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26 色々

 ルドルフの両手が更に肩に食い込み、痛みで顔がゆがむ。

 振り仰げば、ルドルフが苦しそうだ。


「ルドルフ、大丈夫?」


 いつの間にか私の背中にルドルフが張り付いている。肩に乗っていた手が前に回され、背後から抱え込まれているというより、私にもたれかかっている。重い。


 フェンリルにルドルフが引き剥がされ、カールさんとジークも手を離す。肩で息をしているのはルドルフだけだ。


「此奴は主の体液の影響が今になって出たのであろう。それにしては主の魔力が多く残っているが」

「……昨日色々ありまして。フェン、ルドルフは大丈夫なの?」

「……大丈夫であろうよ」


 フェンリル、その疑り深い目はやめなさい。ジークさんもにやにやしない。


「ほう。色々ですか?」

「色々ですが?」


 楽しそうな目をしている次男にしれっと答えてやる。ここで焦ったら負けだ。次男には弱みを握られたくない。

 少し落ち着いたルドルフに手を貸し、ソファーに座らせながらジークさんが説明する。


「昨日、フェンリルと契約する前に、フェンリルの意思をルードルフ様も確認するには、リーエ様の体液が必要とのことで、リーエ様が口に含んだ指をルードルフ様の口に突き刺しておりました」


 突き刺すって、ジークさん……。


「ほー。指でね」

「指ですね」


 ジークさん、昨日どこから見ていたんだろう……。まさか最初からだろうか。

 ルドルフは聞こえてないふりをしている。うん、私も聞こえない。



「来たぞ。随分近くにいたのだな」


 フェンリルの声に、慌ててテラスに向かう。

 昨日フェンリルがいたのと同じ方向から、フェンリルの時より弱くかすかな音が聞こえる。


 フェンリルに先に様子を見に行って貰う。

 百メートル全力疾走はキツイ。ぜはぜは走っていたら、ルドルフが速度を落として手を引いてくれた。さっきまで苦しそうだったのにもう平気なのだろうか。


 結界の先にいたのは真っ黒なペガサスだった。青みがかった黒と言うべきか、でも濃紺とも違う、何とも言えない深みのあるしっとりとした美しい黒だ。


「これは此奴の呼びかけを昨日のうちに感じたそうだ」


 ルドルフを見ながらフェンリルが教えてくれる。今回は通訳いるから楽だ。

 ルドルフは私とフェンリルが契約するときに、自分も魔獣と契約したいと強く望んでいたらしい。


「だからこんなに早く来てくれたの?」

「我が主が呼んだのは我のような姿のものだったから、これは次を望んでこの辺りにいたらしい」


 ルドルフが前に出る。


「俺との契約でもいいのか?」


 ペガサスがルドルフにその顔を寄せる。


「此奴でもいいそうだ」


 ルドルフが苦笑いしながら、指を切り、血を与える。

 ルドルフの体から出た魔力が、ペガサスを覆い、そしてその体に吸い込まれていった。それはとても美しい一瞬。

 私も昨日、フェンリルとこの美しい一瞬を作ったのだと思うと、嬉しくなった。


「名の契約の前に。此奴は今、我の主の力を纏うておる。本来の此奴の力とは異なるが、本当によいのか?」


 フェンリルが強い口調でペガサスに聞く。


「構いません。我が主とフェンリル様の主様には縁があります故」

「ならば好きにすれば良い」


 えにし?

 また無意識にルドルフを縛っているのだろうか。縛っている私に自覚がないのは困る。ルドルフを見るとふいっと目をそらされた。感じ悪い。

 でも私が縛っているから契約してもいいなんて、ちょっと微妙だ。


「ルドルフの魔力は、今一時的に私の魔力が混じって、普段より大きくなっているんだけど、いいの?」


 すごく差し出がましい気がするけど、思い切って聞いてみる。


「私は我が主がよいのです。フェンリル様の主様も好ましいですが、その横に立つ我が主がよいのです」


 そうペガサスから言われたルドルフは、なんだかすごく嬉しそうだ。

 本来ならば、この時のルドルフの魔力ではこの黒いペガサスとの名の契約は出来なかったそうだ。ペガサスがルドルフとの契約を望んだことで、契約が成り立ったらしい。後でフェンリルがそう教えてくれた。


「では、名の契約を。

 汝の名はシュヴァルツ、シュヴァルツと名付ける」

「私の名はシュヴァルツ、シュヴァルツと名を賜う」


 再びルドルフの体から出た魔力がほわりとシュヴァルツを覆う。透明なようでいて、日の光を受けて虹色に輝き、霧のようにも波打つ薄いベールのようにも見える魔力は、本当に美しい。

 シュヴァルツの体にその美しい魔力がすっと吸い込まれると同時に、フェンリル同様シュヴァルツの姿も変わる。


 またしてもイケメンだ! 魔獣は人型になると須くイケメンなのか?

 漆黒の髪に濃紺の瞳、背はルドルフと同じくらいだろうか。やっぱり引き締まった素晴らしきスタイルだ。またじっくりと観察していたら、私の目線から隠すようにルドルフが前に出て、自分の上着をシュヴァルツの腰に巻いていた。けちだな、ルドルフ。減るもんじゃないのに。


「なんだかとても幻想的でしたね」


 今まで静かに成り行きを見守っていたカールさんが、ほうっと息を漏らしながら言う。


「私はこれで二回目ですが、何度見ても感動的です」


 ジークさんも目を輝かせて言う。

 近いうちに二人も経験するんだよね、きっと。どんな魔獣が来てくれるのだろうか。



 一旦家に戻る。

 近くに契約する魔獣が来ればフェンリルが分かるそうだ。


「ねえねえ、シューって呼んでもいい?」

「主がお許しくだされば」

「どうせシュヴァルツと発音できないんだろう」


 シュヴァルツに聞けば、シュヴァルツはルドルフの顔を見て答え、ルドルフは笑いながら許可してくれた。日本語にない発音は難しい。ヴァとかヴェとか。


「それでね、シューは背中に翼があったよね、空も飛べる?」

「はい」

「あのね、背中に……」

「我も空を駆けることは出来る」


 背中に乗せて欲しいという前にフェンリルに遮られた。


「フェン、狼なのに空飛べるんだ! スゴイ」


 スゴイスゴイと何度も言えば、フェンリルが嬉しそうだ。


「そいえばリーエは馬に乗れるのか?」

「……乗れない」

「シュヴァルツはともかく、フェンリルの背中は乗りにくそうだな」

「落ちるかな?」

「我は主を落としたりしない!」


 フェンリルがふがふが言う。今度フェンリルの背中に乗せてもらおう。楽しみだ。


「そう言えば、長ったらしい名前にしなかったんだね」

「短くてもいい名だろう」

「うーん、短くはないけど、なんかシューはシューって感じがする」

「そうだろう、そうだろう」


 久しぶりにルドルフの鼻の穴が膨らんだ。

 後ろでカールさんとジークさんが、それを見てにやにやしていたらしい。






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