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58 コピペ

 王都に結界が張られることが公布され、数回の試験の後、本格的に施行された。

 普通に暮らす国民には害のない、むしろ安全な措置であるため、特に大きな混乱はなかったという。罪を犯している国民は大いに混乱しただろうが、それはまあ、仕方がない。


 ジギスさんとリッツさんが交代で王都に結界を張る傍ら、事前に交付されていたにもかかわらず、高をくくって潜み続けていた他国の密偵たちが、事あるごとに次々に結界に阻まれ、あっさり捕獲され強制送還されていた。

 同じく高をくくって逃げ出さなかった罪深き国民も、王都を出ようとする際に結界に阻まれ、あっさり捕まっているという。王都内に残る罪深き……まあ、いわゆる犯罪者は、王都から逃げ出すことが出来なくなっているようだ。捕獲されるのも時間の問題だろう。



 いつの間にか魔力隊の本部と武力隊の本部に、ルードルフとマックスが大浴場を作っていたらしく、特に武力隊から絶賛され、いつの間にかその噂が王都に拡がり、王都に公衆浴場が出来ることとなった。

 その公衆浴場の運営も孤児院がする。孤児院を建て替え、一階が公衆浴場、二階が孤児院となるそうだ。そこでクッキーも販売されている。温泉饅頭ならず、温泉クッキーだ。

 入り口には浄化の魔法陣が刻まれており、小銅貨六枚、六十円くらいで浄化の魔法陣だけを使用することも出来るというので、魔力のない人で賑わっているらしい。

 入浴は銅貨三枚でだいたい三百五十円くらい。市の日には入場規制をする程だという。


 王都に四つ在る孤児院は、契約者たちがフェンリルの指導の下、魔力で建て替えた。

 ジギスさん、リッツさんがそれぞれ泣きそうになりながら、一の孤児院と二の孤児院を立て替え、アルさん、フォルクさん、ユーリさんの三人が何とか三の孤児院を建て替えた。四の孤児院はなんとジークが一人で建て替えた。


 契約者たちがフェンリルの扱きから何とか逃れようとする中、ジークだけが自ら進んでフェンリルに教えを請うていたそうだ。それに大いに気をよくしたフェンリルが、ジークに加護を与え、魔力を人が持つ最大限まで引き伸ばした。それによりジークは、ルードルフの侍従長でありながら、ジギスさんやリッツさんを超え、ルードルフに次ぐ大きな魔力を持つこととなった。ルードルフ曰く普通の渡り人並みだそうだ。



 普通ではない渡り人の私は、結界が張られ自由に城下を散策できるようになった。

 ルードルフに市で買って貰ったワンピースを着て、プチサイズのフェンリルを従えて歩き回っている。好きでフェンリルを従えているわけではないのだが、こっそり出掛けてもいつの間にか後ろにいるので諦めた。

 契約者たちからは、私が出掛けると当然フェンリルもお供するので、毎日出掛けるよう勧められている。フェルさんやマックス、ヴァルさんにまでやんわり勧められたときには、フェンリルの扱きがどれほどのものなのかが、ちょっとだけ分かったような気になった。まあ、無表情で扱くあの姿を見るだけで、私は心が折れそうになったけど。


 ある日王都の端まで出掛けた際、王都に張られたルードルフの結界に触れ、出来るかも? と思ってルードルフに分けて貰った魔石に結界の魔法陣を刻んでみたら、街ひとつ覆うほどの結界が発動する魔法陣を刻むことが出来てしまった。

 しかも魔力の供給は、電気と同じく空気中に漂う魔力から補給するという魔法陣は、ジギスさんのみならず、普段は冷静なリッツさんが「反則だ!」と叫ぶほどのことだったらしい。


「俺たちの苦労が……」


 ルードルフ、ジギスさん、リッツさんが泣き言を言ったのは、聞かなかったことにした。なんというか、ごめん。

 結局、王都の結界は私が出来心で作った結界石が採用された。

 それにより、再びルードルフ、ジギスさん、リッツさんにジークが加わり、今度は結界石を作るためにフェンリルに扱かれることとなった。各街に配布する分だとか。……重ね重ね申し訳ない。


