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37 特殊能力

 婚儀まで十日と迫ったお昼前。

 テラスのガーデンチェアでロッテと共に、日向ぼっこをしているプチサイズたちを見ながら休憩していると、ルドルフが顔を出す。


「リーエ、ジギスヴァルトに会ったことあるか?」

「ん? ルーの補佐の?」

「そうだ」

「会ったこと……あれ? あったっけ?」

「……すまんが執務室まで来て貰えるか?」

「分かった。ロッテは残ってて。お昼の用意お願いしていい?」

「畏まりました。いってらっしゃいませ」


 ルドルフが言うには、いつまで経っても私を紹介してくれないと、ジギスさんが拗ねているらしい。


「すっかり紹介した気でいたんだが……」

「うん、会ったことがある気でいた」

「だよな」


 よく話に出てくるので、そんな気が互いにしていたが、実際には会ったことがなかった。

 婚儀を十日後に控え、ついにジギスさんが訴えてきたらしい。自分にはいつになったら紹介してくれるのかと。


 執務室に転移すると、ジギスさんが待ち構えていた。

 後ろでジークさんが苦笑いしている。ちなみにジギスさん、ジークさんとそっくりだ。会った気がするのもあながち間違ってはいない。


「お初にお目に掛かります。私、魔力長補佐のジギスヴァルトにございます。ジギスとお呼びください」


 ……すでにジギスさんと呼んでいたりするのだが。まあいいか。


「初めまして、リーエです。ジークのお兄さんですよね」


 私がそう言うと、ジギスさんがルドルフ思いっきり睨んで、くわーっと喚いた。


「だから言ったじゃないか! 俺がジークの兄だと? ジークがジギスの弟じゃないんだぞ! ルードルフ!」

「悪かったよ、とっくに紹介した気でいたんだよ」


 私が、ジークのお兄さん、って言ったのが気に障ったのだろうか。どうしようかと思っていると、ジークさんがこそっと言う。


「お気にされませぬよう。

 あれは兄の八つ当たりです。いつも私がジギスヴァルトの弟だと言われていたのに、今回はリーエ様が逆を言ったので、悔しがっているだけです。自分が私より後にリーエ様にお目にかかったのが悔しいのですよ、あの馬鹿兄は」

「えー、お兄ちゃんなのに……」

「お兄ちゃんなのになぁ」


 いつのまにか私たちの会話が聞こえていたようで、最後はルドルフにからかわれていた。


「この度は、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 急にきりりと立ち直ったジギスさんから、お祝いの言葉を貰った。


「つきましては、晩餐会後の披露宴につきまして、詳細をご説明させて頂きます」

「披露宴? 晩餐会とは別なの?」


 ルドルフに聞けば、晩餐会は王族や各国の賓客のみの参加、披露宴はルドルフが親しい人たちを招いて開催するらしい。

 当初ルドルフは披露宴を行うつもりはなかったらしいのだが、さすがにそれは許されなかったらしく、規模を抑えて行うこととなったらしい。

 その主催がジギスさんたち魔力隊の上層部だそうだ。つまり魔力隊への御披露目パーティーだろうか。

 同じ日に五男も婚儀を執り行うため、信官たちとの披露宴対決が水面下で発生しているらしい。


「……対決とか、正直どうでもいいかも」

「だよな。聞いたか? ジギス」

「そうは言ってもだなぁ、メンツってもんがあるだろう」


 ルドルフと話すときはジギスさんの言葉が砕ける。


「私にもその調子で話してください。敬称もいりません」

「ジークの言っていた通りですね。では内々では遠慮なく」


 ジギスさんがにやりと笑った。思わずジークさんを見れば苦笑いしている。


「あまり調子に乗るなよ」


 ルドルフに釘を刺されていた。仲良しだな。


「ルドルフはどのくらいの人数を想定してるの?」

「そうだな、魔力隊を中心に考えるなら三十人ほどだろうか」

「そういう訳にはいかんだろう。お前、一応王族だろ」


 一応って、ジギスさん。確かにルドルフは王族らしくはないけど……。


「そういうのはジルベスターの方に任せてるんだよ。あいつは信官長だからな。俺と違って立場的に内外の主要各所に招待状をばらまかねばならんと頭を抱えていたぞ」

「お、ならば面倒な奴らは皆そっちに行くか。だったらこっちはむしろ仲間内だけにした方がいいな」

「だろ? だから小規模でいいんだよ。だいたいあっちは二節以上前から準備しているんだ。こっちは精々一区切り前だ、準備出来ない言い訳も立つだろ。

 晩餐会の方だって、招待状が間に合わんからな、俺たちはジルの招待客に便乗だ。俺たちよりジルたちに目がいけばいいんだよ」


 ……迷惑料として、五男にまたハーブとスパイスを送ろう。


「そんなに見せたくないのか? 嫁さん」

「見せたくないね。出来れば誰にも見せたくなかったよ」

「うへぇー、お前がそういう事言うとはねぇ。こっちまで恥ずかしくなる」


 ……私の方が恥ずかしいです。


「それは、リーエ様の魔力の大きさに関係しているのか?」


 急に声を低くしてジギスさんが言った。


「……やはり分かるか、ジギスには」


 ジギスさんは魔力の大きさが分かるのだそうだ。どれだけその気配を抑えていても、分かってしまうのだそうだ。今のところジギスさんだけの特殊能力らしい。


「ここ最近のお前やジーク、カールハインツ殿下の魔力が桁違いに大きくなっているのと関係しているのか」

「あー、そのことは……」

「誰にも漏らしていない。そこまで馬鹿じゃないよ俺も。こう見えてもお前には忠誠を誓っているからな」

「そうだな、すまん。まだ詳しくは言えないが、近いうちにお前にも話が行くだろう」

「そうか。楽しみにしてるよ」


 ジギスさんの特殊能力か……。ふわっと頭によぎった映像。


「あ! ジギスさん、子供の頃に銀色の狼に会ったことがありますよね」

「なるほど!」


 ルドルフも解ったようだ。


「銀色の狼……何となく覚えがあるような、ないような、……知らんなぁ」

「その特殊能力、その銀色の狼に授かったんですよ」

「へぇ、そうなのか?」


 ジギスさんが子供の頃にフェンリルから気まぐれに与えられた能力らしい。繋がっているフェンリルからそんなイメージが伝わってきた。


「ああ、お前、自分の持っていた甘味をその銀色の狼に与えただろう」

「そうだったかなぁ……」

「そのお礼だったそうだぞ」


 フェンリル、特殊能力も授けられるのか……。すごいな。

 フェンリルってば、昔から甘いものが好きだったのね。


「ところで。何で俺も忘れていたようなことが分かるんだ?」


 後ろでジークさんが堪えきれず笑っている。


「……そのうち分かるよね」

「……そのうちな」

「そのうちか……」


 結局披露宴は仲間内だけのこじんまりとしたパーティーとなるらしい。楽しみだ。






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