L-06
ついにリーエを皆に見せる。本気で見せたくないな。
周りの目からリーエを隠すよう広間に向かい、扉の前で待ち構えるカールによって、その扉が開かれる。
俺と爺様は昨日のうちに打ち合わせてある。リーエの声を聞かせる事なかれ、だ。
俺はただひたすら、誰にもリーエを見せたくない、リーエの声を聞かせたくないという態度を貫く。まあこれに関しては本心なので問題はない。
爺様がリーエを養女にするに至る作り話は、なんとか追求されずに済んだ。魔石の色が決め手になったのだろう、これまでいかにして俺と爺様が隠してきたかの方に興味を持たれたようだ。
結局は、唯一の存在とはこういうものだ、の一言に尽きた。皆経験してきたことだ。
通過儀礼的なリーエの御披露目が終わり、執務室に戻れば、今度はカールと爺様のお強請りだ。爺様が態とらしすぎる。リーエに強請るな。
執務室から家に戻れば、ジークの契約魔獣が待ち構えており、ジークが無事に契約を終える。
フェンリルから、リーエの血を与えれば魔獣の位を上げることが出来ると聞く。フェンリルが望むと言うことは、リーエを守ることに繋がる。ならば俺に異存はない。リーエの指を傷つけたくはないが、背に腹は替えられん。フェンリルが抜かりなくリーエの指を治癒していた。
位が上がり人型を取ることが出来るようになったジークの魔獣はゴルトと名付けられ、リーエは呼びやすい名前だと喜んでいる。
そう言えば、リーエが名をちゃんと口にするのはフェンリルだけだ。何かあるのだろうか……。
ああ、リーエは名を縛ってしまうのか。名が呼び難いのではなく、呼びたくないのか。無意識に自分に縛り付けないよう愛称で呼ぶのか。フェンリルは既に縛られているから呼べるのか。ゴルトは既にジークに縛られているから呼んでも平気なのか。なるほどな。
俺が考えている間に、なにやらジークとロッテ、ゴルトと一緒にリーエが騒いでいる。リーエ、ゴルトにくっつくな。フェンリルと一緒にゴルトを引き剥がす。
フェンリルとシュヴァルツに結界についての許可を求められる。
今はフェンリルとシュヴァルツのそれぞれが結界を張っている。あえて二重にすることで、どちらかに何かがあっても解けることがないと言う。それは心強い。
一度結界の外から見たことがあるのだが、ここに家があるなんて全く分からなかった。
家にも結界を施したいとシュヴァルツが言うので、ならばそれは古代魔法でと頼んでみた。俺の練習にもなる。
リーエと繋がったことで俺も無詠唱で魔法が使えるようになっていた。
なんてことない、魔法は想像力だ。リーエの知識を持ってすれば、なんてことのない簡単なことだった。想像力さえあれば誰でも無詠唱となるはずだが、すでに詠唱が根付いているこの世界では難しいだろう。これから産まれてくる、詠唱の知識のない子供たちなら可能かも知れない。
俺もテレビや映画を見たり、ゲームをしてみたいものだ。これらの存在のおかげで想像することが簡単になっている。それなのにリーエの世界には魔法がない。おかしなものだ。
「そうだ。リーエ、敷地内にジークたちの家を建ててもいいか?」
俺の魔力を試すためにも、リーエと同じように家を建てて、この溢れそうな魔力を一度発散しておきたい。
ジークも同じようなことを感じているようだ。ジークは中ほどだった魔力が一気に特大まで膨れている為か、なかなか辛そうだ。魔力熱が出るかも知れないと恥じている。
その様子を見て、七日も寝込んだリーエが落ち込んでいる。あの七日間のリーエは本当に可愛かった。頭を撫でてやる。
ジークたちの家を建てるにあたり、ジークが俺に黙ってこっそり養子に出した子を引き取るよう言う。俺もリーエもそんなことは望んでない。ジークの子は将来俺の子と共に育つだろう。俺がジギスやジークたちと育ったように。
翌日、ジークたちの家を建てようと張り切って目覚めたら、俺の家族がまたわらわらと転移扉から出てきた。そうだった、忘れていた。リーエが皆を適当にあしらっている。
このリーエのあしらい方が妙に面白い。多分皆気付いてきて、わざとあしらわれようとしている。
そんな奴らは放っておいて、ジークの家だ。
爺様がなぜかリーエにまとわりついている。邪魔だ。リーエは俺のだ!
