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27 魔力熱

「リーエ、寝台に行け」


 家に戻り、揃ってお昼を食べ、お土産を持ったカールさんとジークさんは、一度お城に戻るそうで、転移扉に向かった。

 それを見送り、浄化したお皿を片付けていたら、ルドルフにいきなりそう言われた。


「んー? なんで?」

「気付いてないのか?ふらふらしてるぞ」

「そうかな、んー……」

「また魔力熱じゃないか?

 昨日、フェンリルの契約でかなり魔力を使っただろう? 俺もさっきはかなりキツかったぞ」


 またか。

 そう、またか、である。

 つい先日聞かされたばかりの話を思い出す。



 この家を再現し、日々地味に魔力を使い続け、たまたま魔力を使わなかった日の夜、ルドルフが帰ってきたらダイニングで倒れている私を発見したそうだ。

 抱き起こしてみれば体が熱く、息が荒い。どこに傷があるのかと体中を触って確かめている途中、私に力なく殴られたという。

 私に記憶はないのだが、熱が出ているのに体を弄る不埒な輩に対する制裁であろう、正当防衛だと思う。


 この世界、なんと病気がないのだそうだ。魔力で体の調子を整えているらしい。

 正確には、この世界に魔力がない人はいない。皆魔力自体は持っている。魔力があると言われる人は、体を整える以上の魔力を持つ人のことを言う。

 ただ、病気はないが怪我はする。

 だからこの時ルドルフは、私の体のどこかが傷ついているのではないかと思ったらしい。それゆえ、傷の有無を調べていたという。これまたある意味正当な理由である。


 正当防衛に力を使い切った私は、ぐったりと動かなくなり、焦ったルドルフは私をベッドに運んで、慌ててルドルフのお母さん、ティーナさんに助けを求めた。ティーナさんは女官長と一緒に駆けつけてくれ、私を一目見るなり、魔力熱であるとルドルフに告げたそうだ。


「魔力熱? あの子供の? リーエはこう見えて二十六ですよ、そんなわけ……」


 こう見えて、という一言は余計だが、子供が初めて魔力を使うとき、加減が分からず魔力を使いすぎてしまう。使いすぎた魔力を蓄えようと、体が一気に魔力を取り込み、一気にその魔力が体内を巡るため、熱が出るのだそうだ。

 魔力を使う内に加減を知り、慣れていき、熱も出なくなるそうだ。

 それゆえこの国では、体がある程度出来上がる十二歳になるまでは、大きな魔力を使うことを禁じている。低年齢で魔力熱が出ると、死に至ることもあるからだという。

 私の症状はまさにそれだったらしい。


「この家か……」


 まさに、この家である。

 広範囲で結界を張り、一気にこの家を再現し、再現した後もちょこちょこ魔力を使っていた。その日になってようやく魔力を使う必要がなくなり、体が一息つついたのだろう、反動で今頃熱が出たのでは、と言うことにルドルフも思い至り、なるほど魔力熱かと胸をなで下ろしたそうだ。


「寝ていれば自然と治ります」


 そう言って、ティーナさんと女官長はお城に戻ったそうだ。明日は朝から晩まで外せない予定が立て込んでいるので、寝かせておくだけなら看病はルドルフでも大丈夫だと判断したらしい。当然この時ルドルフもそう思っていたという。


「まさかそれが七日も続くとは思わなかったんだ……」


 教えて貰ったときにルドルフがそう言ってぼやいていた。


 この間の私の記憶は曖昧だ。なにせ四十℃近い熱が出ていたと思う。計ったわけではないが、過去にインフルエンザにかかったときよりも酷い熱だった。

 何となく、アイスが食べたい、プリンが食べたい、ジュースが飲みたい、ゼリーが食べたい、と食べ物のことばかり言っていた記憶がある。

 そして八日目の朝、昨晩までの熱が嘘のように、けろりとしていたそうだ。

 ルドルフは精も根も尽き果てた……と言って、その日一日中自分の部屋から出てこなかった。多分爆睡していたのだろう。

 申し訳なくなったので、ゆっくり休んで貰えるよう、ルドルフが部屋から出てくるまで静かに過ごした。露天風呂でまったりしていたのは内緒だ。



 その再来である。

 言われてみると、何となくだるい。

 全力疾走したから疲れたのだろうと思っていたのだが、それにしてはだるすぎるような気もする。

 ユーティリティールームにあった救急箱から体温計を取り出し計る。ぴっぴっと鳴ったら三十九℃だった。熱があると分かった途端、くらくらする。


「あー……ルー、熱あった」

「だから言っただろう」


 ルドルフがひょいっと抱えてくれる。女子の憧れ、お姫様だっこである。それなのに今は楽だとしか思えない。折角のお姫様だっこなのに。


「んー、ちょっと、寒いかもー」

「ちょっと待ってろ」


 ルドルフにベッドに運ばれ、靴を脱がされ、浄化され、布団に入れられる。

 もぞもぞと布団にくるまるが、ぞくぞくと猛烈な寒気がする。

 部屋を出て行ったルドルフが、マグカップとグラスを持って戻ってきた。体を軽く起こされる。


「ほら、飲め」


 口元に当てられたマグカップは人肌に温められた薬湯のようだ。この匂い、知ってる気がする。前に熱が出たときにも飲まされていたような。まずかった気がする……。


「これー、まずいよねー」

「ちゃんと果汁も持ってきた。ほら、飲め」


 うーっと唸りながらも飲む。うぇぇ、やっぱりまずい。

 唸りながらも飲み干したマグカップの代わりにオレンジジュースの入ったグラスを渡されたので、ごくごく飲んでしまう。口の中に残った薬の苦みとオレンジの僅かな苦みが合わさって、いつものオレンジジュースまでもが美味しくない。

 冷蔵庫には他にもアップルやグレープジュースなどもあるが、このオレンジジュースだけは直前に絞られたフレッシュジュースなので、気に入っていつも飲んでいる。

 熱でゆるくなった頭の中で、ルドルフがそれを知ってくれているのを嬉しく思う。


「フェンリルとシュヴァルツに結界を張るよう言ってある。一旦結界を解け。少し楽になるはずだ」

「んー、わかったー」


 普段結界を張っていることを意識しているわけではないが、結界を解くと確かに体が少し楽になった。それでもぞくぞくとした寒気は消えない。


「ルー、さむーいー」

「わかってる。ほらこっちに来い」


 自身を浄化したルドルフがベッドに入り、抱き寄せてくれる。

 ふわふわとした思考に何も考えられず、子供の様にルドルフに抱きつきながら、その温もりに体の力が抜ける。なんとなく覚えのあるようなぬくもりと匂いに何故か安心する。

 どこにも行かないで、そばにいて、と子供の様なことを言ったような気がする。夢だったかも知れない。






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