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35 プチサイズ

 「近いうちにまた来るにゃー」


 カールさんの肩に乗ったヴァイスの後ろから、おじいちゃんがふざけてそう言いながら、転移扉から王城に戻り、フェンリルたちは庭で日向ぼっこ、ジークさんとロッテさんは息子さんを迎えに行った。ゴルトがちゃっかり小さくなって二人について行く。護衛らしい。

 小さくなったゴルトは普通の鷹に見える。魔獣に見えないのが不思議だ。上位体とはそういうものらしい。上位体の魔獣は、人を襲う魔獣とは違う存在なのではないかと思う。


 リビングのソファーでルドルフにもたれかかりながら話す。


「そうかも知れないな。

 今まで魔獣が人と同じような意思を持つとは知らなかった。意思を持ち思考するものを獣とは言い難いな」

「フェンリルたちは魔力の塊みたいなものでしょ、獣じゃないよね、きっと」

「そうだな」

「魔力に宿った魂がフェンリルたちで、万物に宿る魂が精霊? この辺は理解力を持ってしてもよく分からないなぁ」

「命の源ってことだからな。世界の成り立ちと同義だろう」


 少し疲れたのでずるずると体を滑らせ、ルドルフの膝に頭を乗せて横になる。膝枕だ。

 私が体の位置を決めたところで、ルドルフが婚儀について話し始めた。

 そう言えば、婚儀までひと月もなかった。

 一族の前で誓いの書に署名し、国民に対してベランダのような場所から手を振る。その後は晩餐会への参加。これだけでいいと言う。署名して、手を振って、座っているだけ。


「晩餐会での受け答えは俺がする。リーエは微笑んでいるだけでいい」


 リーエの声を聞かせたくないことになっているから丁度いいとルドルフが笑う。


「色々、教えてね」

「ああ、簡単だぞ」

「手の振り方や立ち振る舞いも教えてね」

「今のリーエでも大丈夫だ。王妃となるわけじゃないからな、完璧じゃなくていい」

「ルーが恥をかかないようにはなりたい」

「今のままでも十分だ」


 ルドルフが私を甘やかす。後でロッテさんに聞こう。


「ねえ、ルーと結婚したら、私ってどうなるの?」

「どうなるとは?」

「王城に住んだ方がいいの?」

「いや、ここに住む」

「今までと何が変わるの?」

「何も変わらん」

「何も?」

「何も。まあ家族は増えるかもしれんがな」


 ルドルフは王弟だ。妃となる私が今までと同じでいいわけがない。きっと私の知らないところで色々手を打ってくれているに違いない。ルドルフだけじゃない、きっとおじいちゃんもだ。ルドルフ兄弟たちも力になってくれているに違いない。


「ありがと、ルー」

「ん? どうした?」

「んー、ルーは優しいなーって思って」

「そうか? 眠いのだろう、ほら寝台に行くぞ」


 そう言って私を抱えて運んでくれる。

 ルドルフの首に手を回し、「大好き」とささやく。

 ベッドに下ろされながら、啄むようなキスをされる。


「っん、……ルーのキス好きー」

「もう一度食われたいのか?」

「ルーが食べたいなら」

「俺はいつだって食べたいよ」


 そう言いながらも私を寝かせてくれた。



 目が覚めると日が暮れようとしていた。部屋がうっすらオレンジ色に染まっている。

 横を向けばソファーで本を読んでいるルドルフがいた。


「目が覚めたか」

「んー、ずっとそこにいたの?」

「いや、そろそろ目が覚めることだろうと思ってな」


 目が覚めたときに近くにいてくれる。甘やかされてるな、私。でもその甘やかさがくすぐったくも嬉しい。


「ジークたちが戻ってきたぞ」

「本当? 赤ちゃんも一緒?」

「あれはもう赤子じゃないだろう、一人で歩いてたぞ」

「うそ! 見たい!」


 ベッドから急いで降りて、ぱたぱたと姿を整える。

 それを見たルドルフが笑いながら、部屋のドアを開けてくれた。


 階段を降りると、ラウンジから子供がはしゃぐような声が聞こえる。

 開け放たれているラウンジの扉から顔を出すと、子供を背に乗せた小さなシュヴァルツがいた。フェンリルも子犬サイズになっている。ゴルトに至っては小鳥サイズになって子供の頭に乗っている。


