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 ユニコーンはやっぱりイケメンだった。輝くような白い髪に、紺色の瞳、フェンリルより低くシュヴァルツより高い背、そしてとても精悍だ。

 ジークさんが先ほどフェンリルたちに用意しておいたバスローブを着せている。

 フェンリルはユニコーンに「人型となった時には洋服を着た姿となるように!」と、強く指導している。


「我らが至宝にご挨拶を」


 そう言って、私に跪くユニコーン。


「至宝って?」

「リーエの美しさを讃えたのだろう」


 ルドルフが私の後ろから言う。

 美しさって……。お世辞過ぎて呆れる。残念ながら私は普通顔だ。なぜかフェンリルがユニコーンを睨んでいるような気がするのは、なんだろう?


「ユニコーンは長いから、ユニコって呼んでもいい?」


 そう言えば、ユニコーンは綺麗に微笑んでくれた。イケメンの笑顔が眩しい。

 後ろでジギスさんが、「俺もユニコって呼ぼう」と言っている。ジギスさんは名に対する思い入れとかないのだろうか。自分のことは棚に上げてそう思ってしまう。いや、私はセンスがないだけで思い入れはある。

 ルドルフが「普通顔で悪いな」と拗ねた。私も普通顔なのでお互い様だ。


 ロッテがラウンジに例のクラブハウスサンドを用意してくれていた。

 ラウンジを見たジギスさんが、「俺ここに住みたい!」と叫んでいる。ルドルフとジークさんはもはや聞こえないふりだ。

 案の定、クラブハウスサンドを口にしたジギスさんがまた叫ぶ。

 フェンリルとゴルトに、「レオが起きる!」と怒られていた。シュヴァルツも頷いている。


 このまま皆で打ち合わせをするらしい。私はロッテと共に家の中に戻る。

 テラス側のホールの一角に、フェンリルたちが作ったベビーベッドが置かれてる。結界まで施されているその中で、すやすやとお昼寝中のレオは天使のようにかわいい。


 ジギスさんへのお土産に、ロッテと一緒にクッキーを作る。レシピ本をチラ見しながら、ロッテにクッキーの作り方を教える。


 クッキーを作りながらチラ見している、このレシピ本。

 この家から出すと中の文字や写真が消える。レシピ本だけじゃなく、文字という文字は全て消える。クッキー缶に書かれた某老舗洋菓子店のロゴも消えた。

 そのクッキーの空き缶、長方形だったこともあって、今では書類入れとして王城でひそかに人気だそうだ。これほど薄く、軽く、丈夫な金属の箱は、どこの名工の手によるものかと噂になっているらしい。その噂を聞きつけた城下の職人が挙って真似、互いにその技を競い合っているそうで、次男がほくそ笑んでいるらしい。


 私にとっては必要な元の世界の文字は、この家の中では存在するが、この世界には本来必要ないものなので、この家を離れると消えてしまうようだ。このあたりは理解力でも曖昧で、多分私が無意識に何かしているのだろう、というのがルドルフの見解だ。ルドルフは、番う前には読めなかった文字が、番った後には読めるようになったと喜んでいた。



 お城の料理に関しては、皆から少しずつ小出しに、こんな風に作った料理が食べてみたい、などと何気ない会話の中で料理長本人やそれに繋がる人に言うことによって、料理長が自ら研究するよう仕向けているそうだ。料理長は料理馬鹿らしい。

 どうもひとつのことに熱中している人を、私は『〜馬鹿』と翻訳しているらしい。間違ってはいないが、どうなんだろうとは思う。自分からは使わないようにしているが、いつかぽろりと口からこぼれそうだ。


 さりげなく五男がスパイスを料理長に渡したりもしているらしい。おかげで随分王城の料理が美味しくなったと五男が言っていた。

 そう言えば婚儀の時に食べた昼食も普通に美味しかった。残念ながら晩餐会では、呆けていたせいで出された料理の記憶は全くないが、出席者からは絶賛されていたらしい。料理長は涙を流して喜んだそうだ。


 ロッテやジークさんを通じて、青の看板の宿屋にも情報をさりげなく流している。

 ジークさんの兄である三男も、お城の料理長同様料理馬鹿らしく、宿の経営の修行はそっちのけで、料理研究会なるものを開催しているそうだ。初めての市の日に食べた屋台で、塩味が付いたサンドイッチを提供していた人も参加しているらしい。

 おかげで今では青の看板の宿屋は大繁盛だそうだ。


 ロッテ曰く、今までの料理は素材の味を生かそうとするだけだったが、今は素材の味をさらに引き出したり、別の味を加えて変化をつけたものに少しずつ変わっているそうだ。例えば、甘いものや酸っぱいものは今までもあったが、甘酸っぱいものはなかったそうだ。時々出来のいい果物にその傾向はあったが、ここまではっきりとはしていなかったらしい。

 クッキー生地の上にマーマレードをのせながら話していた。


「このジャムだって、酸味のある果物を甘く煮るだけだなんて……。誰かが思いついても良さそうなんですけどねぇ」

「何でもそうだけど、きっかけだよね、きっと」


 ロッテは「そうですねぇ」と言って、スプーンに残ったマーマレードをぺろっと舐めていた。「おいしー」と嬉しそうだ。


「ねえ、このクッキー、売れるかな?」

「売れますよ!」

「だったらさ、誰かに依頼してみる?」

「そうですねぇ、でも誰でもいい訳ではありませんよね」

「だよね、その辺りが難しいよね」

「エル様やティア様にご相談されてみてはいかかです? きっと信用できる孤児院などご存じですよ」

「なるほど、孤児院かぁ。そうだね、今度会ったときに相談してみる」


 いつの間にか、ロッテがエルさんやティアさんを愛称で呼んでいる。ゴッドハンドは生粋の王族の愛称さえ許されるのか。恐るべし。


 クッキーを焼いている間にレオが起き、それを察知したフェンリルたちがプチサイズでやって来た。癒やされる。フェンリルを思いっきりなで回す。もっふもふだ。肉球を触ろうとしてまたもや阻止された。フェンリルは絶対に肉球を触らせてくれないどころか、見せてもくれない。いつかもきゅもきゅ触ってふがふが匂いを嗅いでやる!


「そういえば、ユニコはどうするの? ジギスさんと一緒にジギスさんちに行くの?」

「普段は魔石に宿るそうだ」


 クッキーの焼ける匂いにフェンリルの鼻がひくひくと動く。


「ジギスさんはこっちに来ないの?」

「ああ。ルドルフが言うには、うるさいから当分入れないそうだ」


 それを聞いたロッテが笑っている。ジギスさんの賑やかさには、家族も時々顔をしかめていると言う。


「だがルドルフはジギスといると楽しそうだな」

「そうだね、気心が知れてるって感じ」


 フェンリルは私と同じようにルドルフと呼ぶ。何度もルドルフに「ルードルフだ」と訂正されているが、知らん顔をしている。せっかくリーエだけが呼ぶ名だったのに……、と残念そうだ。


 クッキーが焼き上がった。いい色で焼けている。

 ロッテがはふはふと味見しながら、「これ、絶対に売れるわ!」と呟いている。フェンリルたちも摘まみ食いに参加している。

 粗熱が取れたクッキーを、ジギスさんへのお土産に半分包み、残りは皆で食べる。ロッテが紅茶の準備をしてくれている間に、ルドルフに休憩にするかを確認し、揃ってラウンジへ向かった。


 クッキーを食べたジギスさんは、やっぱり叫んでいた。うるさい。






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