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33 隣家

 朝も早いうちからルドルフ一家再来である。

 すっかり忘れていたので、例の扉から一家が列をなしてわらわらと登場したときには、ちょっと引いた。

 案の定長男夫妻も先王夫妻もやって来た。再びお城の中空っぽである。実際には多くの人がいるのだが、そう言いたくもなる。

 今日が市の日だったことも手伝って、嫁たちも勢揃いだ。

 市の日は公務も基本的にはお休みなのだそうだ。


 ティーナさんに魔力熱の時のお礼が遅くなったことと、前回お目にかかったときに、覚えていなかったとはいえお礼を言わなかったことの非礼を詫びた。


「いいのですよ、そのような些細なことは。何せ私たちは裸のお付き合いですからね」


 ふふんという顔でルドルフを見ながら、ティーナさんが笑う。

 前回私が教えた、裸の付き合い、という言葉が気に入ったらしい。ティーナさんが言うと高貴なお付き合いのように聞こえるから不思議だ。



 長男、次男、五男がキッチンでそれぞれ唸っている。

 ダイニングテーブルの上は色んなものが所狭しと並べられ、長男の前には主にデザート類、次男の前は酒一色、五男の前にはスパイスとハーブ、野菜や果物がてんこ盛りだ。女性陣は長男の周りで楽しそうな声を上げている。


 四男とその嫁は真っ直ぐ露天風呂に消えた。ぶれないな。


 ヴァルさんとティーナさんはローズの部屋で二度寝すると言って部屋に籠もった。きっとまたベッドで飛び跳ねているのだろう。

 先王夫妻にくっついてきた侍従長のバルさんと女官長のツアさんは、ユーティリティールームのチェックに余念がない。この二人、実は夫婦だそうだ。

 ヴァルさんの侍従長のバルさん、私が言うと同じに聞こえるらしいので、侍従長はそのまま侍従長と呼ばせて貰っている。


 そんなルドルフ一家の様子を見ていたら、昨日のジークさんたちとのやりとりに高揚していた気分がしゅるしゅると萎んだ……。


「私とルドルフの部屋以外はご自由に……」


 そう言い残して、彼らは放置する。

 彼らは、いっそ清々しいほどに遠慮がないので、私もある意味楽だ。

 こちらの線引きには敏感に反応するくせに、その線までは遠慮なく手を伸ばしてくる。その辺りの機微はさすがと言う他ない。

 だからこそ、こちらも思うままに対応できる。



 おじいちゃんだけは私たちと一緒にジークさんの家を作る様子を見たいそうだ。


「儂はリーエに一番興味があるでな。折角じゃから一緒がいいのじゃが、爺と一緒は嫌かの?」


 おじいちゃんが小首をかしげた! なんとも態とらしい。態とらしいのだがその態とらしさがいい。


「私もおじいちゃんと一緒がいいな」


 同じく態とらしく小首をかしげて言う。共ににやりと笑いながらルドルフを見れば、案の定怒っていた。


「リーエは俺のだ!」


 怒りのためか、小っ恥ずかしいことを大声で叫んでいた。それを聞いたおじいちゃんが大笑いしている。



 ルドルフとおじいちゃん、ジーク夫妻と共に玄関から外に出る。玄関から外に出るのは久しぶりだ。いつもテラスから出てしまっている。

 どのあたりに建てようかとルドルフとジークさんが相談している。

 ロッテさんはどんな家にするかのイメージトレーニング中だ。


 家はルドルフの魔力で建てるのだが、ジークさんとロッテさんから家のイメージを伝えて貰い、それをルドルフの魔力に乗せるのは私の役目だ。ルドルフの魔力に私のイメージを乗せることが出来ると解ったのだ。番になったから出来ることだとフェンリルが言っていた。

 ジークさんとロッテさんのイメージはゴルトと繋がっている私には伝わりやすい。直接ゴルトと繋がっていないが、私とは繋がっているルドルフには曖昧なイメージしか伝わらないそうだが、たとえ曖昧であっても伝わるのだからすごい。



 私の元の世界のものを再現するには限りがある。

 一度再現した元の世界のものは二度と再現できない。とはいえ、再現したそれを更に再現出来るのだから、限りがあるとも言えないのだが。

 元の世界のものが、この世界の原料を使ってそっくりそのまま現れる。これは、小説などで読んだことのある召喚に近いのではないかと思う。

 実際には元の世界から喚び寄せているわけではないので、正しくは召喚ではないのだろう。この世界にない元の世界のものを再現する、それをこの世界にあるものを再現することと区別するために、便宜上召喚と呼んでいる。


