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30 登城

 いざ登城だ。


 朝早くからロッテさんに体中を磨かれ、着慣れないドレスを着せられ、複雑な型に髪を結い上げられた。

 お化粧はしないのかと疑問に思えば、王城では要所要所の床に浄化の魔法陣が刻まれているため、誰も化粧をしないそうだ。しても浄化されてしまうため無駄だと言う。

 ロッテさんもよく見ればすっぴんだ。普通顔の私は出来ればメイクで誤魔化したかったが、無駄だと言われれば仕方が無い。せめてもとまつげをビューラーでぐいっとあげていたら、ロッテさんが興味深そうに見ていた。


「使ってみる?」

「よろしいのですか?」


 使い方を教えながら、ロッテさんのまつげをカールさせると、ぱっちりお目々がさらに大きく見えて、可愛さがレベルアップした。

 ロッテさんが自分の顔を鏡で見ながら、随分と感心していたので、ビューラーをもう一つ取り出して「使って」と言って手渡すと、恐縮しつつも受け取ってくれた。よほど気に入ったらしい。


 ロッテさんは、パウダールームの設備やスキンケアアイテムにも興味津々だ。


「後でゆっくり見ていいよ」

「本当ですか!」

「なんならジークさんと一緒に泊まっていけばいいよ」

「それは……」

「一緒に露天風呂にも入ろうよ」

「ですが……」


 ロッテさんが迷ってる。もう一押しで落ちそうだ。


「リーエ、いいか?」


 ルドルフの邪魔が入った。


「邪魔とは何だ」


 ……伝わってしまった。繋がるって時々不便だ。



 室内に入ってきたルドルフは、私の姿に目を細め、「綺麗だ」と褒めてくれた。照れる。そういうことは小声でお願いしたい。

 この淡い水色のドレスは、ルドルフが色や型を指定して用意してくれたのだとロッテさんが教えてくれた。

 シンプルで裾が広がりすぎないAラインのドレスは私好みだ。お礼を言えば「似合っている」と嬉しそうに返された。だから照れるってば。


「あとは、これだな」


 そう言って手渡された宝石箱を開けると、中には綺麗な青い石のネックレスとピアスが入っている。


「綺麗……。ルドルフの色だね」


 ルドルフが頷きながら、ネックレスとピアスを次々と私に着けてくれた。少しくすぐったい。


「これは魔石と言って、魔力を込めることでその者の瞳の色に変わる」


 ルドルフは私と出会って直ぐに魔石を身につけ色を変えていたらしい。本来は二ヶ月にも満たない期間ではここまで色を変えることはなく、少なくとも五年程かかるという。ルドルフの魔力でも二、三年はかかるそうだ。


「あー、そのだな。ほら、リーエとひとつになっただろう。そこで得たリーエの魔力が魔石に全て込められていたようだ。道理で今まで体液摂取しているのに気が付かなかったわけだよ」


