルを脅していた。

 ジーク、ロッテ、ジギスが主にひょうたん大陸、リッツとカイが主にドソノ大陸、俺たちがファルファラー大陸を見守っている。

 ファルファラーも国が三つに分かれ、その名は大陸名として残った。レイヴンズクロフトの王都周辺は、レイバンズという名の国となり、その大陸はヒョーターンと呼ばれるようになった。莉恵が苦笑いしていた。

 


 いつの間にか人の世では、莉恵が月の神、俺が太陽の神、ジークが智の神、ロッテが美の神、ジギスが酒と美食の神、リッツが武の神、カイが生と死の神と言われるようになっていた。力あるものたちは聖獣と言われている。

 莉恵が「私たちが神だって」と大笑いし、ジギスが「なぜジークは賢さの神で、俺は食いしん坊の神なんだ!」と叫んでいた。ぴったりだぞ。



 莉恵は日本語を封印していない。

 その長すぎる生を終えるまで、彼女は日本人で在り続けるのだろう。






 これにて本編完結です。お読み頂き、ありがとうございました。心からの感謝を。

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