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L-05

 小さく俺を呼ぶ声が聞こえた。リーエが目を覚ましたのだろうか。身じろぐリーエにいつものようにささやけば、眠ったのか動かなくなる。


「ルドルフは、私の唯一」


 なんと言った?

 慌てて身を起こせば、意思の籠もった瞳でしっかりと俺を見返すリーエがいる。


「リーエ、今、俺が、俺が唯一だと言ったか?」


 請うように聞き返せば、信じられない答えが返ってくる。


「ルドルフは私の唯一。今まで守ってくれてありがとう」


 ああ、そうだ、リーエは俺の唯一。俺だけの唯一。

 リーエの口を塞ぎ、その思いを吐き出す。


 ああ、漸く、漸く本当に、俺のものになる。

 ゆっくりリーエの体に手のひらを這わせ、ゆっくりリーエの肌を晒す。

 リーエの体中に唇を落とし、時に含み、時に転がし、時に甘く噛み、時に吸い上げる。

 リーエから漏れる全ての音が俺を煽る。

 ゆっくりリーエとひとつになり、ゆっくりリーエを揺さぶれば、互いの口から幸せの溜息がこぼれる。



 眠りについたリーエを感慨深く眺めていると、呼ばれたような気がする。

 リーエの起きる気配がないことを確認して部屋を出ると、そこにはフェンリルが待ち構えており、「話しておくべき事がある」とテラスへと誘われた。


「汝は我が主の番となるものである」


 テラスに着いた途端、フェンリルが唐突に話し出した。


「我が主は我と同じよう長き時を生きる。番となれば汝も我が主と同じ時を生きることとなる」


 フェンリルがゆっくりと話を続ける。俺はテラスにある椅子に座る。


「我が主はこの世を統べるものだ。我が主が望むなら、この世の全てのものが跪くであろう。我が主とはそのような存在だ。

 その横に並び立つのが番となる汝だ。我ではないのが惜しいがな」

「リーエはそのことを知っているのか?」

「いや、まだ気付いておらぬ。気付きたくないのやも知れぬ」


 遠くを見るように目を細めながらフェンリルが言う。


「汝ら人の生は短い。

 我ら力あるものと契れば、その生が我らにとっては僅かであるが、人にとってはその倍ほどに延びる。我が主は我をも超える存在ゆえ、我以上の長きを生きることとなる。その番となる汝も人という存在ではなくなる。その覚悟はあるか」

「愚問だな」


「そうだろうな」とフェンリルが目元を和らげ、更に続けた。


「我が主は、この世の至宝である。我ら力あるものは本能にてそれを感ずる。それ故我が主には害を為さない。だが、汝ら人の欲は深い。性根の良き者は無条件で我が主を受け入れる。だがそうでない者は……。いずれ我が主を害そうとする愚か者が出るやも知れぬ」


 フェンリルが憤りながら、俺の正面の椅子に乱暴に腰を下ろし、溜息を一つ零す。


「我が主の体はいかなる者にも害せぬ。だが心はそうではない。だからこそ番を求める。汝が我が主の番となれば、我が主に次ぐ力を持つこととなる。我が使う力も、我が主が使う力も、汝は扱えるようになるだろう」


 リーエとはそれほどの存在なのか。俺にとっても至宝である。誰にも奪わせない。たとえフェンリルであってもそれは譲れない絶対の俺の理だ。


「しばらくは訓練のし直しだな」

「我が鍛えてやろうぞ」

「シュヴァルツに頼むよ。フェンリルだと手加減しないだろう」

「手加減などして何が訓練か」


 フェンリルが笑う。いつの間にかシュヴァルツも側にいた。


「我が主の心を守るため、我が主が心を寄せるものを守らねばならぬ。我らのような力あるものと契りを交わす事の出来る信なるものを集めるが良い。我らと契る者は我が主を裏切ることはない」

「なるほどな。……それ、他の者には言うなよ」

「分かった」



「おはよう、ルドルフ」

「ああ、おはよう、リーエ」


 恥ずかしそうな様子のリーエを見て、昨夜の俺とのことを憶えていると分かる。

 ああ、ちゃんと憶えている! この恥ずかしそうな顔が朝から見られるとは。

 リーエが真っ赤な顔でなにやら呟いている。耳を澄ませば「私から誘うとか……」と言っている。ああ、魔力熱を出したときのことを思い出したのか! あの時のリーエの可愛さと妖艶さと言ったら。「俺は嬉しかったがな」と思わず言えば、リーエが更に真っ赤になった。可愛いなぁ、本当。


「普通顔のはずのルドルフが格好良く見えるなんて……」

「悪かったな、普通顔で」


 よからぬ事まで考えていたらしい。

 確かに俺は普通顔だ。長兄のような思慮深さも、次兄のようなきらきらしさも、マックスのような男らしさも、ジルのような愛嬌の良さもない。

 俺にとってリーエは、この世で一番可愛いし綺麗だが……俺は普通顔か。俺もうっかり呟いていたらしい。リーエが照れながら「小っ恥ずかしいことも、甘酸っぱいことも、しばらく禁止!」と可愛いことを言って、朝食の支度をしに部屋を出て行った。その言い方に思わず笑う。可愛いなぁ、本当。