 ……体液摂取って。人前で何を言うのか! と思い振り向けば、ロッテさんの姿はなかった。いつの間にか席を外してくれたようだ。よかった。


「ほら、リーエもやってみろ」


 ルドルフに渡されたピアスに魔力を込める。あっという間に透明だった魔石が濃い琥珀色に変わった。

 ルドルフがピアスを着ける。自分の瞳の色なんて、普段は意識なんてしていなかったのに、その色をルドルフが付けているのを見ると、照れくさくも嬉しい。


「これだけ互いに濃い色だ。出会った時期をいくらでも誤魔化せるだろう」



 ルドルフと一緒に仕事部屋の転移扉から、王城のルドルフの執務室に転移する。

 執務室は、深い青を基調とした重厚な雰囲気の部屋だった。どっしりとした机に優美な曲線を描く布張りの椅子。その机の前には応接セットが置かれている。

 私たちに続いてジークさんとロッテさんも転移してきた。


「……ルドルフ、どこに転移の魔法陣刻んでるのよ」


 机の両サイドに並ぶ、同じく重厚な雰囲気の書棚の扉の中から出てきたジークさんが、苦笑いをしている。私もあそこから出てきたのか……。


「急いでいたんだよ、あの時は」


 急いでいたのは分かるけど、今もそれを使い続けているのはどうかと思う。「目眩ましになっていいだろ」とルドルフは何故か得意気だ。



 こんこん、と執務室の扉が鳴り、ルドルフのお爺様の来訪を告げられる。


「初めましてじゃな。儂はこれの爺のアウグスティーンじゃ。おじいちゃんと呼べばよいぞ」

「お初にお目にかかります。リエ・カトウです。よろしくお願いいたします。……おじいちゃん?」


 にやりと笑って挨拶をするルドルフのお爺様に、同じくにやりと笑って挨拶をする。どうしよう、このおじいちゃん好きだ。


「爺様! リーエもおじいちゃんなどと呼ばなくてもよい!」

「なんじゃ。見苦しいぞ、ルードルフ」


 怒るルドルフに飄々としたお爺様。うん、このおじいちゃん好きだ。


「リーエは儂の養女となる。本来ならば『おとうさん』と呼ぶところじゃが、おじいちゃんでいいじゃろ。直に儂の孫にもなるんじゃ」


 ふぉふぉふぉ……と笑うおじいちゃんは、養女のことを了承してくれている。身寄りのなくなった私に身寄りが出来る。


「どうかよろしくお願いいたします」


 深く頭を下げれば、慌ててルドルフに頭を上げるよう言われる。それでも頭を下げ続けていれば、おじいちゃんが真面目な声で頭を上げるように言う。


「何があってもおまえさんは、儂やルードルフ、王家で守ると誓おう」

「……ありがとうございます」


 顔を上げた途端、しっかりと目を見て云われた言葉に、嬉しくて思わず涙ぐみそうになると、ルドルフに抱き込まれ顔を隠された。


「爺様は見るな」

「けちじゃのお、ルドルフは」


 私の呼び方を真似てお爺様がルドルフをからかう。思わす笑えば、ルドルフが私の顔をのぞき込み、「大丈夫だ」といつもの言葉をくれた。


 用意されていた養子縁組の書類に署名をする。

 ちなみに署名は事前にルドルフに教えて貰った。

 ペンに魔法陣を刻み、日本語で書いてもこちらの言葉に変換する、自動筆記的なものを作ってみたのだが、契約書類は後で魔法を掛けるため、なるべく自筆の署名にした方がいいとのことで、練習したのだ。この国の文字はアルファベットに似ているのだが、妙な感じで曲がりくねるので、どうにも不格好になる。

 下手くそな署名だろうに、誰も笑わない。優しいな、みんな。ルドルフなんて最初のころはあまりの不格好さに大笑いしていたのに……。


 再び部屋の扉が鳴り、四男と五男がやって来た。


「久しぶりだな。また露天風呂に入りに行ってもいいか」


 マックスの第一声がこれである。


「フェンリルの洋服、ありがとうございました」

「お古で済まなかったな」

「とんでもない、十分です」

「お礼は露天風呂でいい。食事付きで」

「……ミーナさんと一緒にまたいらしてください」


 ほくほく顔の四男。四男に続いて五男も言う。


「私は一度れーぞーこや食品庫を直接見てみたいです」

「……よければ、マックスとご一緒にどうぞ」


 ほくほく顔の五男。四男と五男は互いの予定を聞き合っている。


「おまえたち、いい加減にしろよ」


 ルドルフの声は聞こえないふりらしい。


「ルドルフもだけど、四男も五男も王族らしくないよね」


 小さな声で言ったはずなのに、四男には聞こえていたらしい。


「俺たち三人は王位に興味がなかったからな、子供の頃からこんな感じだ」

「最低限のマナーなどは覚えさせられましたが、それ以上は特に厳しく言われたことはありませんでしたね。元々この国の王家は他国と比べてくだけていますから。

 まあ、私は現在の地位に伴い、少しお行儀良くしていますがね」

「俺たちは学校にも通わせて貰えたからな、それが一番大きいな」


 十歳から成人までの十七歳の間に、五年間学校に通うことが出来るらしい。

 身分に関係なく試験を受けて、受かれば無料で通えるという。試験は十歳、十一歳、十二歳になる年の二区切り目の終わりに受けることが出来る。

 私が元いた国では、七歳から九年間の義務教育と三年間の高等教育、二年から六年の専門教育を受けられると言うと驚かれた。


「リーエはどれほど学んだ?」

「私は十六年ですね」

「ほぉ」

「それはすごいですね」

「良く耐えられたな」


 最後は四男だ。四男は座学が苦手だったらしい。うん、言われなくてもそうだろうと思った。四男は見るからに脳筋っぽい。



 ルドルフの執務室の応接間でロッテさんにお茶を入れて貰い、目的も忘れすっかり寛いでいたら、ついに呼ばれた。

 今回は会議室の様なところでのお披露目となるらしい。なるべく人目に付かないように、ルドルフの執務室から一番近い広間が用意されたという。


 私の前をおじいちゃんと五男が、左右にルドルフと四男、後ろにジークさんとロッテさんが続く。

 私、思いっきり隠されてるよね。おかげで周りの様子が分からない。足下に毛足の長い細長い絨毯が敷かれているのが分かるくらいだ。


 会場となる広間に着けば、扉の前に次男が待ち構えていた。


「それでは。みなさんお揃いですよ」


 次男の声と共に扉が開かれる。

 吐きそうなほどの緊張に指先が冷たくなった。






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