ジークとどの辺りにするかを話していると、爺様とロッテが口を挟んできた。ロッテは分かるが爺様は余計だ。結局リーエの家から離れすぎず、近すぎずの辺りに決まる。
ジークがゴルトを呼んで、ロッテと共に繋がり、それにリーエを介して俺が繋がる。
魔力を使うときに詠唱してしまうのは癖だな。途中でそれに気付いて詠唱をやめた。
伝わってくる意識をそのまま再現するよう魔力を込めれば、俺の魔力が一気に放出され、渦巻き、徐々に拡がり、目前まで拡がったところで、家が出現した。思った以上に可愛いらしい家だ。
リーエに促され、ジークとロッテ、それに爺様が続いて家の中に消えた。
「ルー! スゴイね!」
リーエが振り返りながらきらきらした目で俺を見つめる。
初めてじゃないだろうか、リーエにこんな風に褒められたのは。感極まって思わずリーエに口づける。
魔力のせいにしながら、再び口を塞ぎ、リーエの甘い唇を堪能する。舌で擦り、舌を絡め、唾液を啜り、唇を食み、また舌で擽る。
リーエの口から漏れる水音や、リーエの喉から漏れる堪えたような声に我慢出来なくなる。このまま襲ってしまいそうだと思っていたら、フェンリルに引き剥がされた。助かった……。助かったが色々収まりが付かん。
そのままリーエを抱え上げて家に向かう。
ジークとロッテには、引き続き自分の家を整えておくよう、爺様には皆を連れて帰るよう言う。
爺様が大笑いしているがそれどころではない。
玄関に入った瞬間、リーエの部屋に転移し、リーエをベッドに押し倒し、リーエをがつがつと貪った。
リーエを明るいうちから堪能するのはいいものだ。
しみじみと考えていたら、呆れたフェンリルの声が頭に響く。どうやらカールの魔獣が到着したようだ。
リーエと共に階下へと顔を出せば、にやけた顔の爺様とカールがいる。……いたのか。
二人にジークの契約時のことを説明する。途中リーエの不安を感じ、いつものようなささやきを送っておけば、リーエの顔の強ばりが解れる。リーエは両親を亡くしている。一人になるのを酷く恐れるのはそのせいだ。
屋外で待っていたカールの契約魔獣を家の中に招けば、フェンリルから、この魔獣には精霊の力が僅かばかりあることと精霊についてを思念で説明される。精霊云々については後で詳しく知るとして、フェンリルが認めているなら大丈夫だろう。
そんな俺たちの横でじっと自分の契約魔獣を観察していたカールが、意を決したように契約を始める。
ヴァイスと名付けられた、リーエほどの大きさだった白豹は、子猫ほどの大きさに変わり、リーエを威嚇してフェンリルに凄まれていた。
その後フェンリルたち上位体の魔獣は魔石に宿ることも出来ると聞き、カールと専用の装身具について話し合う。自分の契約魔獣は自分の魔石に宿らせればいい。
更にリーエと血の契約をしてリーエと繋がる魔獣たちは、互いの魔石間を行き来出来ると聞く。その数だけ魔石が必要になる。
俺たちは両耳に魔石があるため、自分の魔獣と予備がもう一つ出来るが、カールは一粒の魔石を指輪にしているだけなので、予備の魔石は首飾りとするらしい。今後のことも考えて魔石の取り外しが出来る首飾りを用意しておくことにする。
皆が引き上げた後、リビングでリーエと寛ぐ。久しぶりの二人っきりだ。
小さくなったゴルトを見て、「魔獣とは思えない」とリーエが言う。「フェンリルたちは魔獣とは違う存在ではないか」とも言う。そうだろうな、明確な意思を持ち思考する者を獣とは言えない。フェンリルは力あるものと言っていた。魔の力があるものか……。ジギスに早く話したいところだ。ジギスは俺以上に魔力馬鹿だからな。
もぞもぞと体の位置をずらし、俺の膝の上に頭をのせて落ち着くリーエがいる。その頭の位置が卑猥だ。俺の思考も卑猥だ。……リーエに伝わる前に真面目なことを考えねば。
リーエに婚儀について説明する。
兄上は国王なのでもとより、カールは相手が王族だったと言うこともあって国を挙げての婚儀となったが、マックスは国内の娘だったこともあり、自分たちが好んで小規模の婚儀とした。ジルは信官長との立場上、それなりの規模の婚儀となるが、俺はマックス同様小規模でいい。リーエも特に華々しい婚儀を望んでいないようなので、マックスより更に小規模にしたいと考えている。
リーエに課せられる行事を話し、全ての受け答えは俺がすると言えば、いいの? と言う顔で見上げてくる。閉じ込めてしまいたくなる可愛さだ。
眠そうなリーエを抱えて寝台に運び、リーエが寝ている間にフェンリルとシュヴァルツに魔力の特訓を受ける。フェンリルの扱きに心が折れそうになるが、ひたすらリーエを想って扱きに耐える。フェンリルは絶対にドSだ。最近リーエの知識に感化されてきたな、俺。
ジークたちが子を連れ戻って来た。ジークの姉夫妻はあえて子の籍を移さず、ジークの子のまま育てようとしてくれていたそうだ。ジークの家族らしい。後日俺も礼をしよう。
ジークの子はレオンハルトという名だそうで、ジークが散々悩んでいた愛称は、ロッテによってあっさりとレオに決まった。
ジークはロッテに弱い。惚れた弱みだ。俺もリーエに弱い。惚れた弱みだ。