 昨晩ルドルフと話していてそういう結論に達した。

 ルドルフとは繋がっているからか、召喚については小説で読んだ程度の曖昧さながらも、その曖昧さごと伝わるので、説明が楽だった。


 そもそもこの家は、過去に目にしたものを再現していた訳ではなく、必要な物を召喚していたようだ。

 水道管などがなかったのは、必要だとは思わなかったからだ。スタッフルームにあったはずの、PCなどが再現されていなかったのも、必要だと思わなかったからだ。

 おかしいとは思っていたのだ。

 スタッフルームにあったはずのオフィス機器が何一つ再現されていなかった。特に必要だとも思っていなかったので気にならなかったのだが、必要だと思っていなかったことが重要だったらしい。

 ではなぜ私には必要ないはずの洗濯機や掃除機や洗剤などが再現されていたか。

 あの時の私がその存在を必要だと思い込んでいたからだ。水道管などは再現後に必要だったと気付いたが、生活家電などは最初から必要だと思っていた。その違いらしい。


 私がつらつらと思い出しながら話している傍らで、それはこういうことではないか、と結論付けてくれるルドルフの存在は大きい。ルドルフが私の考えを纏めてくれるので、私は思っていることをただ思い浮かべながら話すだけでいい。楽すぎてダメ人間まっしぐらだ。


 現在私はルドルフによって召喚を禁止されている。また寝込まれたらたまらないそうだ。



 ルドルフとジークさんの話し合いが終わった。

 途中おじいちゃんとロッテさんも参加して、あーでもないこーでもないと賑やかだった。

 結局、この家から十メートルほど離れた場所に建てることにしたようだ。

 ひゅーっとジークさんが指笛を吹くと、フェンリルたちと庭でうだうだしていたゴルトが飛んできた。彼らは家の中にいないときは元の姿でいることが多い。

 ゴルトが名の契約をしたとき同様の大きさで、ジークさんの肩に留まっている。


「あれ? ゴルト普段も小さくなれるの?」

「大きくなるには力が必要ですが、小さくなるには必要ないので」

「じゃ、フェンも小さくなれるの?」

「おそらくは」


 あとでフェンリルに小型犬サイズになってもらおう。小型犬サイズのシュヴァルツも可愛いだろうな。


「では始めるか」


 ルドルフの一声で、皆が緊張するのが分かる。


「まずは、ジークとロッテがゴルトにどういう家にするかを伝えろ。リーエはそれを受け取ってそのまま俺に伝えろ」


 ジークさんとロッテさんがゴルトの左右からその翼に触れる。私はゴルトの頭に触れながら、伝わってきたイメージを後ろから私を抱え込んでいるルドルフに伝える。


 しばらくすると、後ろから私のお腹に回されていた手が片方外れ、前に突き出した瞬間、ルドルフの手のひらから魔力が溢れ出た。

 溢れ出た魔力が渦巻き、どんどん大きくなり、目前に迫ってきたところで、その魔力をほわっと吸い込みながら家が出現した。


 出現した家は、一言で言えば童話の中に出てくるお家だ。西洋の田舎にありそうな、カントリー風のものすごく可愛いらしい家だ。

 ロッテさんのイメージだったのだろう、ジークさんが首をかしげていた。強くイメージした方が優先されたらしい。

 目を輝かせ、頬をバラ色に染めながら、両手を胸の前で組んで、明らかにわくわくした様子で家を見つめるロッテさんが、ものすごく可愛い。

 まさにこの家はロッテさんの家って感じがする。家もロッテさんも揃って可愛いとか。思わずにやけてしまう。


「今日からお隣さんだね。よろしくね。二人で中を見ておいでよ」


 にやけた口元を引き締めそう言えば、二人とも一礼して家の中に入っていく。ゴルトもそれに続いた。


「儂も見たい!」


 おじいちゃんもいそいそと後を追った。


 それにしてもスゴイ。一瞬でこんなに可愛い家を出現させるとは。私は自分のイメージで家を出現させたが、今回は他人のイメージだ。あのロッテさんを見ていると、彼女が思い描いた通りの家なのだろう。


「ルー! スゴイね!」


 そう言って振り返った途端、目を大きく見開いたルドルフが、次の瞬間いきなりキスしてきた。


「魔力……」


 そう言いながら、再び口を塞がれた。

 口内を舌で擽られ、舌を絡められ、唾液を啜られ、唇を食まれ、また舌で擽られる。

 口から漏れる音や自分の喉から漏れる声は、刺激的すぎて気が遠くなる。


「そろそろ良いであろう」


 フェンリルにルドルフが引き剥がされた。助かった……。腰が抜けそうだったよ。


 ふと見れば、顔を真っ赤にしたロッテさんと、にやにやしているおじいちゃんとジークさんがいた。……見られた。

 前回ジークさんに見られたときは狼狽えていたはずなのに、今回は特に動揺も見せないルドルフは、私を抱え上げて家に入っていく。


「ジークとロッテは引き続き自分の家を整えておけ。爺様は皆を連れて帰れ」


 家に入るときに言い放ったセリフに、おじいちゃんがまたもや大笑いしながら了承している。



 そのままベッドに下ろされた私は、ルドルフにぺろりと食べられた。






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