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41 披露宴

 披露宴の会場は、魔力隊の本部がある建物のホールで行われるらしい。


 一度家に戻り、御披露目の時に着ていたドレスに着替える。

 新たなドレスを作ろうとしていたのを断り、ドレスを使い回すことにした。そう何度も着る機会がないので、わざわざ作るのは申し訳ない上に、もったいない。魔力で色を変えたりデザインを変えられるので、それでいいことにして貰った。

 王族が同じものを着るのは色々都合が悪いらしい。ならば同じに見えなければ良いという理屈だ。

 昨日のうちにその色を魔力で鮮やかな青へと変えておいた。元々シンプルなドレスだったので、色が変わるだけで別のドレスに見えるとロッテが感心している。調子に乗って裾にいくにつれ色が濃くなるようグラデーションにしてある。これがロッテに大受けだ。すごいすごいと感心している。

 ついでに手持ちの服も色違いにしておいた。

 ルドルフもいつの間にか、いつものローブ姿に戻っている。


 昨日ルドルフとまったりしている間に作った、大量のクッキーも忘れずに持った。

 準備期間が少ない中での披露宴の開催に、何かお返しが出来ないかと思ったのだ。思ったのだが、私が作れるのはクッキーくらいなので、ルドルフに手伝って貰いながら作ってみたのだ。味はまあ、悪くはないはずだ。


 魔力隊本部のルドルフの部屋に直接転移する。

 待ち構えていたジギスさんにクッキーを渡すと喜んで貰えた。よかった。

 ジギスさんは一つつまみ食いをして、「旨い!」と叫んでいる。この世界では私の作った微妙なクッキーでも美味しい評価をして貰える。いい世界だ。


「これ、少し子供に持って帰ってもいいか?」

「大量に作ったので大丈夫ですよ」

「これ、リーエ様が作ったのか!」

「俺も手伝った」


 ルドルフの言葉はさらっと無視して、広げたハンカチにそっと子供の数だけ取り分けている。ジギスさんはいいパパさんだ。


「あまり上手ではないのですが、また作ってきますね」

「ぜひ!」


 クッキーの入った袋を抱えたジギスさんに連れられて、会場に向かう。


「今日は、特殊部隊と大隊長、中隊長、小隊長の隊長職のみの参加となっています。

 なっているんですが、外に隊員が集まっているんですよねぇ。ルードルフ殿下の花嫁を一目見ようという輩が。散らしても散らしてもどこからともなく湧いてくるんですよ、やつら」

「挨拶した方がいい?」

「いやいい。あいつらには見せん」

「そうそう、あいつらにはこのクッキーは渡さん!」


 ジギスさん、そんなに気に入ってくれたんだ。

 会場に着いても、クッキーの袋を抱えたままのジギスさんから、ルドルフが強引にそれをもぎ取り、ジークさんに渡していた。


「ルードルフ殿下、リーエ殿下、おめでとうございます」


 会場に入ると揃って声を掛けられた。

 ルドルフが片手をあげ、「ありがとう」と答えている。

 立食形式なのだろう、丸いいくつかのテーブルの上に白いテーブルクロスが掛けられ、出来たての料理が並んでいる。椅子は壁際に並べられており、元は食堂なのだろうか、カウンターの向こうに厨房のようなスペースがある。


「あー、俺の伴侶のリーエだ」

「初めまして、リーエです。よろしくお願いします」

「よろしくしなくて良い」


 どかっと笑い声が上がる。なんだか皆砕けた感じでルドルフに声を掛けている。

 魔力隊は実力主義なところがあるので、身分を気にしない人が多いらしい。なるほど。ルドルフが王族っぽくないのはこういうところからか。


 魔力隊は特殊部隊とその魔力の大きさによって三つに分かれた部隊があるらしい。それぞれに大隊長、大隊長の下に中隊長、中隊長の下に小隊長がいる。それらを纏めるのが、ルドルフと補佐のジギスさんなのだそうだ。魔力隊に限っては女性の隊員もいて、女性だけの小隊がふたつあると言う。


「ん? だったら私も魔力隊に入ればお金稼げたよね」

「そうかもな」

「どうして教えてくれなかったの?」

「教えたくなかったからだ」

「なにそれ、もう」


 ルドルフと小声で話していたら、その小隊長であろう女性隊員の一人に睨まれているかのような、鋭い目線に気付いた。


「ああ、あれはルードルフに懸想していたからな」


 こそっとジギスさんが教えてくれた。ふーん、ルドルフの元カノか、と考えていたら、『違う! そんなわけない』とルドルフが頭の中で喚いている。うるさい。


「ここの王族は伴侶の身分を問わないからな。期待する者も多いんだ。ま、ここは後宮もないし、伴侶以外に目を移す王族はいないからな。そのうち諦めるだろう」


 ジギスさんがクッキーをほおばりながらのんきなことを言っている。女の嫉妬は怖いんだぞ。



 そんなことを思っていたからだろうか、突然、ばん! と会場の扉が開き、真っ赤なマーメイドドレスを着た女性が入ってきた。


『アベラールの第五王女だ。リーエ後ろに下がれ』


 ルドルフが伝えてくる。フェンリルが姿を消したまま私の横に立つ。

 もしや来るかな、なんて面白半分に思っていたら本当に来た。何だろうこの用意されたような状況は。ちょっとわくわくしてしまう。


「ルードルフ殿下、ご機嫌よう。

 この度は大変嘆かわしいことですわね。無理矢理そのような娘と婚姻させられるなど」

「アベラール第五王女殿下、お久しぶりです。招かれてもいない披露宴への参加はご遠慮ください」


 蔑んだ目で私を見る王女様に、ルドルフが無表情で言う。

 それを受けて王女様が、「おほほほほ……」と少し仰け反るように笑った。

 これぞ王女様というセリフと笑い方に、思わず見入ってしまう。なんだろうこの絵に描いたような人は。エルさんの妹とは思えない。どうしよう、面白すぎる。口元がひくつく。ヤバい。笑いそうだ。


