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56 帰国

 翌朝、早々にレイバンズクロフトの王城を辞し、また十日間掛けて馬車で大使館まで移動し、大使館から転移で戻った。


 公平を期するためなのか、面倒なことは一回で十分なのか、行きとは別のルート、別の領主の館での宿泊となったため、薄着の娘さんたちに再び襲撃され、ルードルフはうんざりしていた。中でも一人、私がいても平気だと言い放った猛者もおり、ルードルフはほとほと疲れたようだった。


 そんなお疲れのルードルフは、今回のことで主に外交を引き受けているカールを尊敬していた。行く先々でこんな事が繰り返されると、さすがに自国から出たくなくなると嘆いていた。うん、端で見ていても鬼気迫る薄着の娘さんたちは怖かった。ティアさんもよく耐えられるな……。

 帰ってからそう話せば、レイバンズクロフトが一番盛んなのだという。絶対魔力主義国ではカールさん程度の魔力ではそこまで群がることはなく、絶対武力主義国では逆に魔力のあるカールさんは相手にされないのだという。


 道中の朝食はいつものクラブハウスサンドや、パンとスクランブルエッグやソーセージ、ベーコンで済ませ、昼食はバーベキューを楽しんだ。このバーベキューが意外と好評で、シンプルに塩胡椒、お醤油や適当に作ったタレで食べただけなのだが、野外で出来たてのものを食べることが今までなかったようで、大いに盛り上がった。次回の野外訓練に取り入れるとジギスさんとリッツさんが力説していた。

 アルさんがベーコンやソーセージの作り方を聞いてきたので、うろ覚えの知識だけどと言って教えておいた。アルさん、実は食べることが大好きで、それが講じて自分でも料理をするのだそうだ。ひそかにお城の料理長ともお友達だったらしい。


 帰りはレオも旅に参加している。必要なときに家に戻れるならレオも一緒でいいではないかと、フェンリルとゴルトがごねたのだ。バンビもお留守番に飽きていたらしい。

 力あるものたちは、ずっと魔石に宿って窮屈な思いをしていたからか、姿を隠して本来の姿に戻り、一行の周りを駆け回っていた。ゴルトとミュゲは肩乗りサイズになって、空高く気持ちよさそうに飛んでいる。


 行きとは違い、なんともほのぼのとした移動となった。



 家に帰ってきた翌朝、ルードルフと一緒に登城し、今回のことを報告した。

 形式的な報告を終えた後、最近は皆離れと呼んでいる湖の脇に立つ建物に集まる。


 集まるのはこの離れを知るメンバー、つまりルードルフ一家とその直系王族たち、契約者とその契りしものたち、それとジークだ。ジークはすっかり王家の秘密の一員だ。


「早速だが、以前話していたアベラールの枷の脅威が消えた」


 皆が席に着いた途端、ルードルフが前置き無く話す。

 毎回思うのだが、ここの人たちはいきなり本題に入る。合理的というかなんというか。それに対し今回訪れたレイバンズなんとかでは前置きが長い。形式美だとでも言うように、とにかく前置きが長かった。

 それぞれのお城の様子がそれを表しているのかも、と思ってしまった。


 ルードルフが今回のことを、リカさんのことを伏せたまま、通算四度目の事の次第を話す。

 マックス大笑いだ。「ヤバい、腹痛い」と言いながら、ひーひー笑っている。王族がヤバいとか言うな。


「馬鹿で助かったとでも言うべきか。とは言え、渡り人が女性であると知れている。おそらく理解力によるものだろうが、渡り人がレイヴンズクロフトに現れることも知れていた。

 渡り人がリーエであると知れるのも時間の問題かと思われるが、どうやら今回の渡り人自身については解っていないのか、未だ動けず話せない者を探しているようだ」


 ルドルフの言葉にふと思い当たることがある。


「あの……、私の理解力ですが、私自身のことは解らないんです。ルードルフには解るようなのですが、それは番となった者特有の力かも知れません」

「と言いますと?」


 カールさんが聞いてくる。


「私の理解力は、この世界の有り様というのでしょうか、この世界については解るのですが、私自身については解らないんです。だからもしかしたら、アベラールの渡り人の子孫たちにも解らないかもと思うんです。渡り人がどこに現れるかは解っても、渡り人が私だとは解らないんじゃないかと」

