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46 ハリセン

 ルドルフが私の番になったことで、魔力が私に次ぐほど大きくなったばかりか、私と同じ体質にもなるらしい。つまり体液を摂取すると一時的に魔力が上がるという、微妙な体質だ。

 それを利用して、魔力がない長男と四男にも魔獣との契約をして貰うという。本人たちは喜んでいるとのことだが、こっそりルドルフの唾液入りの飲み物を与えられての契約となるらしい。うん、聞かなかったことにしよう。


 最近はロッテも、「私も私の魔獣が欲しい」と言い出した。どうやらティアさんがヴァイスを可愛がっているのを見て思ったらしい。ティアさんはただの子猫だと思っているだろうけど。

 これには夫のジークもルドルフも賛成しており、フェンリルに相談している。


 フェンリルたちのことは“力あるもの”と呼ばれることになった。ジギスさんが提案して、フェンリルがその定義を決めたらしい。

 実際に力あるものとされる存在はそう多くはなく、精々三十体くらいなのだそうだ。そのうち五体はフェンリルの、三体がシュヴァルツの眷属らしい。ユニコーンには眷属はいないそうだ。


 ルドルフの番としての力が安定次第、順次契約をしていくことが決まった。



「リーエ、アベラールに渡り人の事が知れているようだ。

 俺たちが出会った十日ほど後にアベラールの密偵が確認されている。人を探していたらしい。しかも探していたのは身動きの出来ない弱った人だそうだ。

 マックスの間諜からの報告なのだが、ジギスからも同様の報告が上がっている」


 仕事部屋に来るようジークさんが呼びに来て、そこで言われたのが絶対魔力主義国の密偵の話だった。


 仕事部屋には、ルドルフ、カールさん、マックス、ジギスさん、ジーク、そして私とロッテが揃っている。ジギスさんには私が渡り人であるとの説明はされているのだろうか。


「ジギスには先ほどリーエが渡り人であると話したところだ。魔力の大きさから予想はしていたそうだ」

「ジギスさん、今まで隠していてごめんなさい」


 私の思考を読んだルドルフから説明される。それを受けジギスさんに謝れば、ジギスさんが仰々しく跪き、口を開こうとしたその時に、カールさんの声が掛かる。


「ジギス、いつも通りで良いですよ」


 かくん、と前のめりに倒れそうになったジギスさんが、「折角格好付けようと思ったのに……」と言っていた。緊張感がなさすぎる。

 カールさんとジギスさん、妙に仲がいいと思ったら、ジギスさんの特殊能力を買っているカールさんが、外交には必ず同行させているらしい。

 ティアさんのお父さんの秘密が何故バレたのかが分かった。


「ここだと手狭だな、奥に行くか?」


 マックスが言えば、ルドルフがジギスさんを見ながら嫌そうな顔をする。


「ルードルフ、諦めなさい」


 カールさんに言われ、渋々ルドルフが皆をリビングに案内する。


 仕事部屋からリビングまではほんの僅かな距離なのに、「なんだここ!」、「なんだこれ!」、「お前らこんなところに住んでいるのか!」、「あんなところにレオがいる!」、「俺も住む!」等々、よく叫ぶジギスさんの後頭部に、ルドルフの手がすぱこーんと放たれた。ハリセン用意しようかな。

 ジギスさんの首に掛かる魔石からユニコーンがプチサイズで現れ、レオに駆け寄って頬擦りしている。


 それぞれが思い思いの場所に座ると、いつの間に用意していたのか、ロッテが紅茶を入れてくれた。


「爺様が言うには、前回の渡り人はアベラールに捕らわれ、まあいわゆる種を蒔きまくったそうだ。爺様がグラウと調べて分かったのだが、どうやら唯一を盾に取られ、逆らえなかったようだな」

「下衆の極みだな」


 思わずというように顔をしかめたマックスが言葉を漏らす。


 続くルドルフの説明によると、渡り人の子は男女あわあせて百を超えているそうだ。その百人はファルファラーの王族同様、唯一を持ち、天啓のような解る力も持つそうだ。それは血が濃いためにそれなりに強いらしく、それにより、渡り人が現れると解ったらしい。