 朝食の席でリーエに求婚すれば、涙を浮かべた可愛らしい顔で、俺の求婚を受け入れてくれた。


 リーエに番となる誓いの口づけをする。

 その瞬間、リーエの魔力と俺の魔力が共に互いを包み込み、渦を巻くように混ざり、その混ざり合った魔力に包まれる。驚いていると、同じように驚いているリーエが誓いの口づけを返してきた瞬間、混ざり合った魔力が互いの体に吸い込まれていった。

 フェンリルとシュヴァルツが、無事番えたことを喜んでいる。


 番となった途端、リーエと繋がっていることが分かった。

 リーエの持つ知識が流れ込んでくるも、意識して一旦それを止め、後でゆっくり精査することにする。同時にシュヴァルツだけではなく、フェンリルとも繋がっていることが分かる。「すごい」と無邪気に喜ぶリーエが可愛い。フェンリルたちも守りが万全になると喜んでいた。


 リーエから『こんな私でいいのだろうか』という、声のような感情のようなものが伝わってくる。リーエに、「大丈夫だ」と声を掛けると驚いていた。これが繋がると言うことか……。初めての感覚に戸惑う。

 リーエはなにをそんなに悩んでいるのか。『大丈夫だ』『俺にはリーエが必要だ』『俺にはリーエだけが必要なんだ』と伝えてみれば、リーエにもちゃんと伝わったようだ。これは便利だが、リーエに対するよこしまな欲望まで伝わりそうだ。気をつけねば。特に寝台では。



 リーエと番になった喜びをかみしめながら執務室に顔を出すと、カールハインツが待ち構えていた。


「にやけてますよ。漸くリーエに婚儀を了承されましたか」


 人の顔を見て、一言目に言う言葉じゃない。おまけにどうして分かったんだ?

 待ち構えていたカールによると、リーエの登城が急遽決まったらしい。リーエを養女にするつもりの爺様が早く会わせろと焦れたそうだ。爺様め。


「婚儀を了承されたのは丁度良かったですね」


 にやけたカールが言うには、爺様に会わせるついでに、直系王族へのリーエの御披露目もしてしまおうと手配していたらしい。


 急ぎジークの嫁さんを呼び寄せ、リーエに合わせる手はずを整え、リーエに会わせる。

 そうだ、ジークの嫁さんはロッテローレという名だったな。すっかり忘れていた。一緒に食事を取り、ラウンジをジークたちの控えの間とする。

「気が合いそうか」とリーエに聞けば、「あの可愛らしさを嫌う人などいる訳がない」と返ってきた。

 確かジークが口説きに口説いて漸く落としたと言っていたな。確かにかわいらしい人だが、まあ、リーエほどじゃない。

 その可愛いリーエに、「明日はリーエも登城だ」と告げると、きょとんとしていた。可愛いな。ああもう本当に可愛い。これは俺のだ。誰にもやらん。



 リーエの初登城だ。

 リーエの部屋の扉を開ければ、俺が用意させたドレス姿のリーエがいた。その姿に目が眩む。綺麗だ。ドレスも似合っている。この色にして良かった。


 用意した魔石をリーエに渡せば、目を見開き「俺の色だ」と言う。リーエの首や耳にそれらを飾れば、くすぐったそうに身をよじる。思わず首に吸い付きそうになった。

 リーエに魔石の説明をする。短時間でここまで鮮やかな色になったのは、リーエの魔力のおかげだと伝え、リーエにも魔石を渡せば、一瞬でその色に染まる。通常ここまでの色に染まるには五巡りは掛かる。それが一瞬だ。リーエの魔力の大きさを改めて思う。 

 互いにこれだけの色に染まっているなら、出会った時期を勝手に勘違いしてくれるだろう。万が一渡り人が現れていることに勘付かれても、それとリーエを結びつける要素をこれで減らせる。


 リーエを伴い執務室に転移すると、早速爺様がやって来た。まさか扉の前で待ち構えていたんじゃないだろうな。爺様ならやりかねん。

 爺様がふざけた挨拶をしている。リーエもそれに乗るんじゃない。おじいちゃんなどと呼ばなくて良い!

 養女にして貰うことに対してだろう、リーエが爺様に深く頭を下げる。俺が頭を上げるよう言っても聞かず、爺様が頭を上げるよう言えば、漸く頭を上げた。

 爺様が「何があっても守る」と誓えば、リーエが涙ぐむ。泣かせるなよ、爺様!


 養子縁組の書類にサインをし終わったところで、マックスとジルがやって来た。

 リーエにそれぞれ自分の要求を突き付けている。お前たち何しに来たんだ。お強請りか。

 話しの流れで、リーエはなんと十六年も学んだと言う。学者だったのか? と思えば、そうではないらしい。だが、番った後に流れ込んできたリーエの知識は多岐にわたる。専門知識としては浅いものが多いが、あらゆる事を満遍なく学んでいたようだ。

 俺のリーエは賢い。賢いのに時々抜けていて、時々鈍い。そこがまた可愛いのだ。あー、誰にも見せたくない。






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