49 アレ
翌日、無人島に、契りしものとその契約者たち、直系王族が勢揃いした。
契りしものとその契約者たちは、王城に設けられた護衛隊の隊長室に集められ、一時的に設置された転移扉から転移してきたらしい。直系王族たちは直系王族だけが利用できる会議室から、同じように一時的に設置された転移扉から転移するそうだ。
隊長室や会議室には、何人たりとも入り込めないよう強固な結界が張られ、周りにはそれぞれ重要な会議をしているかに見せているそうだ。
先に到着していた契約者たちは、契りしものをそれぞれ元の姿で解放し、自由に島を散策させている。バンビが牡鹿のクッキーにちょっかいを出している。同じ鹿の姿だから気になるのだろうか。
力あるものは、最初は中性であり、姿も定まっていないらしい。そのうちに自分が望む姿となり、性別も決まるのだという。
ヴァイスは当初、まだ姿を決めたばかりで性別は決まっておらず、もういい加減成体になってもおかしくないはずなのに、未だ性別が定まらないらしい。
「なあ、お前魔力熱出た?」
「出た出た! お前も?」
「俺も! 恥ずかしくて黙ってたんだけど、お前たちもか。なんか安心した」
こそこそ話しているのは魔力特殊部隊の三人だ。そこに「実は俺も……」と参加してきたのが彼らの隊長のリッツさんだ。さらに海上隊長のテオさんも加わる。
「俺なんか、魔力抑えるのに苦労して、久しぶりに魔力隊の新人と一緒にルードルフ殿下に扱かれたよ」
「テオ、ルードルフの扱きなんか可愛いもんだぞ、フェンリルの扱きは心が折れる」
ジギスさんが加わって、わいのわいのと騒いでいる。実に楽しそうだ。
今回、契約者と直系王族には、私が渡り人であることを公表するのだそうだ。隠して守るより知らせて守る方が守りやすいからだという。
力あるものと契った契約者は、力あるものと一心同体となるため、最上位のフェンリルには逆らえなくなるそうだ。そのフェンリルは私には逆らえないので、「リーエ最強だな」とルドルフが言っていた。その私はルドルフに甘いので、実質最強なのはルドルフじゃないかと思う。
直系王族は成人した直系王族だけが施される極秘契約なるものがあるらしい。それがあるから王家の秘密が代々守られているのだという。そこに私のことが加わるらしい。
私は自分がそれ程の存在だとはどうしても思えないので、そこまでしなくてもと思ってしまう。
これより、私が渡り人だと知るのは、直系王族、ルドルフ一家とその唯一、力あるものとの契約者、ジークとロッテ、侍従長とツアさんとなる。この島の存在を知るのも同様だ。
王族一行が到着した。
とは言っても直系王族は、ルドルフ一家とおじいちゃんの弟、ヴァルさんのお兄さんと弟だけだ。
今回この集まりのために家を一棟、皆の前でルドルフが建てた。
湖の畔、我が家のほぼ真北に、新しい家が出現した。家の中は大きなワンルームとなっており、三十人ほどが座れる大きな円卓が部屋の中央に据えられていた。正面はガラス張りとなっており、湖から森を一望出来る。
「後で細かい部分は増やしますが、今日のところはこれで」
ルドルフのその一言に、突然の家の出現に驚きながらも皆が家に入り、それぞれ席に着く。この場にルドルフの伴侶である私がいることを、その半数が不思議に思っているようだが、目に疑問を浮かべながらも誰も何も言わない。
「早速ですが、時間も無いので本題です。
ルードルフの伴侶のリーエは、渡り人です。ですが今までの渡り人とは違い、初めから体を動かせ、話すことも可能、魔力も今までの渡り人とは違い、膨大です」
前置きもなくカールさんが皆を見渡しながら話し出す。ルドルフ一家とジギスさん以外は驚いている。
「現在、アベラールが渡り人の捜索を秘密裏に行っています。未だリーエだとは気付かれていませんが、知られればおそらく奪おうとするでしょう。
前回の渡り人は、その唯一を人質に捕られ、脅されて子作りを強要されています。その伴侶であった者も同様です。その時の子が、今のアベラールの王族や有力貴族となり力を持っています。
爺様の調べでは、アベラールには魔力を奪うことが出来るか、強制的に抑えることの出来る、枷のようなものが存在しているようです。それにより前回の渡り人が捕らわれたと思われます。
フェンリルに確認した限り、リーエとルードルフ、上位の力あるものたち、具体的には人型となるものたちですね、リーエとの血の契約により上位となったものも同様ですが、それらにはおそらくこの枷は無効だそうです。それ以外の者には有効だと思われます。
ああ、フェンリルはリーエの契りしものにして力あるものの最上位です」
カールさんが、現れたフェンリルを紹介する。ついで同時に現れたシュヴァルツも「ルードルフの契りしものでフェンリルに次ぐ上位です」と紹介する。
「それから、契約者たちはもう気が付いていると思いますが、力あるものたちは無詠唱で古代魔法を使います。渡り人であるリーエも同様です。ルードルフはリーエと伴侶になった時点で、リーエに次ぐ魔力を持ち、古代魔法も無詠唱で使えるようになりました。上位との契約者である、ジギスとリッツも今後使えるようになるとのことです」
「アベラールに知れたら、煩くなるな」
カールさんの言葉を聞いたジギスさんが、吐き捨てるように言う。
「アベラールはおそらくリーエを奪うためなら戦すら起こすぞ」
おじいちゃんが厳しい顔で言う。それに頷きながらカールさんが続ける。
「今回、リーエとフェンリルから、力あるものたちとの契約を知らされ、アベラールだけではなく、リーエを害する者に対抗しうる手段として、契約者たちは力あるものと契約したと心得てください。
此度の渡り人であるリーエは、力あるものたちから至宝の存在として扱われており、過去の渡り人とは別格の存在です。これを鑑みて、我が国でも同様に扱うこととなります。
依存はありますか?」
……特になかった。いいのか? それで。しかも至宝の存在って、初めて聞いた。私ごときが至宝とは、なんとも小っ恥ずかしい。
「リーエは、平時はルードルフの伴侶として扱い、戦時は最優先と心得よ」
ファルファラー国王の言葉に驚く。
国王自らの宣言である。思わずルドルフを見れば『大丈夫だ、そんなことにはならない』と頭に響く。
「我ら直系王族が害される事態となっても、魔力の大きいリーエやルードルフであれば、そこから逃れることも可能だろう。その時はルードルフが王位を継げばよい。
これよりルードルフの王位継承を最上位とする。此度に限り、ルードルフの子も直系王族とする。次期王位継承は、私の子とルードルフの子から選定されることとする」
これにはルドルフも驚いていた。ルドルフも聞いていなかったらしい。
「まあ、フェンリルたち力あるものがリーエの側にいる限り、大丈夫だろう」
「いざとなれば、私が叩きますよ」
ルドルフがいい笑顔で言い切った。カールさんは更にいい笑顔で頷いている。フェルさんが笑いながら「お前は本当にリーエに対してはアレだな」と言い、「ところでお前たち、魔力熱出たか?」と契約者たちに聞いていた。
……アレって何だ?
その後ルドルフとおじいちゃんは、おじいちゃんの弟とヴァルさんの兄弟に御披露目の時の嘘について責められていた。「残るは我ら三人だけなら、そのまま話せばよかろうに!」と怒られていた。その通りだと思う。
「ルードルフがアレなのは仕方ないが、父上までアレとはな」
そう呆れたようにヴァルさんのお兄さんがおじいちゃんに言う。
だから、アレって何?




