表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/78

20 契約

「いきなり何をする!」


 怒るルドルフに、私の体液を与えるとあの銀色狼の意思が伝わることを説明する。


「最初に説明したら嫌がると思って」


 そう言うと、むうっと黙った。だよね。

 再び指を舐め、ジークさんの口に入れようとしたら、ルドルフに指を掴まれて止められた。ひとまずはルドルフだけでいいそうだ。


 ルドルフが銀色狼を見る。銀色狼もルドルフを見返す。


『主、呼ばれた、来た、契』

「わかる?」

「……なんとなくわかる。主? 呼ぶ? 来る? 契、契約か?」

「そんな感じ」


 ルドルフにも伝わったみたいだ。ジークさんも興味深そうに見ている。


「お前と契約できるのか?」

『是』

「誰とでも出来るのか?」

『否』

「契約はリーエとするのか」

『是』

「俺とは出来ないのか」

『……是』

「その間は何だ」

『……』

「……契約するとどうなる」

『従う、守る、絆』


 ルドルフが銀色狼と話している間、ジークさんにも体液を与えようとしたのだが、さすがに断られた。


「まあ、他人の唾液を口に入れたくはないよね」

「いえ、そういうわけではありませんが……」


 嫌なら嫌って言ってもいいのに、ジークさんは優しい。でも心の中ではえんがちょ! って思っているのかもしれない。


「リーエ」


 指をえんがちょの形にしていじけていたら、ルドルフに呼ばれた。


「この魔獣を結界の中に入れられるか?」

「うーん、ここの部分だけ穴を開ければいい?」

「ああ、それでいい」


 魔獣除けの結界に触れながら、銀色狼の大きさの分だけ解除する。まさに穴を開ける感じだ。


 銀色狼がゆっくり結界の中に入ってきた。しっぽの先まで結界内に入ったのを確認して、穴を閉じる。

 間近で見ると更に大きい。


「触ってもいい?」


 見上げて聞けば、頷いてくれる。

 そーっと手を伸ばして、胸の辺りの毛をなでる。ふわっふわだ。もっと硬いのかと思っていたのに、ふわっふわだ。思わずもふっと抱きついた。


「リーエ!」


 ルドルフに引き剥がされた。


「ルドルフも触らせて貰いなよ」

「後でいい。それより先に契約をしろ」


 せっかちなルドルフに「はいはい」と言いながら、指の先を噛み、血を少し出す。ちょっと痛い。


 指先を銀色狼に向かって伸ばす。


「契約してくれる?」


 銀色狼が血の付いた指をぺろりと舐める。

 すると私の体から出た魔力が、ほわりと銀色狼を覆い、その体に吸い込まれていった。

 再び指先をぺろりと舐められると、噛んだ指が治っていた。


「ありがとう」

「我こそ主と契り、絆が結ばれ、喜ばしい」


 銀色狼がしゃべった。

 頭に浮かぶあの感じじゃなく、ちゃんと声? として聞こえる。ルドルフとジークさんにも聞こえているようで、驚いた顔をしている。


「言葉、話せるようになったんだね」

「主と契り、絆が出来た故」

「もう一度触ってもいい?」

「主の気が済むまで」


 なでりなでりとなでつつ、その輝く銀色の毛並みにもふっと抱きつく。抱きついて頬擦りし、ふがふがと匂いをかげば、草と太陽の匂いがした。


「古代魔法が使えるのか?」


 またもや私を引き剥がしながら、ルドルフが銀色狼に聞いている。


「汝の言う魔法とやらは知らぬが、力を使うことは出来る」

「……なるほどな、色々聞きたいことがあるが、答えて貰えるか」

「我の知ることなら」


 なんというか、賢い。

 昔、狼は大神と言われていたと聞いたことがある。


「主、名を」


 銀色狼に名を授けると、契約は更に強固なものになるらしい。

 一時的な契約なら血の契約だけでいい。

 名の契約まですると契約者の命に縛られ、生涯を共にすることとなる。


 解ったことをルドルフに話しながら、銀色狼に聞く。


「名を与えると、私の寿命に縛られることになるんだよ。

 あなたは私より長く生きてきて、更に長く生きることが出来るでしょう? 寿命を縮めることはないと思うよ」

「いや、良い。主と共に生きるが喜び。名を与え賜え」


 ルドルフを見ると頷いている。


「じゃあ……名を与えます。

 んー……、うん、汝の名はフェンリル、フェンリルと名付ける」

「我が名はフェンリル、フェンリルと名を賜う」


 再び私の体から出た魔力がフェンリルを覆う。更に絆が太くなったと感じる。

 フェンリルの体に魔力が吸い込まれると同時に、フェンリルの姿が一瞬ぶれたようになり、その姿が変わる。


 目の前に超絶イケメンが立っている!


「誰?」

「我だ、主」

「うそ! フェンリル?」

「名を賜ったので、主と同じ種族の姿に変わることが出来た」

「契約して名を与えると姿も変えられるのか……」


 ルドルフがふむふむと頷いている。

 いやいや、ふむふむじゃなよ。何このイケメン。目が潰れる。

 光を受けて輝く銀髪は眩しいほどで、涼しげな目元を彩る瞳は薄いグレー、いや銀色だ。今まで見たことが無いほどの美しい顔立ち。あのイケメンのハリウッドスターが霞むほどの美しさだ。

 背はルドルフより二十センチは高いだろうか。細く引き締まった体は、いわゆる細マッチョで、手足も長く、まるで彫像のようだ。

 うわーっと思いながらもじっくり観察してしまう。


 一人常識人のジークさんが、自分の上着をフェンリルの腰に巻いた。

 姿が変わったフェンリルは素っ裸だ。色々じっくり見てしまった。女二十六、羞恥より好奇心だ。あとでルドルフに怒られたのは言うまでもない。



 腰にジークさんの上着を巻いたフェンリルと一緒に、皆で家に戻る。


「なあ、フェンリルの名の由来は何だ?」

「私の世界の神話に出てくる大きな狼の名前だったと思う」

「……唯一の名ではないのか」


 ルドルフががっかりしている。

 自分ならあーする、こーする、と長ったらしい名前を挙げていたが、フェンリルは私の契約魔獣である、私の好きな名前でいい。分かりやすくていいじゃないか。長ったらしい名前なんて憶えられるわけがない。

 最初は、銀色だからギンにしようと思っていたのだが、やめてよかった。


 ルドルフのがっかり具合が、あの時の父に似ている。

 実家のシロはとてつもなく可愛いチワプーだった。

 当時十歳だった私が名付けを任され、白っぽかったのでシロと名付けた。

 見た目の可愛らしさ同様の、ラブリーな名前を希望していた父は、今のルドルフと同じく酷くがっかりと肩を落としており、せめてもと漢字で白露と書かれ、役所に届けられた。

 母と私は「カタカナでも可愛いのにねー」と言い合っていたので、私の名付けのセンスは母譲りだと思う。

 

 ギンに比べたら、フェンリルなんて格好いいじゃないか。私にしては上出来だ。


「ねぇねぇ、フェンリル。フェンリルって名は嫌だった?」

「嫌なわけあるまい。主から賜った名だ。たとえどのような名でも我は喜んだであろう」


 ……つまり何でも良かったってことか。ギンでも?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