 要するに、自分の身分の高さと、自分の魔力の大きさと、自分の優れた容姿は、王弟であり、魔力の大きなルドルフにふさわしく、どこの馬の骨とも知れぬ、魔力もあるのかないのか解らない程度の、残念すぎる容姿の私はふさわしくない、ということを回りくどく、合間合間に自分の自慢と私への蔑みを織り交ぜて主張している。


 元の世界で同じ事を身近な女性に言われたら、傷ついて立ち直れないかも知れない。だが、現実味が乏しいこの世界で、真っ赤なドレスを着てふんぞり返っている王女様のセリフだ。しかも高笑いのおまけ付き。

 まるで目の前で繰り広げられる寸劇、もしくはコントを見ているようで、到底自分が当事者だとは思えない。言われたセリフが頭の上を滑っているような気さえする。にやにやしてしまわないよう、取り繕うのが精一杯だ。肩が揺れるのは見逃して欲しい。


 ルドルフが、「自ら選んだ伴侶だ」と言っても聞こうとせず、「騙されているだけですわ」と主張する。なかなか面倒くさい性格のようだ。見ている分には面白いけど。

 顔を歪め、肩をふるわす私の様子をみた王女様は、満足そうにふふんと更にふんぞり返り、ゆっさりと胸を揺らす。確かに美人だしスタイルも抜群だ。特に胸は羨ましい。そこは認める。

 その王女様からは、王弟であり魔力の大きいルドルフが必要だとはうんざりするほど伝わってくるが、ルドルフ自身が必要だとは全く伝わってこない。


 さらに回りくどく私の罵りを続けようとする王女様の言葉を遮るように、ルドルフの声が被る。


「いいえ、騙されてなどおりません。私が彼女に夢中なのです」

「そのような戯れ……」

「ではその証拠をご覧に入れましょう」


 ルドルフは再度王女の言葉を遮りそう言うと、くいっと私を抱き込み、むちゅっと口を塞いだ。

 ルドルフから王女様への怒りが伝わってくる。現実味の無い私とは違って、ルドルフにとっては我慢ならない現実らしい。口を塞がれ、舌を絡められる。

 そんなに怒らなくてもいいのに。私は気にしないよ。むしろ面白かったよ。怒りながらキスされても嬉しくないよ、ルドルフ。


「……すまん」


 抱き込まれたまま、体をほんの少しだけ離して謝るルドルフの目がしょぼんとしている。


「殿下! べた惚れだな!」

「見たか! あの殿下が!」

「なんだよ! あの卑猥な接吻! 俺もしてー!」

「殿下も男だったんだなぁ」


 魔力隊からのヤジに、我に返る。

 王女様が開け放ったままの扉の向こうからは、大勢の野次馬が、「うおーっ!」と叫んでいる。

 うわー。人前でちゅーとかないわ……。恥ずかしすぎる。思わずルドルフの背後に隠れようとしてしまう。


「な、な、なん、なんて、なんてこと……」


 王女様がわなわなしている。本当だよ、人前でなんてことしてくれるんだ! ルドルフ。

 漸く王女殿下のお付きの人がやって来て、王女殿下を回収していった。その中にエルさんの女官長の姿が見えたような気がした。エルさん、ありがとう。


「と言う訳で、べた惚れなんでな、お前たち、俺のリーエに近づくなよ」


 ルドルフが言うと、会場の中も外も、「うおーっ!」と盛り上がった。

 ジギスさんが呆れたように笑っていた。フェンリルもいつの間にか魔石に戻っている。


 それにしてもあの王女様、面白すぎる。怒りでわなわな震える人なんて、そうはお目にかかれない。ぜひお友達……は面倒くさそうなので、知り合いくらいにはなってみたい。なるべく近くで、第三者として観察してみたい。きっと毎日楽しいだろうな……。思わず黒いことを考えてしまった。

 きっと王女様には王女様なりの何かがあるのだろう。



 集う彼らにとっては、またとない面白イベントが発生したこともあってか、なかなかに楽しい披露宴となった。ルドルフは事あるごとにからかわれ、その度に恥ずかしい思いをしたのは横にいる私だった。ルドルフはしれっとしている。


 たまたまクッキーを摘まんだ一人が、「なんだこれ! 旨い!」と大声で叫べば、「リーエ様が我々のために手ずから作ってくださった、クッキーという甘味だ。心して食え!」とすかさずジギスさんが更に大声で叫び、一列に隊員を並ばせていた。

 一度食べた者が再度列に並び、クッキーがなくなるまで輪のように人が連なり、おかしな行列が出来ていた。先ほど睨んでいたはずの女性隊員の目もクッキーを口にする度に柔らかくなっていき、甘味の力ってすごい! と思ってしまった。

 さっきの王女様にも一枚あげれば良かったかも?






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