「うわー、かわいい!」


 その全てが可愛い。

 きゃっきゃと笑う幼子も可愛いなら、小さくなったフェンリルやシュヴァルツもかわいい。ゴルトなんて鋭かった目がくりっくりになって、ほっぺたがピンクになっている。


「なにこれ、みんな可愛すぎる!」


 私がプチサイズたちと戯れている後ろで、ジークさんとロッテさんがルドルフに感謝の言葉を言っている。


「リーエ様、本当にありがとうございます」

「ロッテさん、お帰りなさい」


 ロッテさんが近づいてきて言う。とってもいい笑顔だ。


「ロッテさんは私の女官長になるんだよね」

「はい、そのつもりでございます」

「ならさ、ロッテさんに対する全権は私にあるってこと?」

「仰る通りでございます」

「ロッテさん、口調が硬いよ」

「あっ、つい」

「ならさ、ロッテさんは市の日はお休みね」

「え? それは……」


 あのね、と声を潜めて言う。


「私も市の日くらいはルドルフと二人だけがいいし……、普段もルドルフがいない間だけ、一緒にいてくれると助かるかな。お隣さんだし、急用の時はゴルトに呼びかければ通じるかなって」


 ロッテさんが暫し考えた後、笑いながら了承してくれた。


「ここでリーエ様と二人の時だけですよ」

「うん、他の人の前ではきりっと格好良くね」

「分かりました。ではリーエ様もいい加減ロッテとお呼びください。その方が親しくなれたようで私も嬉しいです」

「じゃ、ロッテも……」

「それはなりません。そこはダメです。私がリーエ様とお呼びしたいのです!」


 最後まで言う前に遮られた。メって顔したロッテが可愛い。可愛いので許す。



 ジークさんは、どちらかというとロッテに似ている二人の子供の愛称を、レオンにするかレオにするかで悩んでいるのだそうだ。


「ゴルト、どっちがいいか聞いてみて」


 本人に選ばせればいいのでは? と思いゴルトに聞いてみる。思念で二人の子供とも繋がっているのではないかと思ったからだ。


「先ほど主にも尋ねられたのだが……」

「大まかな感情しか分からないそうなんです。まだちゃんと話せないので、大まかな感情でも分かると助かりますが」


 言いにくそうなゴルトに代わり、ロッテが答えてくれた。


「そっか、じゃ、お父さんが頑張って決めるしかないね」


 ジークさんに言えば、ジークさんが苦笑いしながら、言葉巧みにルドルフに決めさせようとしている。


「リーエ様はどちらがいいと思いますか?」

「ん? レオンとレオ? うーん、レオン、レオ、レオン、レオ……」


 ロッテに聞かれ、レオンとレオを繰り返す。


「リーエ様、レオンとレオではなんだか音に込められたものが違うように感じるのですが……」


 音に込められたもの? なんだろう? イメージかな?


「うーん、私にとってレオンって優しくて悲しい殺し屋のイメージで、レオって一生懸命運命に立ち向かって生きていく百獣の王ってイメージなんだよね」

「いめーじ、ですか?」

「印象かな。どちらも以前見た映画……んー、劇? 芝居? に出てくる登場人物の名前だったんだけどね、その印象が残っているのかもしれない」


 映画ってこの世界にはまだないよね。演劇や芝居はありそうだけど。


「でしたら、レオですね。優しくても悲しい殺し屋は嫌です」

「いやいや、あくまでも私の印象だから」

「どちらにしても父が決められないなら、母が決めてもいいと思います」


 ジークさんに向かってきっぱりと言い切ったロッテは、早速「レオ、レオ」と連呼していた。母強し!






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