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L-04

 この国の王を筆頭に兄弟が勢揃いする。

 俺を含め皆それぞれ要職に就いているため、こうして一堂に会するのは久方ぶりだ。


 緊急と称して集まった兄弟たちに、俺が唯一と出会ったこと、その唯一が渡り人であること、その渡り人が過去に例を見ないほどの膨大な魔力を持ち、最初から体を動かし、言葉を話せること、それの作り出した邸宅が公に出来ないほど異質であること、俺の唯一が精神的に安定していないこと、などを伝えた。


 兄弟たちは、俺が漸く唯一と出会えたことを喜び、その唯一が渡り人であることを納得し、その渡り人が異質であることにそれぞれが深く考え込み、さらに公に出来ない邸宅を持つことに頭を抱え、その心が安定していない俺の唯一を案じた。


 途中、リーエの持たせてくれたサンドイッチなどを食事代わりとし、リーエについての話し合いが続いたが、食事を挟んだ前と後ではリーエに対する協力体制が大きく変わった。涙目になる気持ちは分かる。

 最初の一口は味の濃さに驚くのだが、噛めば噛むほどに旨味が溢れ、心が震えるほどの感動が襲ってくる。


 リーエの存在は、特に絶対魔力主義のアベラール王国には慎重に慎重を重ねて、隠すこととなる。

 早々に俺との婚儀を整えた方がよいとの長兄の言葉に、次男と末の弟が内密にて準備を進めておくと言う。リーエの家に近いアルバの街の警備を強化することを下の弟と共に話し合う。

 俺がリーエの家に居を移すこともあっさりと了承され、そこから直接俺の執務室に転移することの了承も得る。



 爺様のところに出向き、前回の渡り人についての話を聞く。

 前回の渡り人はこの世界に馴染んだ数年後、表向きでは行方が解らなくなった事になっているが、その裏ではアベラールで魔力の大きい子を作るための道具とされたことを聞く。

 当初アベラールに対し抗議するも、本人の意思だと反発され、本人と面会するも己の意思だと自ら主張され、どうしようも無かったらしい。アベラールに魔力の大きな者が多いのは、この時の子や孫であるという。

 思わず、「どれほどの子種を蒔いたのか」と漏らせば、「精神を病むほどだ」と苦り切った表情で爺様が答えた。

 本来ならば長寿だと云われる渡り人が、随分と短命だったらしい。

 もっと強く抗議していたら、本人の意思を無視してでも保護していれば……、「後悔しても後悔したりぬ」と爺様は言う。

 その渡り人は、当時幼少だった爺様を殊の外可愛がってくれたそうだ。


「なんとしてもアベラールに此度の渡り人を奪われてはならぬ」


 強い口調で爺様は言う。


「その存在自体を隠し通すことは出来ぬ。ならば奪えぬよう早々に手を打つことだ。

 なるべく早く婚儀を済ませよ。他国の王族の伴侶を奪うことまでは、いくらアベラールといえどもするまい」


 爺様が続けた言葉に強く頷く。

 早くリーエの地位を固めた方がいい。簡単に奪えぬほどの立場と、簡単に奪えぬほどの守りを。



 早めにリーエの家に戻れば、リーエが庭先で眠り込んでいた。見慣れない服を着ている。足が出すぎではないか? 可愛いが。家の中だけなら良しとしよう。

 それにしても、いくらリーエの結界が強固だからと言って、屋外で寝こけるとは。絶対の安全はない。しばらく頭を撫でてリーエの寝顔と綺麗な足をじっくり眺めた後、リーエを起こし、説教する。