 この結界、この国の法に沿って反応するように出来ている。刑の重さによって結界を通り抜ける時に違いがあるそうで、重罪の人は結界を通り抜けられず手前で弾かれ、軽罪だと結界の途中で魔力に捕まって止まってしまうそうだ。詳しいことは分からないものの、ルードルフの施した結界を魔法陣にするときに、そのまま同じ仕組みとなるよう刻んだ。

 ルードルフ曰く、それがそもそもおかしいらしい。

 本来は魔法陣は、その細部までを詳細に理解した上で刻むことが出来るという高度な技らしいのだが、私は理解せずとも出来てしまう。


「おそらくコピペという概念のおかげだろうな」


 私の知識からそう憶測するルードルフは、自分では理解はできるが実行は出来ないそうだ。


 そうそう、魔法陣。

 ちょっと格好良く見えるよう工夫したりしている。ジギスさんがそれを真似しようとして、「ほう、余計なことに気を回すほどの余裕があるとは」と、ルードルフ曰くドSな笑みを浮かべたフェンリルに弄られていたらしい。

 魔法陣はその人の癖が出る。ルードルフは優美な、リッツさんはきっちりとした、ジークはシンプルな印象だ。ジギスさんのは……なんというか、いいとこ取りを失敗したような、中途半端な印象だ。

 フェンリルが見本で見せてくれた魔法陣は、それはもう驚くほどに美しかった。単なるロゴマークのような魔法陣が、複雑なカリグラフィーのような、まるで紋章のようにも見える。シュヴァルツやゴルトの魔法陣も同様に美しかった。

 力あるものたちの美しき魔法陣は古代文字で書かれているらしく、ルードルフの魔法陣が優美に見えるのも古代文字を使っているかららしい。とは言え、まだその完成度が高くはないので、驚くほど美しいとまではいかないらしい。

 ジークは今古代文字の勉強中なのだそうだ。ゴルトが誇らしげに話してくれた。ジークの魔力がフェンリルの加護のおかげで大きくなったことにより、ゴルトの魔力も随分と大きくなったらしい。



 そして、私がこの世界に来て半年を過ぎる頃、エルさんが男の子を出産し、続いてティアさんも男の子を出産し、更に続いてミーナさんが女の子を出産した。エルさんとミーナさんは二日目には回復し、ティアさんは三日目には回復していた。

 それぞれ回復した翌日には温泉でのんびりしているのを見て、話しには聞いていたものの、私の中の出産に対する常識が大きく変わった。ロッテがお見舞いに行こうとする私を引き留めるわけだ。

 エルさんは四日目には公務を再開し、ティアさんは五日目に再開したらしい。今までおとなしくしていた分、意欲的に公務に励んでいるという。王族の鏡である。


 エルさんは二人目の男の子と言うことで、ことのほか喜んだ。

 実は、第一子、第二子と女の子が続き、プレッシャーを感じていたらしい。

 それもあってフェルさんは、当時既に男子を授かっていたカールさんに王位を継承させたかったそうだ。エルさんがプレッシャーで第三子を産むのを怖がったために、これ以上エルさんに負担を掛けたくないとカールさんに話したら、いざという時はカールさんやマックスの子を養子にすればいいと言われていたそうだ。

 ティーナさんがこっそり教えてくれた。

 当時エルさんは、ヴァルさんの姉妹や兄弟の伴侶たちに随分とプレッシャーを掛けられていたらしく、体調を崩すほどだったらしい。そこに悪気はなかったけれど、人との関係は難しいとティーナさんが小さく零していた。

 今でもティーナさんやヴァルさん、フェルさんは、ヴァルさんの姉妹や兄弟の伴侶とは表面上の付き合いしか出来ないそうだ。


 だから私のことも、ルドルフ兄弟の伴侶とティーナさん以外の女性王族には、話していないのかも知れない。どこの世界でも人との関係は難しい。






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