「天啓のような解る力を、俺たちは理解力と呼んでいるが、渡り人であるリーエも使える」

「理解力とは、具体的に何が解るんだ?」


 ジギスさんの言葉に私が応える。


「私の場合ですが、この世界のこと、うーん、有り様とでも言うのでしょうか、そういうことを解ろうと思えば解ります」

「お前、よく頭平気だな」


 マックスの言葉にジギスも頷く。


「解ろうと思わなければ解りませんから、気にしなければ気にならないんです。解らないこともありますし、解ったからと言って特に普段の生活に役立つわけでもありませんし……便利なようで、無くても良さそうな力? でしょうか」


 私自身もこの力についてはよく分かっていないので、ちゃんと説明が出来ない。


「まあ、その力によって渡り人のことを知ったアベラールは、アルバの街を未だ張っているそうだ。つまりリーエのことはまだ漏れていない。

 いち早くこの家に隠れ住んだ甲斐があったようだな。あれより少しでも遅れていたら、危なかったかも知れない。リーエがいきなり家を建てたいと言ったときは、どうしたものかと思ったが、あの時俺も何故か好きにさせようと思えたんだよな。

 後になって思えば、無意識に解っていたのかもしれないな」

「なるほど、それが理解力というものですか」


 カールさんの一言に、ルドルフが「多分な」と頷いている。私も自分の事ながら、なるほどと思ってしまった。


「そこで、俺の力も安定してきたことだし、急いで父上と兄上、マックス、ロッテ、あとうちの特殊部隊に、力あるものとの契約を行おうと思っている。

 フェンリル、シュヴァルツ、準備は出来ているだろう」


 ルドルフがそう言うと、フェンリルとシュヴァルツが姿を現す。

 初対面のマックスが「なんだこの美形は!」と声を漏らした。さすがにジギスさんのように叫びはしない。そのジギスさんが「だろ?」と相槌を打っている。

 ジギスさんって、ルドルフ兄弟と妙に仲良しだな。性格かなぁ? 性格だろうなぁ。

 ルドルフがマックスにフェンリルたちを紹介している。


「上位が二体、契りを了承した。他の上位は我が主の子と契ると言い、今回は見送るそうだ。だが、力は貸す事と相成った。

 中位で契りを望むものは、近くに待機しておる。これは互いに合うものがあれば契るだろう。

 ヴァルと国王、マックスには力の大きさから下位となるが、我が主との血の契約で中位となるゆえ、互いの意思疎通は可能だ」


 フェンリルの説明に、マックスがわくわくした顔をしている。目もきらきらしている。


「カール、ヴァイスもそろそろ成体となるだろう。我が主との血の契約を為せ。さすればゴルト同様上位となる」

「丁度良い、マックスとロッテは今ここで契約するか?」


 ルドルフが聞けば、二人とも決意に満ちた顔で肯く。


「フェンリル、いいか?」

「良い」


 ルドルフの確認の声に答えるフェンリルから、『ロッテには我が主の体液を与えよ。上位が契約を望んでいる』と伝わってきた。


「マックス、ロッテ、魔力が小さいものでも契約しやすくなる薬がある。契約の前に飲め」


 ルドルフが言い、マックスとロッテをダイニングキッチンに連れて行く。私とジークも後に続き、こっそりジークにロッテのことを伝える。


「ロッテに黙って与えた方がいい? 私はちゃんと言った方がいいと思うんだけど……」

「リーエ様のお考えのままに。ロッテはリーエ様を信じておりますから、話されても大丈夫かと」


 こそっとロッテを呼び、フェンリルの言葉を伝える。ロッテは考えるまでもなく了承した。


 グラスに入ったオレンジジュースをルドルフがマックスに手渡す。私も同じようにロッテに渡す。うん、考えてはダメだ。ロッテも考えないようにしているのだろう、一気に仰いだ。いざとなると何も知らないマックスが羨ましい。

 口直しに紅茶を入れておく。せめてもの気持ちだ。







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