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03 無詠唱

 魔法使いもどきは本物の魔法使いであり、ルードルフという名前らしい。


 フルネームを教えてもらったのだが、最初のルードルフ以外は憶えられなかった上に、ルードルフは言いにくいので、ルドルフさんと呼んでいる。


 最初はファーストネームは親しい人だけが呼ぶので、ミドルネームで呼ぶように言われたのだが、長ったらしいミドルネームは三回聞いても最初の三音しか憶えられなかった。憶えられないものは無理だ。

 ならば先生と呼ぶようにと言われる。


「いやいや、ルドルフさんは私の先生じゃないですし」

「その大きすぎる魔力を抑えてから言え。その魔力を抑えねば街に入ることも出来ん。これから抑え方を教えるのだから先生と呼ぶのも理に適っているだろう」


 少し偉そうに言われた。鼻の穴が膨らんでいる。なんだろう、ちょっとイラッとする。


 何となく苛つきながらも、魔力を抑える、魔力を抑える……と考えているうちに、何となく自分の周りに陽炎のようなものを感じる。これが魔力だ。それを自分にたぐり寄せるよう、風船がしぼむようなイメージを頭に思い浮かべていたら、しゅるしゅると陽炎が萎んだようになり、自分の中に収まったと感じた。


「おい! 詠唱もせずにどうやって魔力を抑えた?」


 やはりあのオーラのようなものが魔力なのか。

 先生になり損ねたルドルフさんが、しつこくどうやったのかを聞いている。

 やぱり魔法と言ったら詠唱なのか。


 色々考えている横で、ルドルフさんが「教えろ、教えろ」としつこい。おまけにうるさい。


「ルドルフ待て!」


 つい実家のシロに言うように言ってしまった。当たり前だが激怒された。

 ……この世界にも犬とかいるのだろうか。いたらいいな。


 激怒しつつ、なおもしつこく聞いてくるので、ならば先ほどのお返しだとばかりに、偉そうに言ってやる。


「教える代わりに、この世界で私が一人で生きていけるよう、手を貸してください」



 この世界全体のことを大雑把に、今いるこの国のことも大雑把に教えられる。

 遠くに見えた街はアルバと言う比較的大きな街だそうで、そのアルバの街についてもやっぱり大雑把に教えてもらった。

 行ってみれば分かる、暮らしてみれば分かる、と言う教える気がなさそうなルドルフの教え方は、とても感じが悪い。先ほどの「ルドルフ待て!」の怒りが冷め切っていないのだろうか。……感じが悪いのはお互い様か。

 結局、ルドルフと呼んでいいと言われたので、遠慮なく呼び捨てている。



 ひとまずアルバの街に向かうことになった。

 ルドルフは今アルバの街に滞在しており、アルバの街のその先に王都があると言う。アルバの街があるこの国はファルファラー王国だそうだ。

 ファルファラー王国の他に、三つの国があるらしい。


 アルバの街に向かう途中、ルドルフの歳を聞けば三十二歳だという。もっと上かと思った。

 私は十五歳ほどだと思われていたらしく、二十六歳だと言っても信じてもらえなかった。ここでも日本人は若く見られるらしい。「そんなに信じられないならば十五歳でいい」と投げやりに言えば、ようやく二十六歳だと認めてもらえた。


「本当にこれで二十六なのか? どう見ても十五、精々で十七くらいにしか見えん」

「これでとはなんですか。きっちり二十六年生きてきましたよ!」



 聞けば一年は一巡りと言い、三百六十五日だそうだ。

 九十日ずつの四つの節に分かれ、それぞれの節の終わりに幸の日が一日プラスされるらしい。

 節は三十日ずつで一区切りとし、六日単位で市が立つそうで、市が立つ日は休日なのだそうだ。

 ひと月が三十日、一週間が六日で、市が立つ日が日曜日という感じだろうか。

 一年の最後に静の日が一日プラスされて三百六十五日となる。閏年はないらしい。

 幸の日はお祭りが行われ、静の日は何もせず静かに過ごすのだと言う。


 今日は二の節の一の区切り、二の市後の五日目だそうだ。……分かりにくい。四月十八日前後だろうか。



 ルドルフは今、アルバの町の宿屋の一室に滞在しているそうだ。

 結婚していないのかと聞けば、出会いがないそうだ。

 研究ばかりしていたためにお金はそれなりに貯まっており、快適な宿屋暮らしがやめられないらしい。

 ひとまず同じ宿屋に部屋を取ってくれ、明日は丁度三の市が立つので必要な物はそこで揃えればいいと言う。

 ちなみにお金はあとで返すようにと言われた。けちだ。



 ルドルフは魔力や魔法について研究しているらしく、特に今は詠唱を短縮する研究を中心としているそうだ。

 さっき私が無詠唱で魔力を抑えたことは驚くべきことで、ものすごく興奮していた。なるほど、しつこかったわけだ。


 無詠唱で魔力を使える人はこの世界にはいないと解る。例の不思議な感覚だ。


 その感覚で、ルドルフは信用出来る人だとも解る。


 ルドルフにとって、無詠唱で魔力を扱える私は詠唱短縮の研究にとって、とてつもなく貴重な存在だそうで、だからなのかすんなり協力してもらえることとなった。


 無詠唱で魔力を使えることは、他の人には知られない方がいいと言う。

 確かに、誰にも出来ないことが出来るというのは、まかり間違えば人体実験されかねない。

 魔力がルドルフよりも大きい私は、無詠唱の秘密を守るために、自分に縛り付けることが出来ないと悔しがられた。

 縛り付けるって……。膨大な魔力を持っていてよかった。






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