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52 乳牛柄

 さて。出発だ。


 フェンリルたち契りしものは、皆人型となり、新しく作られた護衛隊の制服を着用している。

 黒いシャツに濃い紺色の膝丈までのチュニック、腰にこの国の紋章入りのバックルが付いたベルトを締めている。マントのような黒いコートを羽織り、足下は膝丈のブーツだ。全身が黒っぽい。契約者たちは胸に勲章のような魔石をふたつ着けている。

 まるで映画で見たことのある中世の騎士だ。

 以前見た王族たちの正装も,基本同じスタイルだが、もっと煌びやかで、護衛隊の制服に比べると派手でひらひらしていた。

 こちらの服は、一体成形だからなのか、かぶり物が多く、釦で止めるものは少ない。ドレスなども基本は同じで、リボンや紐でぐえっと絞られる。


 今回私たちと同行するのは、フェンリル、シュヴァルツ、ジークとゴルト、ロッテ、ジギスさんとユニコーン、リッツさんとフリッツ、フォルクさんとハルト、ユーリさんとミュゲ、アルさんのクッキーの十七名だ。

 武力隊からの参加は見送られた。フェンリル一人で国中の武力隊以上の力があるために、マックスが馬鹿馬鹿しくなったそうだ。いざという時は転移で駆けつけると言っていた。


 人型になれないバンビはレオと一緒にお留守番だ。

 毎夜家に帰るので、昼間はエルさんとティアさんが来てくれて、レオの面倒を見てくれることになった。ジークもロッテも恐れ多いと頑なに遠慮したが、エルさんとティアさんも譲らなかった。ティーナさんがエルさんとティアさんに加勢したことにより、結局ジークとロッテが折れた。ルードルフの「レオのためにも島にいる方が安全だ」との一言が決め手になったらしい。


 ミュゲは女官としてロッテと共に私に付く。

 ちなみにロッテの制服は地味な黒の何の飾りもないワンピースだったため、少し袖を膨らませたり、すこしフリルを加えたり、ちょっとメイドさん風にアレンジした。もちろんふりっふりの白いエプロン付きだ。

 これを見たツアさんがうらやましがり、ちょちょいと同じようにアレンジしたら、お城の女官たちにうらやましがられたらしく、今では皆同じスタイルだ。日に日にふりふりが増え、かわいらしくアレンジされていくのは見ていて面白い。ロッテも一時思いっきりふりっふりになったのだが、そのうち邪魔になったらしく、今ではほどほどのふりふり加減だ。お城の皆もそのうち落ち着くだろう。


 今回ユーリさんはジギスさんの下に付き、補佐の仕事を手伝うそうだ。

 フェンリルとシュヴァルツはジークと共に護衛兼侍従の立場として同行するはずなのだが、フェンリルに威厳がありすぎて、フェンリルの方が王族みたいだと、ジークが頭を抱えていた。


 朝も早くから皆に見送られて、一旦レイブンズクロフト……漸く憶えた。憶えたのだが、ヴがブになるのはご愛敬だ。だが言いにくいので脳内ではレイバンズのままだったりする。その大使館に転移する。

 仰々しく出迎えてくれた職員の皆に、ルードルフが軽く答え、用意されていた随行員を断り、御者まで断って、行きと帰りのルートをジギスさんとリッツさんに確認させ、用意されていた馬車にさっさと乗り込み、慌てる職員を尻目にさくっと出発した。

 もうちょっと愛想良くしても良さそうなものだが、ジギスさんに言わせるとこれがルードルフの通常だそうだ。

 御者台にはユニコーンが座って手綱を握っているのだが、明らかに思念で馬たちを操っている。手綱が全く動いていない。

 その馬はなんとホルスタイン柄である。体格もどっしりしていて、ロバを二回りくらい大きくしたような姿だ。一瞬牛かと思ってびっくりした。ちなみに牛はシマ柄だという。しかもゼブラ柄ではなくうり坊柄だとか。是非見たい。



 ……馬車の乗り心地が最悪だ。

 クッションがたくさん用意されているのだが、そんなものでは誤魔化せないほど、揺れる。というか、跳ねる。跳ねる度におしりに痛みが走り、数十分で耐えきれなくなった。


 ちょちょいと力を隠蔽しながら、馬車の内部に衝撃吸収の結界を張る。途端に揺れが収まり、すこぶる快適だ。


「おい、何をした?」


 突然揺れなくなった馬車に驚いたルードルフが聞いてきた。


「あまりにも揺れるから、馬車の内部に衝撃吸収の結界を張った。大丈夫、魔力の痕跡を隠蔽して張っておいた」

「快適ですねぇ。さすがリーエ様です」


 一緒に乗っているジークが褒めてくれた。ロッテもほっとした顔をしている。ミュゲは揺れが気にならなかったらしく、首をかしげている。ミュゲは本体が鷲なので、揺れた小枝に留まる事もあるからか、気にならないらしい。


「ついでにその結界に不審者、不審物排除の結界も重ねておくよ」

「ああ、そうだな、それは俺がやるか」


 そう言って、ルードルフが結界を重ねて張る。

 ジークが感心したようにルードルフの力の使い方を見ている。

 ジークも古代魔法や無詠唱での力の使い方を学んでいる最中なのだそうだ。魔力はそれ程大きくなかったジークだが、使い方のセンスはとてもいいと、珍しくフェンリルが褒めていた。そのうち使えるようになるとフェンリルに太鼓判を押されたジークは、暇さえあれば、ゴルトやフェンリル、シュヴァルツに力の使い方を教わっている。


 今回、馬車に乗り込んだ時点で家に転移で戻り、宿泊する予定となっている館や宿に着く直前で再び馬車に戻るという案もあったのだが、移動を楽しんでみたいという私の我が儘に皆が付き合ってくれている。

 ロッテだけは家に転移させようと思っていたのだが、ロッテ自身に断られた。普段私があまり出歩かないので、必然的にロッテも出歩くことが少ないためか、私同様移動を楽しみにしていたらしい。「他の国に行けるなんて、一生無いと思っていました」と言っていた。普段引きこもりでごめん。

 家に転移出来る上に、必要な物も転移で用意できるので、後ろに続く荷物用の馬車の中は空箱が積まれている。体裁というものである。


 お昼は街と街の間だったので、うちの冷蔵庫から転移した肉や野菜でバーベキューをした。デザートはアイスクリームだ。皆「マジ旨い!」と叫んでいた。マジとか言うな。

 一行の周りにはフェンリルが結界を張っている。これ以上ない程安全な旅である。


 ひたすら街道を馬車で走り、小さな町や集落を眺め、大きな町も通り過ぎ、日が沈む頃、本日宿泊予定の街に到着した。この街の領主の館に宿泊するそうだ。







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