 それでも俺に「おかえり」と言う。その何気ない一言が、ここに、リーエの元に帰ってきてもいいのだと思わせてくれる。


 リーエと共に屋内に戻れば、俺の持ち込んだ荷物に目を丸くする。

 リーエの精神が安定するまではそっとしておこうということで、一区切り後に陛下との面会の機会を設けることとなった。

 リーエには、「ひとまず一区切りは滞在する」と伝えると、「仕方ない」と言いながらも荷解きを手伝ってくれる。

 一区切りどころか、一生滞在する気ではあるが。


 その晩もリーエに呼ばれ、いつものように腕に抱き、いつものようにささやいて、いつものようにまじないを施す。

 毎晩リーエを寝かしつけることを、いつの間にか当たり前の様に思っている。

 昼間は強気なリーエが、夜になると途端に気弱になる。彼女の本質は夜の方だろう。その弱さを悟られないよう、必死に強がっている。その強がる姿が無性に愛おしい。

 寝かしつけるだけではなく、早く同じ寝台で朝を迎えられるようになるといい。

 一人を怯える夜を忘れるためのまじないなどではなく、共に穏やかな朝を迎えるためのまじないに変わることを望む。

 穏やかな寝息を吐き出す小さな唇に口づけながら、そんな更なるまじないを施してみる。



 そんな己の欲望ばかりのまじないを施したためか、翌日執務を終え家に戻ると、だいにんぐきっちんで倒れているリーエを見つけた。

 急ぎ怪我の具合を確かめるも怪我が見当たらない。

 体を触られることを嫌がったリーエが、抗議するかのように力なく俺に手を伸ばしていたが、その腕からも力が抜ける。

 慌てて寝台に運び、城に転移し、母上に助けを求めた。

 執務室とリーエの屋敷の仕事部屋を魔力で結べば、母上と母上の女官長の二人が転移してくる。

 急ぎ二人をリーエの元に連れて行けば、一目見るなり「魔力熱だ」と告げられた。

 なるほど、と思い当たり安堵する。魔力熱ならば寝ていれば自然と治るだろう。

 物珍しそうに部屋を見渡す母上には、後日この邸宅のことを説明すると伝える。

 彼女が、漸く出会えた俺の唯一であると知り、目を輝かせている母上とその女官長に、「彼女のことも後日」と言葉を濁す。


 二人と共に一度執務室に戻る。

 明日以降の予定を念のため後日に回し、ジギスヴァルトに明日以降の指示を出していると、リーエに強く呼ばれた。これほど離れているのに呼ばれていることが解るとは、余程のことか。

 急ぎジギスヴァルトに後を任せ、リーエの部屋に転移する。


 寝台にリーエの姿がない。

 慌てて部屋を出れば、俺の部屋の前に泣きながら座り込んでいるリーエがいた。


「リーエ、大丈夫か?」


 声をかけながら駆け寄り、熱でほてった体を抱き上げる。

 首に腕を回ししがみつくリーエからは、「ルドルフがいない」「どこにも行っちゃやだ」という可愛い声が聞こえる。リーエがただひたすら俺だけを求める言葉に、後ろめたい喜びを感じる。

 リーエの部屋の寝台に下ろせば、「側にいて」とまた可愛いことを言われる。俺の我慢強さも限界に近い。いや、腰のあたりはすでに限界を超えている。

 いつものように抱きしめささやくも、一向に安堵の表情が見えず、慰めるよう口づければ、数日前のようにリーエからも口づけ返される。


「ルドルフのものになりたい」


 口づけの間に呟かれたリーエの言葉に、俺は止まらなかった。止められなかった。


 その晩、リーエは俺のものになった。



 その後七日間、リーエの熱は一向に下がらず、日が高かろうが真夜中だろうが、リーエに求められるままに俺はリーエを抱いた。初めは痛がっていたリーエも、回数を重ねるごとに俺に馴染み、共に目覚める喜びを知った。

 七日目の晩、リーエに婚儀の了承を取り、俺は幸せの絶頂だった。


 八日目の朝、リーエの熱は漸く下がった。

 

 ……リーエは倒れて以降のことを憶えていなかった。


 俺のものになったはずが……。

 俺とのあーんなことやこーんなことが……。






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