「ああ、確かに俺が最初にリーエを迎えに行ったときも、渡り人が現れるとは解ったが、リーエのような規格外の渡り人だとは解らなかったからな」


 ルードルフの言葉に、やっぱりなと思う。


「渡り人の存在は世界の有り様に関わるのでしょう。でも、その渡り人自身については世界の有り様とは関わらないのだと思います」

「なるほどね」


 カールさんが腕を組み、考えるように言葉を漏らす。


「では、渡り人の存在は知れても、リーエ自身の存在は知れないと言うことですか。どちらも同一人物なのでどこで線引きをすればいいのか判断しかねますが……」

「少なくとも我とシュヴァルツの結界内にいる限り、人に知れることはないであろう。かといってこの島だけに我が主を留め置くは息が詰まるだろう。

 王都に結界を施す。他国の間諜なども入り込めない結界を、ルードルフが張る」


 カールさんの言葉を遮り、フェンリルが言う。ルードルフがげんなりして言う。


「俺が張るのか……」

「ルードルフは我が主と日々番っておるから、魔力が尽きることはあるまい」

「っな! おい!」

「ほほう、日々ね」

「フェンリル! そういう事は人前で言ってはいけません!」


 フェンリルが余計なことを言った! なんで皆の前で番ってるとか言うんだ!

 カールさんがにやりと笑いながらぼそっと漏らし、体液のことを知っているおじいちゃんとヴァルさんは大笑いだ。他の人も苦笑している。


「ルードルフが日々励んでいることは分かったが、王都に結界を張るのには賛成だな」


 なぜおじいちゃんたちがそこまで笑うのか分からない様子のマックスが、それでもルードルフの慌て具合を見て笑いながらからかい混じりに言う。ルードルフが「マックス憶えてろ!」と小声で言っている。


「そうですね。試験的に、とあえて前置きして、さも実験段階だと装ってわざと数回失敗したりして」

「ならば、ジギスとリッツにやらせてみるか。いい演習になるだろう」


 ジルさんが面白そうに言う。フェンリルがジギスさんたちを扱こうとしてにやりと笑う。ジギスさんとリッツさんは顔色を無くし首を横に振っている。マックスが「それいいな」と笑いながら賛同している。


「国王とマックス、ヴァルもそろそろ魔力訓練を開始するぞ」


 続くフェンリルの言葉に、マックスの笑いが止み、今度はフェルさんとヴァルさんが顔色を無くした。ジギスとリッツがこっそり笑っている。


 なんというか、仲いいな、皆。



 その夜、ひそかに思っていたことをルードルフに聞いてみた。


「ねえ、ルー。皆私のこと聞かないよね。元の世界のこととか、どうやってここに来たのか、とか」

「そうだな、聞かれたいか?」

「うーん、聞かれれば答えられるし、聞かれて嫌な気はしないけど……。なんだろうなぁ? 自分から話す気にはならないかも」

「何となく皆それが分かっているんだよ。聞けば答えてくれるだろうけど、自然と自分から話すのを待っている。……いや、それよりも、今目の前にいる莉恵の方に興味があるのかもな。少なくとも俺は過去の莉恵より今や未来の莉恵の方が知りたいし、見たい」


 そう言ってルードルフが覆い被さってくる。優しく唇に吸い付かれる。ルードルフと触れ合うのは好きだ。好きだが昼間のフェンリルの発言が気になってしまう。


「ああ、あれは毎日俺たちが互いの魔力を纏っているからだと思うぞ。別に行為そのもののことを言っているわけじゃない」

「でも、それって同じ事でしょ?」

「だったらやめるか? 今更だと思うけどな、俺は」


 そう言いながら、ルードルフの不埒な手がそこかしこを彷徨い始めた。


「今更かも知れないけど……」

「あいつらと繋がっている限り分かってしまうんだ。それに誰も気にしないぞ。皆だって毎晩番っているよ」


 そう言って、ルードルフは本格的に私を食べ始めた。






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